婚約を破棄されたのに溺愛されてます
「サファメア・カトルーシ公爵令嬢。君との婚約は破棄だ!!やっと卒業を迎え・・・」
「貴様の悪行はわかっている!!」
「は・・・なんのこと・・・!?」
王立貴族学園の卒業パーティー。
あちらこちらから、別れをしのぶ声やすすり泣く音が聞こえる中、ホールの中央でKでYな大声が上がった。
1人の美しい卒業生と向かい合うように立つのは5人の卒業生。
先頭に立つのは、ルシオ第二王子。サファメアの婚約者である。そして、その王子の後ろに、両脇を男性に支えられて立つのは、メリティナ・フラリネス男爵令嬢。その周りを囲む、宰相の息子カテルド、騎士団長の息子ガンドレ、ウィカチネ公爵子息ゾンライ。
「とぼけるんじゃねぇ!!」
「そうだ。あなたは、嫉妬に荒れ狂い、メティを虐めたんだ。」
「嫉妬・・・!?」
サファメアが思わずついた溜息など気にも留めず、男性4人の会話は続いていく。カテルドが束にした紙を観客に見えるように掲げ、大声で叫ぶ。
「ここにメティの証言を記した紙もある!!」
「観念しろ!!」
「白状することを勧めるよ。」
サファメアは初めて慎重に口を開いた。
「はじめに、殿下。婚約破棄の件、喜んで・・・コホン、慎んでお受け致します。やっと、私は家を出て、国外へ出て行けます。」
誤魔化せてない。心の声駄々洩れだ。
「は・・・な、な、なっ、何言ってるの?こ、国外なんて行かせるわけないじゃない!?
サファメア!!国外ってどんなところか知ってる!?国が違うんだよ!?そんなところにサファメアが行くだなんて・・・僕、心配で城を破壊してしまうよ!!」
ルシオが取り乱して、サファメアに詰め寄る。
「しかし、私は婚約破棄された身。国内でまともな嫁ぎ先は見つかりません。国を出て、商人を目指してみようと思います。」
「商人!?国外なんて行かせないから!!」
「いいえ、出て行きます。」
「行かせない。」
「出て行きます。」
「行かせない。」
「出て行きます。」
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10分間ほど、言い合いを続けて、折れたのはルシオだった。
「わかった。サファメアには、自由が似合うよね。でも、もうサファメアに殿下って呼んでもらえないと思うと・・・」
「認めてくださいましたか!!・・・少し寂しいですね。」
「しょうがないんだ。人生、出会いもあれば、別れもある・・・。」
ルシオとサファメアの会話がひと段落したのをみて、すっかり蚊帳の外になっていたカテルド、ガンドレ、ゾンライが慌てて言う。
「待て‼︎逃げようとするな!!貴様には罪状があるぞ!!」
「メティを危険な目に合わせて、ただで済むと思うなよ!!」
「権力や金は使わさない。」
そんな男性陣にメリティナは、しなだれかかった。
「そんなぁ〜。皆様ぁ〜、罪だなんて〜。メティは、サファメアさんに謝ってもらえたらいいんですぅ〜。」
典型的な頭お花畑ヒロインだ。
喜びに浸っていたサファメアの機嫌は一気に急降下した。しかし、流石は公爵令嬢。そんなこと、噯にも出さない。
「そのことですが、私がフラリネス男爵令嬢を虐めたとはどういうことでしょうか。」
「貴様、覚えてないとは言わせないぞ!!メティの教科書を破いたり、メティを階段から突き落としたりしただろう!!メティが走り去る貴様の姿を見ていた!!」
男3人がサファメアに叫ぶのを見て、ルシオは彼女を庇うように立った。
「サファメアがそんなアホみたいなことをするはずがないじゃないか!?」
「殿下‼︎なぜそんな女を庇うんだ!!」
カテルド、ガンドレ、ゾンライ、そしてメリティナは、目を見開く。
「ルシオ様ぁ、騙されないでください〜。メティはずっとぉ、サファメアさんに虐められてたんですよぉ〜。殿下も知ってましたよねぇ。」
ルシオは眉を顰めながら、4人を睨む。
サファメアと2人で喋っていたときとは、打って変わって厳しい口調で言う。
「教科書を破ったというのはいつのことだ?」
王子は、メリティナを無視する。
「2月18日のことです!!」
「その日、サファメアは僕と一緒に、隣国の王太子の婚姻式に出ていたはずだが。そんなことも知らないのか。」
メリティナの顔が強張った。そして、男性3人の心も強張った。
「で、では、先日、西階段からメティを突き落とした、というのは。」
