最終話 四年後(旦那様視点)
あれから四年の月日が経った。
「正義の戦士、フスティーシア!」
「癒しの戦士、クラシオン!」
今日も庭は騒がしい。
慣れてしまったとはいえ、自分の妻と娘が戦士と称してポーズをとっているのを眺める事になるなんて、四年前は露程も考えていなかった。
「お父様?」
ひょっこり私の近くにやって来た可愛い娘に微笑みかける。
クラシオンに似て日々可愛らしく成長していくが、この愛しい娘に驚かされてばかりだ。
「まさか記憶とやらが、クラシオンではなくフスティーシアのものだったとはな……」
「お父様、それはなんどもききました」
年齢の割にしっかり話す娘は、生まれた瞬間にクラシオンが全てを理解したせいもあり、言葉を発するようになって最初に訴えたのが、転生者は自分というものだった。
「でもよかったです」
「ん?」
「だって、あのままだと私、うまれることができなかった」
目の前で飛び蹴りと必殺技の練習をする自身の母親を見つめながら、フスティーシアは嬉しそうに目を細める。
「だから、お母様にみせたんです」
「スプレとスプリミだな」
「はい」
にっこり笑う娘に私はめっぽう弱い。妻であるクラシオンにも弱いし、娘にも弱いとなると、いかんせん父親として示しがつかないなと最近は困り果てている。
「ずっとお母様のそばにいたんです」
「ティアが?」
「ええ。お母様がデビュタントをむかえてからずっと」
「それは、」
「お父様がお母様をさけはじめてからですね」
なんとなく咎められているような気がした。ティアはかまわず続けた。
「やっとあたらしくうまれかわれるって降りてきたのに、お父様ったら、お母さまのことさけて」
「う……」
「まあ結果的に、お父様がお母様にてをだせてよかったです」
「な、ティア……」
大丈夫です、寝所でのことは見てません、と軽々しく言ってのけた。不可思議な発言はこの際目を瞑っても、寝所での夫婦の事について理解している様は見過ごせない。手を出すなんて言葉を使うのも駄目だ。
「わたしとしても、あの変態……オスクロを倒してくれたのはたすかりましたし」
「あ、ああ」
オスクロはティアがおしと言っていたな。
しかし彼女の言う通り、スプレとスプリミの記憶を元にクラシオンが動いてくれなかったら、一生私はクラシオンと向き合えなかったかもしれない。そう思うと、そのきっかけをくれたフスティーシアには感謝しても足りないだろう。
「ティアには一生頭が上がらない気がしてきた」
「光栄です」
年齢に見合わない所作と言葉。前世の記憶だって子供だったのではなかったのだろうか。
「旦那様!」
「どうした、クラシオン」
慌てた様子でクラシオンが走り寄ってくる。
大変ですと訴えてくる。ああ、これは今までの経験からなんとなく分かるぞ。
「スプレか? スプリミか?」
「いいえ、ラングは関係ありません!」
「ん?」
「今度は特撮シリーズです! 六作目ですわ!」
「……はい?」
新たに夢を見たらしい。
朝の戦士としての日課を終えたから、やっと話せると意気揚々としているクラシオン曰く、あにめではなくとくさつというもので出来た、てれびというもので見る作品らしい。
「大丈夫です。旦那様は敵ではなく、主人公の味方ですわ! 相棒とも呼ぶべき二番目の戦士なのです!」
「そ、そうか……」
「私は三番目の戦士ですわ!」
頭を抱えたい。
正直、ラングのシリーズだけで充分だったのだが。未だスプレとスプリミのオープニングとエンディングを娘と欠かさずしているのに、これ以上増えると?
隣の娘が、面白そうに笑っていた。
「お父様たいへんですわね」
「ティア」
「弟の誕生をこころまちにしております」
「次は男の子か」
娘の爆弾発言に驚いたものの、それ以前に遠くを見てしまう。
子供を作る度に、何かの作品が待ち受けているのか。いや、以前のラングシリーズのおかげで、国の内部再編という意味では良い方向に動いたし、不穏分子の一掃も出来た。国民の王や貴族への溝も今回の件で緩和された部分もある。あれだけふざけていたのに、結果を見ると良い事が重なっているから不思議なものだ。
いや、だからといって、とくさつものを許容するのもどうなのか。
「さあ、旦那様! 敵は既に潜り込んでいます! 先手を打たれる前に、こちらからうってでましょう!」
私の愛する妻は今日もこれからも変わりなく楽しそうだ。
これにて完結です。最後までお読み頂きありがとうございました!




