52話 最終回のエンディングはオープニング曲が流れる
「ルフ・フォルムラリオ！」
「おお！」
「いつ用意したんだ……」
「はい！ いつもの仕立て屋に」
「いい仕事するじゃん、そいつ」
スプリミ、オスクロ最終戦にて私達は新たな力に目覚める。その証として衣装が変わるのだ。
いいじゃん、ばっちりとオスクロが褒めちぎってくれた。変身を終えた私を嬉しそうにじっくり見ている。それを見て旦那様は眉を寄せ不快感を顕わにした。
「私の妻をそこまで見ないでもらいたい」
「リア充の言う事は聞かない主義でーす」
「くそっ。クラシオンはおしじゃないのだろう!?」
「元々箱推しつったじゃん。最愛がティアちゃんなだけで、他の四人もきちんと推しだぜ？」
俺ってば度量がでかくてーと揶揄し、その言葉に肩を震わせる旦那様。完全にオスクロのペースに飲まれてしまっているわ。
「旦那様、オスクロの言うことを鵜呑みにしてはいけません」
「え、ああ、そうだな」
「パワーアップした私は一時的にオスクロを凌駕しているはずです。一気にいきましょう」
「あ、ああ」
駆ければ身が軽い。オスクロの攻撃もよく見えた。
旦那様がマヌエルの言う通りになったと呟いている。ここでライムンダ侯爵の名前が出るなんて不思議ね。
「げえ、魔法使ってないのにパワーアップすんの？ ガチで原作通りじゃん」
オスクロの攻撃を避けつつも肉薄、その拳を打ち込むことができた。強化して受けたとはいえ、ダメージになっているよう。
旦那様が効果が出てきたかと安心しているのが見えた。
「クラシオン」
「旦那様」
「奴の動きを止めるから、最後を任せてもいいか？」
「はい、いけます！」
黙って頷いて微笑んだ旦那様は、オスクロに駆け剣を振るった。オスクロは魔法で障壁を出して防いでいる。
「リンたんとの戦い邪魔すんなよ」
「気軽に愛称で呼ぶな」
「うっぜ」
折角二人きりで戦えるように場所変えたのにとオスクロが舌打ちをした。確かにスプレでもスプリミでも旦那様が最終戦にいたことはなかった。オスクロ戦の前に、お前達に任せると言って背中を押してくれる。そこで私達はオスクロと戦う最後の舞台へ向かい、戦いに勝利して帰ってくるのが本編だ。
やはりずれが起きているのね。仕方のないことだわ。私の目覚めが遅かったところから今にきているなら、この結果も頷ける。
さらに剣が振られ、魔法の力同士がぶつかり火花が散った。
「ん？ なんだ、これ」
「……やっとか」
音を流す。大丈夫、皆が力をくれるのだわ。旦那様だって手伝ってくれている。
「五人の愛を今ここに！」
「夜明けが包み込む光！」
旦那様がオスクロの相手をしている間に集中しなければ。
「リア充、お前何かしたな？」
「正確に言うなら、私だけではない」
「……あー、あの宰相と王女かよ」
これが、最後の必殺技だわ。
「照らす心が高める力！」
「目覚める平和の喜び！」
一段階バージョンアップした五人の必殺技も当然威力が違う。
それを今、肌で感じる。これならオスクロに勝てるわ。
「伝播する正義への道！」
「闇夜を貫く愛の輝き！」
旦那様はさらに剣を振るっていた。
「俺の力吸いつくす気か。ちっ、面倒な魔法仕掛けやがって」
「ここまできて、話せるのは予想外だ」
「ラスボスだかんな。けど、癪。壊すか」
「させるか」
旦那様の一太刀がオスクロに入った。強化していたもののダメージをくらい、身体がぐらりと傾いた。
「リミテ・エスペシアル!!」
怪我を治癒魔法で治しながら、顔をあげたオスクロが必殺技を放った私を見やる。
「え……ティア、ちゃん？」
「？」
「あー、そういうわけ」
「え？」
「ティアちゃんにトドメ刺されるなら本望だわー」
ドーン！
「成敗！」
バーン！
オスクロは最後、何かを納得したように頷いて、私達の攻撃を受けた。本来の魔法の抵抗力を考えるなら、倒せるとは思ってなかった。けど、悪を貫き通せたこの力は、本当に五人の力が一つになった証なのだわ。
「や、やれたのか？」
「ええ、旦那様」
旦那様がオスクロを拘束する。
よくよく見れば、戦いの場所は王城敷地内だった。私達を探し当てたのか、旦那様が連絡をとったのかは分からないけど、騎士達の足音が近づいてくる。
合流すれば旦那様が迅速に指示を出し、倒れるオスクロを捕縛して連れて行った。同時、ライムンダ侯爵とアンヘリカ、カミラがやってきて言葉をかけてくれる。旦那様が三人にお礼を言っているのを見て、私も心の中でフスティーシア達に感謝の気持ちを送ることにした。遠くてもきっと伝わるはずだわ。
そうして皆が去り、自然とこの場は旦那様と私だけになる。
「ついに最終回がきたのですね」
「え……まさか、踊るのか？」
旦那様は覚えててくれたよう。洗脳されていた頃に、エンディングを踊ると説明したこともあったわね。
「いいえ、旦那様。シリーズ通して最終回のエンディングはオープニング曲が流れるのです」
「そう、か」
でも流れるのかと旦那様がなんとも言えない顔をしていた。
私と旦那様が笑顔でいるシーンも入るのだけど、再現してくれるかしら。
たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。
