生徒確認。1、2...3?
「日向...日向......」
何度目かも分からない呼び掛けに一向に目を覚まさない僕の幼馴染は、無防備にも仰向けで脱力しきっている。
だから、勝手に彼女の頭を持ち上げて膝枕。
彼女の微細な表情の変化を、生きているってサインを見逃さないよう真上から瞬きを忘れて見守った。
「ねぇ、日向。そろそろ起きてよ。
死んだフリは...もういいからさ...
いつもみたいに...笑ってよ...」
無理に作ったような笑顔を貼り付けて、彼女の頬を人差し指でぷにーっと突くが反応はなかった。
風でショートの髪が揺れるだけで。
本当に死んでんしまったかのように眉の一つもピクリとも動かないから、次第に不安が込み上げ僕の頬を汗が伝う。
君の性格なら、なんてね、翔。驚いた?
何かあれば心配する僕をおちょくって。
心底嬉しそうに可愛いなぁ〜お前は。よしよしと頭を撫でてくる。
同年代なのにやたらお姉さんぶった立ち振る舞いをする。
これがいつもの流れなのだが、その時は訪れない。
正直言って見下ろされているようで、なんだか嫌いだった。
身長的に見下されるのは事実そうだったけど。
嫌いだったけど、そのイタズラっぽい笑みは....嫌い言うよりどちらかと言えば...好きだった。
なのに..なのに...
...日向...
轢かれたってことなら翔も同じだが、不思議と今はピンピンしている。
つまり、彼女も生きている筈だと更に肩に揺すりをかけるのだが状況に嬉しい変化はなかった。
「......いつもみたいに笑ってよ
ねぇ....いつもみたいに...僕をからかってよ
お願いだから」
壊れたように僕からは『いつもみたいに』連発で、それだけが零れた。
ただ、いつものようによく笑うキミが居てくれればと、思いから。
浮かれ過ぎた僕のせいでこんな事になったのを目の前の現実からひしひし伝わって。
自責の念が込み上げても後悔してももう遅いが。
悔やんでも悔やみきれない。
歯を噛み締めるも不思議と涙は零れてくれなかった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「イタタッ.....痛くない..かも...。あれ?」
翔の背後で1人の少女は目を覚まし身体をゆっくり起こし座りこむと。
反射的に頭を抑えた手、のひらを見て目を見開いた。
出血がない?のを凝視してフリーズしていた。
確か...後ろからトラックが迫ってきて....鮮明な映像が頭の中で流れてあたかも体験したような真実味を帯びていたが、だがどうだ。
キョロキョロと首を振っていたが、その姿は幻だったかのように痕跡はなく、?だけが頭に浮かぶ。
さっきのが夢なら...なんで私、転んでるんだろう。...優子ちゃんどこに行ったんだろう...。
それどころか先を歩いていた人達の姿形がない。この光景が異様だと思えて仕方ない。
パタパタとスカートについた砂を、セーラー服についた埃を払い立ち上がる。
周囲をパッと見で視認できたのは見慣れた雰囲気を醸し出す校舎と...後ろを振り返れば、
「...さっきの可愛い顔の男の子が....」そして、
「...膝枕してる...」視点を横たわる少女と彼に留めた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
校舎の2階から窓越しに3人を見ていた人物は首を捻っていた。
「ええっと...
男子生徒が1名と女子生徒が2名
....あれ...可笑しいですねぇ......」
手元にある資料らしきプリントを捲って、捲って、捲れない。
3枚目を探すも端から手元には2枚しかなかったのだから何も可笑しい点はないのだが。
「...不思議なこともありますね
...まぁ、いいでしょう」
男は出迎えの準備をすべくその場を歩き立ち去った。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
悲しいとか、泣きたいとか。
そんな感情は一切僕にはなかった。
ただ、今は...よく知った君の顔をじっと無心で見ていたかった。
小さい時から一緒に過ごす時間は多かったとはいえ、彼女をこうゆう機会でもなければまじまじ観察することはなかったから。
幼馴染として、ただの友達としての視点からしか彼女を見てこなかったけど、こう意識してみると...随分と女性らしく...可愛らしくなっていたと気付かされた。身長も僕より高い。目鼻立ち整っていて、大人っぽい。喋らなければ...本当にお姉さんみたい。
目新しい、学校のスカートを履いていることも相まって、相乗効果だろうけどね。
男性とは明らかに違う細身の柔らかそうな体格や小さな手。
衣服か髪か。香る、さっぱりとした柑橘系。
柔らかかった頬っぺた、しっとり柔らかそうな唇に思わず視線が釘付けに。...おっと。
適度に膨らみを帯びた胸がセーラー服越しのラインとなって目に見える。って...そこを凝視しするのは失礼か....。
「胸...そうだ、胸だよ胸。そうだった」
ブツブツと呟きながら丁寧に、日向の頭をレンガ造りの地に下ろし。
翔は覆い被さるように膨らみに耳を当てる。現場を第三者の少女は呼吸をすることを忘れたように見入って瞠目した。
(トクン......トクン.....トクン....)
