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7.追憶

(お詫び)

大変申し訳ありませんが、この「追憶」については、「ユニバルがルクスを捜索隊に推薦した」ルートに変更いたしました。

「あ、ありがとうございます!」


 ルクスの心に安堵と歓喜が広がった。


 ここまで来たかいがあった!


「君は自分自身の欠点を『変身能力』として開花させた。その着眼点と根気は称賛に価するし、お姉さんのもとで磨いた氷龍封印術も目を見張るものがある。話を聞く限りでも、同年代の火族で君ほど腕の立つ者はいないだろう」


 ユニバルはルクスの肩に手を置いた。


「捜索隊には、既に王都にいる有力火族や、騎士として活躍している火族が選ばれている。いずれも氷龍と戦いについて経験を積んでいる者ばかりだ。だから、必ず君が選ばれるとは限らないが……」


「いえ、ユニバル様に認めていただけただけで十分です。後は、私自身の力で入隊を勝ち取って見せます!」


「うん、その意気だ」


「良かったッスね、ルクス様!」


「あぁ、ありがとうエンラ。……あの、ユニバル様。エンラは捜索隊の一員にしていただけるのでしょうか?」


「捜索隊に入る冒険者については、ギルドのほうで選ぶことになるだろうが、エンラ(くん)は1級冒険者ということだから、まぁまず間違いなく入れるだろうね」


「本当ッスか!良かったぁ……」


 エンラは頬を上気させて喜んだ。


「ルクス、君も人の心配をしている場合じゃないぞ?」


 ユニバルが苦笑すると、ルクスは頭を掻いた。


「は、はい、精進します……!」



 その夜、ルクスは寝床の中で昔のことを思い出していた。



*    *       *




「あぁ良かった!ここにいたのね、ルクス」




 城の物見の塔の上。


 ふいに優しい声がして、ルクスは反射的に振り返りそうになり、思いとどまった。




 傷だらけの、みっともない顔を義姉には見られなくなかった。


 冷たい床にうずくまったまま、ルクスは膝を抱えて




「すみません、義姉(あね)上。もう少ししたら戻りますので」




とだけ答えた。




 せっかく自分を探しに来てくれた相手に対して、ぶっきらぼうで拗ねた態度をとるのは、我ながら可愛くないと思ったが、リューズはそれを叱るようなことをせずに、




「じゃあ、私も少しだけここにいようかしら」




と言った。




「え?」




 驚くルクスの傍に、リューズは器用にドレスの裾を払いながら、雪が積もった石床の上に腰を下ろした。


 ふわりと甘い香りがして、ルクスの胸はドキンと高鳴った。




 いつも明るく朗らかな彼女だけど、今夜のパーティーのために着飾った装いは、いつもと違った艶やかさを引き立てていた。




 輝く銀髪は上品に編み上げられ、鮮やかな紅が形良い唇を彩っている。抜けるように白い肌に纏った瑠璃色のドレスには、雪の結晶を模した文様がちりばめられている。




「……さっきはありがとうね。私を、守ろうとしてくれてたんでしょう?」




「……!」




 そう言って、リューズは清潔なハンカチをルクスの頬にあてた。


 ひんやりとした感触が腫れた頬に少し沁みる。




 先ほど、ルクスは、いとこのフィリプと取っ組み合いの喧嘩をして彼をボコボコに打ち負かしてしまっていた。




 もともと奴のことは気に入らなかったけれども、今日は我慢がならなかった。


 会場の陰で、自分の従者相手に、リューズに関する下品な冗談を飛ばしているのを耳にしてしまったからだ。




 思わず詰め寄るルクスに、フィリプは




「フン、やるのかよ?“泥くず”のチビ助が!」




と挑発してきた。


 炎が出せずに身体が融けてしまうルクスは、こうして“泥くず”とバカにされたり陰口を叩かれたりしている。



 フィリプは、6歳も年下だからと、ルクスを甘く見ていたのだろうか。


 それとも家の格ではこちらが上だからと、侮っていたのだろうか。




 いずれにせよ、頭に血が上ったルクスには関係のないことだった。


 ヤツの鳩尾(みぞおち)に思いっきり右の拳を叩き込んで戦いは始まり、すぐにケリがついた。




「ぐそぅ、おぼえでろよ!」




 醜くはれ上がった顔で涙を零しながら、フィリプは自分の親に言いつけに行ったらしく、


すぐにルクスは実兄のドレクから呼び出された。




 今度はルクスが兄から殴られる番だった。




「馬鹿者がっ!おばあ様の祝いの席で、何をくだらないことをしているのだ、貴様は!出来損ないは出来損ないらしく大人しくしていればよいのだっ!」




 そんな兄の言葉を思い出しながら、ルクスは




「……くだらないことで争っただけですよ。何せ、兄上がそうおっしゃっていましたし」




と口元をゆがめた。




 自分の妻を貶められながら、相手には何も言わず、かえって弟を殴りつける兄を、ルクスは臆病者と決めつけていた。




 ドレクをあてこするような言い方に、リューズは悲しげに眉を寄せた。




「ドレク様は、ちゃんとフィリプ様に抗議してくださったわ。そんな風に言わないで」




「……そ、そうですか、それは失礼しました」




 ルクスが口ごもると、リューズはフッと笑ってルクスの両頬を包み込むようにした。




「ねぇ、ルクス。私のことで怒ってくれるのはとても嬉しいわ。でもね、それであなたに傷ついてほしくないし、誰かを傷つけてほしくないの」




 そう言ってみつめてくる琥珀色の瞳に、ルクスは吸い込まれそうになり、思わずめをそらした。




「もっと自分を大切に、ね?」




「……義姉(ねえ)さまは、ボクのことを大切に思ってくださいますか?」




「もちろんよ」




 即答だった。あくまで真っ直ぐにリューズは、ルクスを見つめてくれる。


 ルクスの心にようやく、温かいものが流れ始めた。




「わかりました。義姉さまがそうおっしゃるなら」




 そうルクスが答えると、リューズはその日一番の笑顔を見せてくれた……




*    *    *




「ふぅ……」


 ルクスは寝床の中でなかなか寝付けなかった。


 眠れるはずもなかった。


 ようやく。

 ようやく、義姉上の手がかりがつかめる。

 

 

 そう思うと朝が来るのももどかしかった。



 起き上がり、ベッドを抜け出る。





 部屋の扉を開けて廊下に出る。


 しばらく歩いていると、ユニバルの執務室が見えてきた。少し扉が開いて、明かりが見えている。




「まだ、起きておられるのかな?」




 そう思って近づくと、中から話し声が聞こえてきた。




 そっと扉に近づいてその会話をうかがう。


 一方はユニバル、もう一方は誰だろうか?声からすると女性のようだが。




「ですから、それについては今、評議会で調査が進められているところなのです。結果については追ってお知らせすると――」




 ユニバルが(なだ)める声が聞こえる。しかし、それにかぶせる様に女のほうが反発する。




「それは前にもお聞きしました。ですが、もういい加減結論が出ても良い頃でしょう?いや、もう結果は明らかなはずです。ドレクとリューズ、ハーベルライト家の若夫婦が私の夫を殺したということは!」

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