#2
「千早キャプテ~ン! 大野先輩~!」
浜沿いの道路で巨乳の一年陸上部マネージャー、香住ひなが自転車に乗って、二人に呼び掛けながら追いつく。
「ひなちゃん、リク・・・・・・陸久 と 七隈君は? スカウトは上手くいった?」
歩美は走りながら、ひなの方を向いて彼女に尋ねる。
「ごめ、んなさ・・・・・・い、連れて、来れません・・・・・・でしたっ」
ひなが息を切らせながら歩美に答える。
「七隈君はトレーニングルームに居たんですけど・・・・・・」
数十分前、学園内のトレーニングルーム。
室内で筋トレをしているショートアフロの男子生徒がいた。彼はウエイトリフティング部の一年、七隈 晴翔。ウエイトリフティング部に所属しているだけあって、筋肉量が同じ高校生のそれとは比じゃない。
「陸上部だと? 走るだけか。フン、俺はウエイトリフティング部で忙しいから、帰った帰った。フン! フン!」
晴翔はひなから陸上部の勧誘を受けていたが、練習の邪魔だとダンベルで高速のアームカールをしながら彼女を追い返そうとする。
「七隈君が陸上部も助っ人で来てくれたら・・・・・・千早キャプテンが・・・・・・ひっ!」
「千早キャプテン・・・・・・?」
それから少しして、晴翔の勧誘は今日は無理だと判断したひなは、歩美の弟の陸久を探す事にした。陸久は陸上部所属なのだが、ある出来事がきっかけで部活の練習に顔を出さなくなったのだ。ひなは陸久を探し回るが・・・・・・。
「学校を探し回ったんですけど、千早君は見つけられませんでした」
ひなが申し訳なさそうに歩美に結果の報告をした。
「そう、ありがとう、ひなちゃん。リクの奴・・・・・・帰ったらとっちめてやる!」
歩美が残念そうな顔でひなに礼を言った後、鬼の形相で陸久への罰を口にする。
そんな彼女達の会話を後ろで聞きながら、佑は今の陸上部の現状を振り返った。
『僕達陸上部は、今年五月のインターハイ予選大会に出る事が出来なかった。男子キャプテンだった三年の平尾流星先輩が同じ陸上部三年の元女子キャプテン和白詩先輩を教室でビンタをしたという。
彼が起こした暴力事件がもとで陸上部は学園側から大会の棄権を言い渡され、棄権を余儀なくされた。男気があって、僕も憧れていた平尾先輩が何故そんな事件を起こしたのか、後輩の僕達にも分からなかった。
そして、結局、三年の先輩達は引退試合に出る事叶わず、そのまま引退してしまった。その出来事がきっかけで、陸上部内の男子部員と女子部員の間には亀裂が入り、すれ違いが多くなっていった。残された二年と一年は新コーチ、ジョンソン先生も含めてまとまりの無いチームになっていた・・・・・・。』