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清い涙と汚い涙

 朝日が差す、森の中。


 俺は師匠と向き合っていた。


「フィン。もう、儂からお前に教えることはもうない」


 俺は、十四歳になり来週に王都の学園、アラード学園に入学することになっている。


「はい。今までありがとうございました。師匠のおかげで俺、普通になれました!」


 来週には会えなくなると思うと少し悲しくなるが、別に一生の別れではない。


「あ、ああ、そうじゃな。しかし、お前には才能がある。もっと高みを目指したくなったらいつでも来い」


 師匠は笑顔で言う。


「ははっ、まさか。俺は普通がいいんですよ」


「そそ、そうじゃな」


 何か今日の師匠、様子が変だな。

 そうか、師匠も少しは悲しいんだな。


「では、師匠。最終試験お願いします」


「うむ」


 俺と、師匠は剣を構える。


 師匠からの最終試験。それは……『普通の儂に勝ってこそ本当の普通じゃ!』である。


 まあ、師匠を倒せば合格ってこと。


「はあっ!」

「ふっ!」


 二つの剣撃がぶつかり鉄を叩きつける鈍い音が響き渡る。火花が飛び散り、俺と師匠はさらに加速していく。


「ああああ、悪夢だ」


 近くでフォレスさんが俺の試験を観戦している。


 ソフィアは、危ないからと家にいてもらった。


 剣術はほぼ互角。


(なら……。『ストック2、消費魔力5000』)


 俺の発動した魔法『身体強化』。効果はその名の通り、身体能力の強化。それが、十倍になる。


「くっ……」


 当然、師匠は俺に追いつけなくなり防戦一方を強いられる。


 俺は、師匠の周りを縦横無尽に駆け回り剣を振り下ろす。

 だが、それは防がれた。


(クソッ、やっぱり反応してくるかっ。じゃあ、『ストック1、消費魔力10000』)


 燃やし尽くせ!


 オリジナル魔法。

 炎の龍が空を舞う。


 炎龍と俺は師匠を挟み攻撃する。


「『マジックバリア』」


「クソッ」


 師匠が土属性魔法『マジックバリア』を発動。

 効果は一定の時間、魔法攻撃を完全に防ぐ。


「下がれっ、炎龍!」


 使えなくなった炎龍を下げる。


「させぬ!」


 一閃。師匠が剣を振るう。


 瞬間、炎龍がかき消える。


「クソッ」


 剣で魔法を消すなんてチートかよ。

 でも、それが普通なのか。まだできないけど、近いうちに習得しないとな。


「はあっ!」


「っ!!」


 後ろから師匠の気配が。


 油断したっ!!


 すでに、剣は振り落とされている。


 とっさに、前方に転がる。


 ゴウッ。


 地面がえぐれる。


 何か、何か形勢逆転できる。魔法はないのか?!

 でも、いかんせん師匠の動きが速すぎ……て、そうか!


「『消費魔力、残った魔力九十パーセント持っていけっ!師匠の動きを、止めろ!』」


『確認。発動』


 効果時間は、一秒。少ない!


「ぐっ?!」


 だが、足りる。


「はあっ!」


 剣を横に一閃。

 斬撃が空気を斬り飛んでいく。


「ぐはっ」


 届いたっ。


 倒れ伏す、師匠。


「っ、はあっ、はあっ、はあっ……俺の勝ちですよね」


 師匠はよろよろと立ち上がり、


「うむ、合格じゃ」


「おっしゃぁああああああああ!!」


 約八年間、初めて師匠に勝つことができた。


 俺はその場に倒れ込む。


 これで、これで俺は普通だ!

 まあ、少し普通ではなかったけど、いいか。


「ああああ、終わりだぁ。元とはいえSランク冒険者に勝つ子供なんてぇ」


 フォレスが小刻みに震えて何かを呟いている。

 どこか涙目にもなっている気がする。


 そうか、俺が無事試験に合格できたことが嬉しいのか。フォレスさん、いい人だもんな。


「ぜ、ゼノムさん!あなたどうするんですか?!彼からは普通にって言われてたでしょ!どこに元Sランク冒険者を倒す、十四歳の少年がいるんですか!」


「こ、これっ!静かにせんか!だって仕方ないじゃろ?!どんどん強くなっていくんじゃから!」


「バレた時どうなっても知りませんからね!」


「怖い。フィンが本気出せば儂なぞ手におえんぞ」


「じゃあ、どうして育てたんですか?!」


「育てようが、育てまいが、あの魔法の前では関係ないじゃろ!」


「そこに剣術まで加えたのはあなたですよ!」


「師匠、あとフォレスさんも」


 なんか二人がこそこそ言い合っているようだったが、どうしても二人に言いたいことがあった。


「「は、はいぃぃ!」」


「そ、そんなに驚いてどうしたんですか?まあ、それよりも……。二人とも、今まで本当にありがとうございました。さっきも言いましたが、おかげで俺は普通になれました。これで友達が作れるでしょう。本当にありがとうございました」


 俺は素直に感謝の言葉を口に出す。


「……」


「ちょっ、ちょっと何で泣いてるんですか?!」


 師匠が涙を流していた。


 ああ、こんなに俺の成長が嬉しいのか。


 不思議と俺も目頭が熱くなり、気づけば涙が溢れていた。


「この老いぼれ。アンタ、彼の涙を見て何も思わないのか?」


「心が痛いから今、泣いているんじゃ。ああ、儂はなんてことを……」


「ぐすっ、今まで、ありが、とうございました」


「ああ、もう見てられません。フィンさん、本当にすみません」


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