7話 エンディングは踊ると決まっています
「ぐっ」
すぐに剣を出し、自身を守るように翳した。
さすが旦那様。魔法剣士として、この国一番の実力と謳われているだけある。
とても速い。
その剣の背に、私の拳が当たる。
ぶつかり合ったところから火花が散った。
これが私の力。
すごいわ!
感動する私とは対照的に、旦那様は困惑した様子で、火花がと驚いていた。
さらにもう片方の拳を振り切ると、同じように剣の背でガードされる。
「旦那様、大丈夫です! 痛いのは一瞬ですから!」
「ふ、ざけるな!」
さすが旦那様、私の殴打も蹴りも全て受けかわされている。
強化して速さと強さを引き上げているのに、旦那様は反撃すらしなくて済む程度。
余裕がある。
けど、私の使命。譲れない思いがある。それだけで強くなれるのだわ。
「ラングは負けません! どんな時でも!」
「だから、何を」
「私達は戦士なのです!」
「はあ?」
「このように魔法を自身にかけて戦うのです!」
「もういい!」
そんな作り話、王都の図書館にあったかと小さく囁く旦那様の声が聞こえた。
洗脳が響いているのか、本来の話を理解できないのは仕方ない。
「旦那様を取り戻すため! 手加減は致しません!」
「なっ」
強化をさらに強めた。
大地に流れた拳が、そのまま土ごと飛ばして穴があく。
「……そうか、そういえば」
旦那様が私の幼少期の話を始めた。
領地内で走り回っていた時の話だ。
「そうですね、そういえばよく走っては、跳んでみたり、ラングの真似事はしていたかもしれません」
「あれが訓練か……」
もしかしたら、ずっと前世の記憶を思いだそうしていたのかもしれない。
年齢としてはデビュタントの歳に、私は戦士として目覚めるはずだったわけで。
「あ」
「……」
「隙ありです!」
私と同じように、過去の思い出に耽っていたのだろうか、旦那様に隙ができた。
剣の防御の隙間、腹部に殴打をしてみるも、即座に自身の身体を強化してしまう。
「ぐ……」
唸り声をあげてもダメージは一切無し。
中々うまいこといかないものね。
「まだです!」
さらに追撃で、蹴りを。
その蹴りを避けられるも、その振り下ろされた蹴りが大地をまたまた抉った。
強化が足りないかしら。
洗脳を解くには、さらに強化をすべき?
けど、私の魔力調整は、このあたりがギリギリだ。
やはり旦那様、スプレ四幹部の一人だけはある。
「さすが旦那様! いえ、エスパダです!」
敵ながら天晴れだと笑うと、旦那様の眉間に皺が寄った。
結婚する前は、こうして私の遊びに付き合ってくれたこともあった。
旦那様は訓練だとか言っていたけど。
結婚してからは、公爵家の女主人として手本のような振る舞いをと思って、走り回ることはしなくなっていたけど、やはりこういうことをしてる方が楽しい。
ああ、いけないわ。旦那様を救うのが目的なのだから、不謹慎だったかしら。
「っ」
畳みかけるように、勢いを増した。
戦士としての戦い方は、この国では見たことがないはずのものだろう。
知られていない戦いの型、対武器にも対応できる流れ、どれも知らないが故に不利の旦那様がここまで対応出来るなんて。
と、ほんの少しバランスを崩した。
その隙を見てひっくり返してみたけど、綺麗に着地されてしまう。
投げもだめというの。
「くっ」
膝をつくだけで済んでいるのに、納得がいかないといった様子だった。
洗脳の内に、悪の四幹部の一人エスパダは、私達ラングには負けてはならない、という常識が刷り込まれている。
だからこその反応だろう。
「クラシオン」
「カミラ」
名を呼ばれ、振り返ると、扉にカミラが立っていた。
今日はここまで。
「クラシオン、時間切れよ」
「分かったわ」
王女殿下として、訪問時間は、この程度が関の山。
長すぎれば、様子を見に誰かが来てしまう。
なるたけ大事にしないようにしたかったから、それも兼ねて考えてくれた時間がきてしまった。
「今日はここまでですか……」
片手を空に掲げる。
アンヘリカが指で了承してくれるのが見えた。
「……な、」
「では」
鼻歌交じりにメロディーを奏で始める。
お願いした通り、私にだけ光が当たった。所謂スポットライトというものだ。
さすがアンヘリカ、魔法の実技、実は私より実力上なのではと常に思っていた。
想像通りの魔法に嬉しくなった。
ああ、やはりここはスプレンダーの世界なのだわ。
「な、何をしている?」
旦那様が見たことないぐらい驚いて私を見ていた。
「あら、旦那様。ラングシリーズでは鉄則ですわ」
「は?」
開いた口が塞がらないままの旦那様に対し、私は見た通り、楽しんで歌い踊っている。
そう、それがラングシリーズのエンディング。
テレビの前の皆と歌って踊る時間だ。
社交界でのダンスとも違う、オーケストラが奏でる音色とも違う。
誰も知らないけれど、これから皆が知ることになる新しい歌と踊り。
「エンディングは踊ると決まっています!」
「はあ?」
「ああ。もちろん二期でも踊るのですが」
「何の話だ」
「あ、オープニングでも踊るものが、シリーズの中にもありまして、十年目の」
「いやもういい!」
「旦那様はスプレの後期エンディングから踊られますよ! ご安心ください!」
「何を安心しろと!」
旦那様はやめろと叫ぶけれど、お構いなしに踊り続ける。
鉄則は守らないと。
「くそっ」
なんなんだ、今日はと旦那様が叫んだ。
たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。