しっかりとした鼓動を確認できただけでほっとした。
なんでもっと早くにそれをやらなかったのかとも。
自分で過小評価するのもあれだけど、僕は、結構抜けてる人間だと思う。デリカシーが欠如してるかもしれないと思うこともしばしばあるし実際よく言われる、日向に。
(トクン...トクン...トクン..トクン.トクン)
みるみるうちに...聞く聞くうちに鼓動の間隔が狭まって、寧ろ心配になって、ちょっぴり名残惜しいながらもおっぱいの感触にお別れを告げた。
服越しでも微かに柔らかかった...何も口には出さず、日向の顔色を窺った。
「...こんなにも考え無しで、大胆で
...馬鹿な事するのは.....翔、だよねぇ......
覚悟は出来てるんでしょうね...」
目をまだ開けてないながらも、口は動き出して、眉はピクついて。正常な挙動の確認、一安心。喜びも束の間。僕は言い訳の1つや2つを考えるために必死に頭を回すこととなった。
「誤解しないで欲しいんだけど、これには事情があってね...」
ふぅーん?(さっさと言いなさいよ)。と、ばかりに身を起こした。開眼して、キリッと怒り心頭の鋭いものを向けてくるから、身が縮こまり小さい僕が更に小さくなった。だが、言わせてもらおう、ハッキリと。
「心臓の鼓動の確認をしようと」
「アンタ正真正銘の馬鹿でしょ!
それなら手の脈取ってくれれば良かったじゃん!
常識ある普通の人ならそうするからっ!」
「....確かに」
その手があったか。また今日も1つ利口になった。うんうん。
「勝手に納得したように頷かないのっ!...馬鹿、変態...」
喚かれながら己の浅はかさをまた理解したが、僕はまだまだ子供なんだ。これからの人生で少しずつ学んで、立派な大人になればいいと思う。
うん、そうだよ。子供だからセーフってことで____
「.....私、もう
...お嫁に行けない...泣きたい...ぐすん...」
「そんな...大袈裟な...」
「勝手に決めないでよ...
私の気持ち...何一つ知らないくせに...」
「...ごめん」
____顔を両手で覆って鼻を啜り出してしまった。
まさか泣き始めるなんて。
流石にフォローが必要のようだ。
僕は尻拭いのためゆっくり口を開いた。
「大丈夫。日向は笑った顔は可愛いし、
(喋らなければ)とっても大人っぽくて充分魅力的な女性だと思うよ
僕が保証する」
(え..ええ?ええええーーーー!?)
私にも、他の女性にも、まるで興味を示さない厄介な変な幼馴染だとそう認識していた、翔のこと。
同時に本当に厄介な相手に惹かれちゃたなぁ...とも。
胸元に密着されたのは...恥ずかしかったけど、そんな事では私は泣かない。翔じゃなかったら、グーだの蹴りだのは飛ぶだろうけど。
今回も意地悪に過ぎなかった。でも、とんだ収穫があった。
翔がどうゆう目で私を見ていたのかということを知ることになった。
彼も1人の男ということだろう。
嬉しいことに彼の認識を改めざるを得ない。
だって、だって私の事....
両の手の内なるところではポンと顔を赤くして紅潮していた私だけど、翔は知ってか知らずにか追撃という猛攻を決行する。..鬼畜め〜...。
だけど、やっぱり気なって隙間から彼の表情を盗み見る。
その言葉は本心からか慰めのものか見定めるべく。
「いつも隣から見ていた僕が言うんだ、間違いない。」
(い..いつも見ていた...わ..私を....異性として?)
嬉しくてわなわなと手が震える。
「なんやかんや言って面倒見良いし、優しいし」
(うっ!...はうっ!?...)
1人嬉しさに悶える、幸せ過剰なこの時間が早く過ぎることを念じた。
このままでは私、嬉しすぎてショック死....いや、嬉死してしまいそうで。
「日向は将来、最高のお嫁さんになれる
絶対だ。保証する」
最後の彼の強烈スマイルに合わせ強烈な幸せの暴力。私をノックダウンするには余裕だった。
私がお嫁さんになれることを保証する
↓
翔が責任を持って日向を幸せにする
↓
翔と日向の結婚
きゅ〜....バタンと私は地に伏せ空を映す。
満面の緩み切った下心丸出しの笑みを浮かべてしまったに違いない。
「大丈夫日向!?しっかりして!?」
「私が...翔の...お嫁さんになれる
えへへ...へへへへへ...」
「......」
言ってない、言ってないとは思いつつも少年は否定をしなかった。
こうゆうことを平気で言わなければ、大人っぽいのになぁ...と。
魅力でもありマイナスポイントでもある彼女の失言に笑みが浮かび、ようやく周りを観察する余裕が僕に生まれた。
あ。もう一人..ここには倒れていたんだっけ。
確か____
「君には...先客が居たんだね、残念....」
____ショタ美さん。目が会うなり笑顔が向けられたが、それが純粋な笑顔か苦笑いか僕には判断出来なかった。