その2
2人が振り返ると、そこにいたのは何色ものペンキをぶちまけたようなカラフルなデザインの同じパーカーを着た3人組。
その内の1人である、ボサボサの長い緑の髪をした厚底丸メガネの少女がちょっと震えながら赤い顔で、羽織ったパーカーのやや袖丈が長いせいで手が出ず余った、いわゆる『萌え袖』に当たる部分をブンブン振り回している。
「……お前らが『Y.O.L.O』か?」
「そう! イエスッッ!! イグザクトリィィィ!!! ワタシッ!!! いや、ワタシ達が『Y.O.L.O!』!!!」
「また珍妙な奴らが……最近ちょっと暑くなって来たからかな……」
彼女の姿を見て思わずクリスは頭が痛くなる。変なのがまた増えた。シオンもそう思っているのか疲れたようにため息を吐いて小さく首を振っている。
「さぁ! 我々も名乗ったのだから、貴公方も名乗るのです!」
興奮した口調で丸メガネ女は降っていた腕を「びしりっ!!」と口で効果音を出して、それに負けない勢いで2人に突き付けた。
「イヤよ」
「何でお前らに名乗らんといかんのだ」
とはいえ勢いが合っても答える義理はない。2人は相手にそれ以外の答えを考える余地もないほどキッパリと切り捨てる。妙な希望を与えないほど毅然とした態度なのは2人のせめてもの優しさだろうか。
「が、がーん!?」
そんな取り付く島もない掃除屋の態度にショックを受けたようで、強烈なボディブローでも食らったように崩れ落ちた丸メガネをフォローするために他の2人が駆け寄った。
「き、キャプテン! 落ち着いて! ほら、そこの冴えない奴の胸元とチビ女の方のスカート見てくださいよ!」
「えっ? あっ! 何か同じロゴある! でぃ、でぃー、あんど……しー? D & C!」
「きっと奴らの組織ッスよ! やったッス! 奴らの情報ゲットッス!!」
もう見るからに彼らが面倒臭く、またこのだるいテンションが続く事をを証明する茶番に、クリスは無表情で手元の爆弾を起爆待機の状態にして、喜ぶ3人組に投げ付ける。
「……えっ、何これ、爆弾?」「嘘ウソうそっ!?」「まじありえんッス!?」
「ぶっ飛べー」
困惑する3人組を他所に彼女は躊躇なく起爆スイッチを入れた。
轟く爆音、吹き荒ぶ熱風、巻き上がる煙幕。
「お、お前……」
「コッチのが手っ取り早いでしょ。死体も残らんし」
流石にやり過ぎだとビビるシオンにクリスは飄々と続ける。
道徳心ゼロの対応ではあったが、実行犯は彼女だし、その本人がそう言うから多分大丈夫なのだろう。シオンさ周りを見渡して誰もいないのを確認してから、自分に言い聞かせるように「な、ならいっか……」と唱え、胸を撫で下ろした。
「さて仕事の続き「う、ウェイウェイウェイ!! なーに済ませようとしてんの貴公がたァーーー!」
さっさと過ぎた事は忘れて本来の仕事を再開しようとしていた掃除屋に、そんな叫びと共に爆煙の向こうからちょっと煤けた丸メガネ女——『キャプテン』が現れた。
「チッ、しぶとい」
「しぶとい、じゃないわ! こちとら死ぬとこ……って、助手1!? 助手2ィィィ!?」
再び萌え袖をブンブン振り回して怒る彼女だったが、傍らに散らばっている破片を見ると、顔色を赤から青に変えて取り乱す。思えば爆煙が消えたが残りの2人がいない。吹き飛んだにしては臓物や血液がない。つまり彼らは————、
「えっ、さっきの奴らって……石像?」
「そうだけど何か悪いかァァァ!?」
「ワタシの自信作が粉々にぃぃぃ……」。そんな言葉と共に甲子園の土を拾う野球少年のように破片を集める彼女の姿を見て、2人は少し驚いていた。
シオンは「奴ら人間じゃないのか」という驚嘆。
一方のクリスは「全然、分からなかった」という落胆混じりの驚愕。
少し方向性の違う驚きだが、共通して思うのは、あのかなり精巧な人型の石像を作り、自然に指摘していたであろうキャプテンへの認識。
————もしかしたら、あの女スゴいのかも。
「……ふん!」
「うぉら!!」
彼女への認識が更新された瞬間、2人は全力であの人型のオブジェに何度も蹴りを叩き込む。
リーダーが「壊すな」「止めろ」と何かわちゃわちゃ叫んでいるが止める訳がない。破壊が目的なのだから。
これは過去、ミノタウロスの死体を残していたらそれを利用されて面倒な事態を引き起こしたシャグマ戦での反省を生かした行動。こんな『アレ』な見た目のに動かれたら堪らない。
「よし、こんなもんでいいでしょ」
「だべだべ」
「わ、ぁ……な、なんて事を……このひとでなしぃ……」
布の上からでも粉々になった事が分かる元・オブジェだったものの姿を見て、キャプテンは我が子が目の前で殺されたかのような絶望の表情を浮かべて小さく恨み言を放つ。
「で、アンタら何の用事があって私達を追っかけてたワケ? 事と次第によっては再起不能になるくらいボコボコにするけど」
安全を確保して自分達に有利な状況になったのを確認し、クリスは指をボキボキ鳴らしながらキャプテンに迫る。これではどちらが悪か分からない……というか、現時点の善悪の区分で考えれば間違いなく掃除屋側が悪いだろう。
「元はと言えば貴公らが悪いんだぞ! ワタシの愛しきベイビーを粗雑に扱うから!! なのに何その態度っ! 暴人猛々しい!!」
「で、そのガラク「ガラクタじゃない! ベイビーだと言ってるだろ!!」……えー、ベイビーとやらを粗雑に扱った私達にお灸でも据える手筈だったってワケ?」
「その通り! コレクトッ!! ザッツラアァァァイツッ!!!」
「うるせえ。何かやべーのでもキメてんのか」
シオンは冷静にツッコミを入れながら、クリスに迫られながらも怯えずこのうざったいハイテンションを続けるキャプテンに一種の畏敬の念らしきものを感じていた。それ以上にさっさと帰ってくれねーかな、とも思っているが。
「ふーん、じゃあどうする? お灸を据えてみる?」
「やるよ! やるに決まってるだろぉ! 子供が傷付けられて黙ってる親がいてたまるかよォォォ!!」
そう息巻いてクリスに飛び掛かったキャプテンの姿をシオンは、この後の展開を考えると何だか物悲しく眺めていた。




