地下に広がる広大な世界
そんなこんなで囮を決められないまま一時間が過ぎた俺たちのクラスは適当に1人が決められることになった。その少年...確か源とかいったか、は太っていることが特徴の臆病そうな少年だった。そんな感じで囮を決めた俺たちは各クラスの人員を乗せた計12台のトラックで洞窟へと向かうことになった。
流石に恐竜の住処に潜り込むためか手錠の外された自由な身体でトラックの荷台から外を眺める。先ほど洞窟に入ってから数分、恐らくは数メートルは進んだだろうその時、霧が現れ始めた。洞窟の中に霧とはおかしいが、とにかく霧が現れた。そうして周囲のトラックすら見えない濃霧の中、急に持っていたコンパスがクルクルと回転し始める。磁気の異常だろうか?そう疑問を持ってしばらくして、その霧が晴れ、それと同時にコンパスの異常が戻る。再びの洞窟、しかし出口はすぐそこらしい。数百メートルはあると聴いていたが、それとは違う景色に疑問を持ち...洞窟を出ると同時にその疑問は驚愕へと変わった。
それは、森だった。しかもただの森ではない。少し見渡しただけでも見たことのない果実や花が咲き、少し遠くの地面には現代ではありえないレベルの巨大なアリのような昆虫がいる。最も驚くべきは空だ、木々に覆われてこそいるものの太陽の光らしきものが降り注いでいる。スマホを見れば圏外になってこそいるが、現在の時間は午後3時。どう考えても太陽は上空よりもすこし東の方、3時よりは午後12時半から13時半と言ったほうが適切だろう。スマホは役に立たないため腕時計の時間をとりあえず13時半に調節する。これで何があっても安心だろう。...安心?何を言っているのか、あの軍人は恐竜一匹だけで満足すると言っていた、それならその「何か」なんて起こるはずがないだろう?...本当に?
心の中で不安に思っていると、急に止まるトラック。どうやら近くには湖があり、ここで恐竜を待つことにしたらしい。途端、近くのトラックから囮に任命されたクラスメイト達が降ろされる。その中には白崎とも張り合えるだろう、しかし冷徹な瞳をした少女もいた。
どうやら彼女達をそれぞれ六か所に分けて探索させて、自分たちはその背後から着いていき恐竜が現れたら麻酔銃で捕獲、すぐに回収して戻る算段のようだ。囮には何も手錠等はないが、しかし発信機が付けられている。逃げられても問題はない、ということなのだろう。そもそもこんな地底世界(かどうかは疑わしいが)で逃げることはないだろうとの判断のようだが...。しかし、湖ねぇ。周りを見渡しても生物の気配はない。しばらくは安全だとは思うが...それでも湖である。しかもこんな地底世界だ、何がいてもおかしくはないが...と、何処かで鳥の鳴き声。いや、本当にこの声は鳥だろうか。オウムやトンビ、鷹などではない。水鳥や小鳥でもこの声はない。そう、先ほどの声は、まさしく昔映画として親から見せてもらった翼竜のような...。瞬間、どこかで轟く咆哮に全員が身構える。
...今の声は、なんだ?先ほどの仮称翼竜ではない。かと言って映像で聞いたラプトルでもない。そう、それはもっと大きな、何かの声ーーー。
そうして周囲がざわめく。何かが迫ってくるが、それが何かわからず全員が困惑する。すると走ってくる囮の少年。よく見るとそれはうちのクラスの源であった。涙を流しながら必死に走ってくる源に全員が眉を顰めーー。瞬間、その後ろから走ってくる何頭もの恐竜達。
『ーーー車を走らせろ!』
軍人の怒号により即座に車は反転し恐竜から逃げる。それに追い縋っていた源はしかしその太っているからだから追いつけず、隣にいた恐竜のハンマーとも呼べる尻尾にぶつかり吹き飛ばされる。鳴り響く骨が粉砕される音。胴体にぶつかった尻尾に吹き飛ばされた源はそのまま大木に衝突した。
その光景に息を呑むクラスメイト達。走っている車の中で軍人が俺に叫ぶ。
「ナンダアレハ!?イッタイナニガオコッテイル!」
「あれは、草食恐竜の群れだ。見た限り、アンキロサウルス、パラサウロロフス、ガリミムスなんかが混じっている。それが大勢であんなパニックになって走っているんだ、野生動物の狩りと同じだ。つまりーーー」
「何かから、逃げている。恐らくは大型の肉食恐竜から」
俺のその予測と同時、かなり近くで咆哮が聞こえる。背後から迫ってきたのは、予測通りの肉食恐竜。つまりーー。
「ティラノサウルス...!」
地上最強の肉食恐竜はその名に恥じない雄叫びをあげた。