「西階段?あそこは今立ち入り禁止になっているはずだが。ひと月ほど前から野犬と野良猫が集まっているんだ。」
野犬と野良猫って共存するのか、と観客は全員現実逃避した。
そして、そんな観客にお構いなくルシオは話を進める。
「そんな・・・。」
「お前たちみたいなバカのせいで、サファメアが国を出ることになったではないか。しかも、私が3年かかって考えた1367文字の求婚の言葉も途中で遮って。」
「1367文字とは?」
「僕と君が学園に入ってから、共に過ごした日数だよ。サファメア。」
愛が重い。
「僕の求婚を・・・コホン、卒業パーティーを台無しにした罪は重い。
国王、王妃両陛下、この責任は私にあります。僕を廃嫡してください。」
そう。王子が卒業する年とあって、今回の卒業パーティーには、国王と王妃も出席していたのである。
ルシオは2人の前で膝をつく。
そして、先ほどまで静観していた国王は、ルシオの言葉に頭を抱える。
「そんなこと簡単にできるわけがなかろう。お前は昔から、サファメア嬢のことになると突っ走る。そもそも、お前の責任ではないだろう。王子よ。」
「いいえ、先日、カテルドから渡された紙を読まなかった私の責任です。おそらく、今日のことが書いてあったのでしょう。重要書類だと言っていましたが、私は大したことは書いてないだろうと、万年筆の試し書きに使ってしまいました。」
国王は深〜くため息をついた。
「ともかく、そんなことでは、廃嫡はできん。カテルド、ガンドレ、ゾンライ、そして、フラリネス男爵令嬢、場を乱した沙汰は追って伝える。それまでは謹慎しておけ。」
国王と王妃が退出し、顔をあげたサファメアはルシオに駆け寄った。
「何をおっしゃっているのです!?廃嫡など・・・。」
「言ったじゃないか。人生には、出会いもあれば、別れもあると。これは、僕らと貴族社会との別れなんだよ。」
そっちかい。
サファメアは淑女の仮面を忘れてしまったのであった。
そして、国王に謹慎を命じられ、うなだれている男性3人をみて、幼いころから言わないと決めていたことを思わず呟いてしまった。
ゾンライ、ドンマイ。ガンドレ、頑張れ。そして、カテルド、負けとるど・・・・・・と。
ーーー後日。
サファメアは商人になることが夢だったと、なんとか両親を説得し、国を出るための馬車に乗っていた。
「すみません!!ストーカーに追われているんです!助けてください!!」
後ろから聞こえた声に、サファメアは、馬車を止めて御者に確認を頼んだ。
「お嬢様。危険人物ではありません。どうされますか。」
「なら、乗せて差し上げましょう。」
扉を開けて、乗ってきた人物にサファメアは、驚きの声を上げた。
「殿下⁉︎何をなさっているのです⁉︎」
「殿下じゃないよ。君と同じ、ただの平民のルシオだ。」
ルシオはドヤ顔ーーーキリリとした顔で、サファメアの隣に座った。
わずか3センチほどの距離で。
「近いですよ!?というか、ストーカーって、あれ、近衛隊長じゃないですか!?」
「付いてくるなといっても付いてくるんだから、ストーカーだよ。ストーカー。それに、国境は、夫婦一緒に越えたいんだ。」
「夫婦ってなんですか!?私、婚姻した覚えないですけど。」
「覚えてないのかい?5歳の頃、婚約同意書と一緒に婚姻誓約書にもサインしたじゃないか。それを提出してきたんだ。」
ルシオがサラッと言う。
「勝手に提出しないでくださいよ。5歳の頃なんて、覚えているわけがないじゃないですか!?」
「ふふふ。愛してるよ、僕の奥さん。商売が落ち着いたら、式を挙げようね。」
嬉しそうに言うルシオに真っ赤になったサファメアは、せめてもの抵抗として、ルシオの胸をポンと叩いた。
彼女は知らない。ルシオの求婚を邪魔した4人が、平民に落とされて辺境に送られたことを。
彼女は知らない。4人が一生結婚できないことを。
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「前世の記憶がよみがえったので、叫びました。そうしたら、溺愛されました。」https://ncode.syosetu.com/n6906he/ (短編です)
「転生した悪役令嬢は「世界征服」を目標に奮闘する」
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