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魔物専門掃除屋『D & C』の日常  作者: クロード
『Destroy & Cleanのアーカイブ』
7/38

その7

「しゃおらあああぁぁぁぁぁぁ!!」


 あの後、似たようなやりとりを3回ほど続けたシオンはやけに張り切っていた。単純な男である。先程とは段違いのペースで屋根を剥がして行った。


「うおおおぉぉぉぉ……ん? 何だコレ」


 その途中で藁の間に不自然に刺さった謎の宝石を見つけた。魔物の持ち物だろうか。


  ヒビも入っているし、濁っていて決して綺麗な物ではない。とはいえ売れるかもしれないし、とはいえクリスに聞いたら奪われるかもしれないし後でソフィアさんにでも何か聞くか、とそんなに重い物でもないので藁の束に突っ込んで一緒に下へ放り投げる。


「何やってんの、手が止まってるわよー」


「はいはい! 分かってますよー! 応援どーも!」


 作業の中断を目ざとく見つけて下から指摘するクリスにそう言い返す頃には既に、今の宝石は意識の端……それどころかもうメダルゲームが如く、意識の外へ弾き出されていた。


「これで終わり、っと。しゃあ! 終わったぜえええ!!」


「お疲れー。まっ、こっからが本番なんだけど」


「おいおい、水を差すな……えっ? お前、いつの間にきたん!?」


 柵に腰掛け達成感に浸っていたシオンを茶化したのはさっきまで下でヤジを飛ばしていたはずのクリス。どう考えても瞬間移動でもしていないと辻褄が合わない。しかも、彼女の手にはあの重いボルトカッターもどきが。


「瞬間移動か……?」


「馬鹿言わないで。んな事出来るわけないでしょ?」


「そ、そうだよな。流石に「アンタの声が聞こえたから梯子を蹴って来たのよ」


 シオンの中でクリスのあだ名が『赤い配管工』になった瞬間である。もちろん、言うと説明を求められ、最終的に怒られるので心の中に留めておく。ふざけた調子で「ぴょんぴょん、ってね」と擬音混じりに言う彼女を見て彼は、2回ジャンプしただけで着いたのかと思うだけで否定はしなかった。驚きはしたが。


 ————クリスタル・フォード。身体能力が高く、あらゆる武器を使いこなす。しかし、何故か剣だけは頑なに使いたがらない。


 1年近く一緒に働いているがシオンが彼女について知るのはそれくらい。過去に何かあったようだが、話したがらないし別に興味もない。


「何ぽかんとしてるわけ? さぁ、やるわよ。陽が落ちる前に!」


 クリスは下にいるソフィアに「お願いします」と合図すると、不思議な感覚が辺りを包んだ。2人はその場で軽くジャンプすると、重力から解き放たれたかのようにそのまま浮き始める。


「2人とも調子はどーぉ?」


「ばっちりっすよ!」


「いつも通りいい感じです!」


 これはソフィアの魔術によるもの。無重力……というよりは水中の状態を投影している。


 環境改変。この世界で彼女だけが使える神秘。空間に全く別の環境の状態を投影できる魔術。調節も可能だ。この魔術があれば熱砂の砂漠を色とりどりの花で満たすことも難しいことではない。逆に平和な世界を地獄に変えることすらも。全ては使い手次第。


 今、見張り台がある付近の空間は『調節』された水中だ。呼吸が可能で、それでいて液体の中にいるように浮力があり移動は自在。それなりに万能の魔術に見えるが使用者であるソフィアの消費が激しいため、継続して環境を変えるならば1時間。そのため時間が掛かりそうな藁葺きの撤去には使用しなかった。


「うんうん、じゃあ頑張ってねぇ」


「さっさと終わらせて来るからソフィアさんも頑張って!」


 空中を『泳ぎ』ながらシオンとクリスの2人はボルトカッターを手に、木で出来た屋根の下地に近づいた。


「あー、やっぱ針金だな」


「うわ、こんな雑なのでよく固定できてたわね……」


 がやがや騒ぎながら2人は固定用の針金を切っていく。その手際は決して良いとは言えないが、2人いるおかげかそれなりの速度で進む。


 固定を失った木材(というより切りっぱなしの丸太)はゆっくりと下に『沈む』。重量を全く感じさせないので頂上の床に狙って方向を変えるのも簡単だ。


「ソフィアさんがいねーとマジで地獄だったよな」


「本当よね。こーゆー時は確かアンタの世界だと……神様仏様ソフィア様、って言うんだっけ?」


「そーそー」


 藁葺きを剥がす時と打って変わって気楽に進む下地の解体はとんとん拍子に進んでいき、内容が無い会話をしている間に終わった。


「よーし、終わりーっ!」


「順調順調! 一回作戦会議しようぜー!」


「きゃあああぁぁぁぁぁぁ!?」


 一段落ついて喜んでいる2人の耳にソフィアのビックリしたような声が突き刺さる。


「な、なんだ!?」


「えっ、ちょっ!? ソフィアさん!? 大丈夫!?」


 シオンより先に急いで飛び降りたクリスも「何これ!?」と大きな声をあげていた。彼女の実力と経験を考えれば、余程の事ではないとそこまで驚愕の声を出す事はないはず。ならば、下で起こっているのは『余程の事』。


 自分なんかが行って何になるのかと思いながらも、シオンは急いで降りていく。


「おふたりさん! 無事か……って、ええーっ!?」


 そして、やっとこさたどり着いた彼が見たものは————、


「えっ、えっ? えーっ……何、これ?」


 さっき分解した藁が誰も触っていないのに動き、何かを形成している光景だった。オカルトじみているが、この世界ではあり得なくない。誰かが魔術で操っているのだろうか。


「うーん、なにか中心に強い魔力反応があるんだけどねぇ……」


「でも、何で? 私達を狙っての攻撃……は、ないか。回りくどいし、意味分かんないですし」


「あっ、無事だった! あれ is 何!? あと叫び声は!?」


 シオンは離れて藁を観察していた2人に近づいて、それを指差す。徐々に徐々に人型を形成している。


「多分、ゴーレムだと思うんだけど……」


「急に動き始めたからびっくりしちゃって……ごめんねぇ?」


「右に同じよ」


「それは良いけど……ゴーレム? あれが? もっとこう……石とかレンガとか」


 ゴーレムという言葉を聞いて数多の創作物で作られたイメージを思い浮かべていたシオンにとって、それと藁とを関連付けるのは結構至難の事だった。


「もちろんそれでも出来るけど、なんでも良いのよ。コアと素材がさえあれば」


「コア……素材……」


 その言葉を聞いて、チラリと絶賛形成中のゴーレムに目をやると、何となく感じた嫌な予感が意識の闇の中に葬られていた、そこら辺に捨てた宝石の事を引き上げる。


「こあ、ってどんなものなの? もしかしたら見たかも知れないから教えてくれると嬉しんだけど」


「あー、何でしたっけ? もう店でも出回らないんで思い出せないな……」


 思い出そうと頭を捻る2人を他所にシオンの顔からみるみる血の気が引いていく。


「こ、これっくらいのぉ……ぐにゃぐにゃー、って何か描かれたぁ……石、みたいなー、やつっすかね……」


 まさかとは思いつつもクリスにさっきの宝石の詳細を伝えてみた。違っててくれと切に願いながら。


「あー! そうそう、そんなの!」

 

 その願いは届かなかったようだが。


「おやまぁ、シオンちゃんは物知りねぇ」


「……いや、ホント。何でアンタが知ってんの?」


「あは、あはは……ははは……実は————」

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