【詩的エッセイ】夏の足音は今、聞こえるか
夏の足音が聞こえなくなって
もうどれくらい経つだろうか
フロントガラスから挿す陽光をクーラーの冷気で遮って
車の中から見渡す景色は爽やかに緑色だ
風が木々を揺らす音はさやさや
雲が流れる音はふほふほ
少し前までは前触れもなく雨が降り続いた
すぐにそれは終わり
終わってみると元通り
6月は今と変わらないほど既に暑かった
夏の足音を聞いた記憶がない
8月もそろそろ中旬
夏の去り行く足音が、そろそろ聞こえはじめる頃だ
いつもなら、そうだ
9月になった途端、秋になるのだろうか
それともまた雨が降り続き
すぐにそれが終わり
終わってみたら、また夏がそこにいるのだろうか
それなら夏を楽しもう
ヤケクソなわけではないが、楽しむしかない
冷え冷えのコーラを片手にハンドルを操作する
眼下には碧い川の流れ
とても冷たそうで、美しいように見える
あの中に今、飛び込んだら
水の精になれるかな
エンジンをかけているのがもったいないほどの山の中
静かにすれば聞こえてくるだろう鳥の歌
山の冷気に触れたくて
とても気持ちよさそうで、澄んでいるように見える
この森に今、包まれたなら
山の精になれるかな
そんな期待に鼻唄をこめて
車のエンジンを停めて
車のドアを颯爽と開けて
人界離れた外へ出た
むわっ
もわあああ〜〜っ!
あっちぃ〜……
急いで車に戻ってエンジンをかけた