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5.囚われの3人

 王都の外門がはっきりと見えてくるころには、沢山の人馬が、道やその近くの草原にあふれていた。


 中には検問の順番が来るまでの間、商売道具を広げて露店を開いているものまでいて、あちこちに人だかりができていた。


「たくさん人がいるね~!!」


 目を輝かせているサラが迷子にならないように目を配りながら、ルクスは外門へと歩いていく。


 どこでハーベルライト家の子息とバレないとも限らないので、ルクスは大人の冒険者の姿に変身していた。

 エンラから「スタッグ」という仮名もつけてもらった。


「ルクス様はこちらにいらしたこと、あるんスか?」


 傍らを歩くエンラが聞いてくる。


「3歳のときに一度。父に連れられて、城の中にも入ったよ。といっても、あまり覚えてはいないけれど……エンラは?」


「何度かパーティの皆で来たことが。でも、人の往来の多さなら商都コーサイスの方が上だと思うっスけどね」


 コーサイスは王都よりも南にある。

 主要な街道の交差点で、他国との交易拠点として栄えているということだが、ルクスはまだ行ったことはない。そう話すと、


「今なら行けるッスよ。どこでも自分の行きたいところへ」


と、エンラは優しく声をかけた。


「そうだね……」


(今は義姉(あね)上を探している身だけれど、いつかはそんな日が来るのだろうか……)


 正午ごろになってようやく、ルクスたちは検問を受けることができた。


 見上げるほどに門は大きく、検査所も広かった。



「ここへ来る途中で何か異変はなかったか?」


と兵士が聞いてきたので、ルクスは正直に答えた。

 

「街道の近くに氷龍(ひょうりゅう)が現れていました」


「氷龍だと?」


 兵士の声がこわばる。


街道付近で氷龍が出たとなれば、人々の行き来に影響が出るのは確実だからだ。


「はい」


「それで、その氷龍から逃げてきたと?」


「いえ、封印することに成功しました!」


 ルクスがそう言うと、「何ぃ?」と兵士は声を上げて、ルクスの全身をまじまじと見た。


「バカな、封印などそう簡単にできるわけないだろう!」


 この若造にそんなことが、と思っているらしい。


 すると、ルクスはけろっとした顔で、


「まぁ、簡単とはいきませんけど。……証拠なら、ほら!」


 そう言って、布の包みをカバンから取り出した。

 ルクスが布を開くと、中から藍色の玉が現れた。


 兵士は、怪訝な顔でそれを見ていたが、見る見るうちに顔が青ざめた。


「ひょ、氷根だぁ!」


 検査所に大声が響き渡った。


「氷根だと?」


「氷漬けになるぞぉ、逃げろっ!」


 たちまち辺りはパニックになる。


氷根に閉じ込められている魔力の量はすさまじく、それが完全に解放されれば検査所どころか、その数倍の広さがあっという間に氷に覆われてしまうだろう。


「き、きき貴様!な、ななな何てものをもってやがる!」


 兵士たちは腰を抜かしながらも、一斉に武器に手をかけはじめる。


 ルクスは慌てて、説明する。


「いや、これは封印してあるものですから。強い刺激を与えなければあと一週間ほどは――」


 そこに、別の場所で荷馬車の検査に立ち会っていたエンラが駆け寄って、ルクスの頭をはたいた。


「バカぁ!!何やってんスか!!あ、これは違うんです。ただのニセモノ、ニセモノで!……って通じるわけないスよね、ハ、ハハハ……」


 大勢の兵士たちに槍を突き付けられて、ルクスとエンラは縮み上がるしかなかった。



  *      *      *



 ぐぅ~っと誰かのお腹が鳴り、石の天井に空しく音が跳ね返った。


 ここは、衛兵所の地下に設けられた牢屋。

 ルクス、エンラ、サラの3人は兵士たちに幾重にも囲まれながら連行され、この地下牢に入れられてしまったのだ。


 窓が全くないために、どれほど時間が経ったのかはわからない。

 だが、とっくに夕食頃は過ぎているということはそれぞれの“腹時計”で分かった。


 3人は隣り合った別々の牢に入れられて、膝を抱えていた。

 ぐぅ~っとまたお腹が鳴る。


「お腹、すいた……」


 サラがぽつりとつぶやく。ここに入れられて何度目かの『お腹すいた』である。


当然、荷物も没収されて、食べる物などない。

 だが、その隣の牢に座っていたルクスは、ふと何かを思い出したらしく、服の内側を探り始めた。


 そして、「あった!」と小さく声を出した。


「サラ、サラ!」


と隣に呼びかける。


「なぁに?」


 弱弱しく答えたサラに、


「飴が一個あったからあげるよ!」


と伝えると、サラはパッと顔を輝かせた。

 飴は道中でエンラからもらったものだ。


「ほんとぉ!?」


「うん。手を出しな」


 そう言って、ルクスも柵から手を出して、サラの手に渡そうとするが、届かない。


「く、こうなったら……」


 ルクスは腕を変形させて伸ばそうと力を込める。

 すると、バチっと火花が腕に飛んで、痛みが走り思わず手を引っ込めた。


「いてっ!な、なんだ?」


「……おそらく、牢屋が“火気(かき)”に反応したんスよ」


 サラとは反対側の牢にいるエンラが、だるそうな声でそう言った。


 火族が能力を発動するとき、体内から“火気”とよばれるものが発生する。


 魔力を消費するときに出る、いわば、見えない『排気ガス』のようなものだが、これを感知する防御結界が、柵に施されているようだった。


 とすれば、ここは火族(かぞく)を拘留することも想定して作られているのか。


 もっとも、ルクス自身が火族だと思われているかどうかは怪しいが。


「頼むから、これ以上余計~なことはしないでくださいっス!」


 エンラが嫌味たっぷりに言うと、


「あの時は、ごめん……」


 とルクスは謝った。

 しかし、軽率だったとはいえ、ある程度は仕方のないことでもあった。


 有力な火族の一家で育ったルクスにとって、氷根などなんでもないものだった。


 封印された氷根など、火族はもちろん、使用人の中にも怖がるものなどいなかった。


 ルクスが昨日見せた氷根の封印術にしても、あれは何百何千もの氷根を見てきたから、できたことでもあったのだ。


 なんせ、あの技術を習得させるために、実姉のアメルダは、ルクスめがけて氷根をビュンビュン投げつける訓練をしていたのだ。


ルクスが経絡点を見極めて空中で突き刺せるまで、何度も何度もぶつけてくるのである。


 それをルクスが説明すると、


「うわぁ……それはさすがに同情するッス」


とエンラはドン引きしていた。


「へぇ……楽しそう」


と目を輝かせたサラに、


「楽しいわけあるかっ!」


と突っ込みをいれるエンラ。


「とにかく!これ以上騒ぎを起こさないことっスよ。もし、脱獄を疑われたりしたら、今度こそ処刑されちゃうっスよ?」


とエンラが言ったとき、上の階段のほうから何か声が聞こえてきた。


「おまちくださいませ、ディードリールさま!さすがにお一人というのは危険――」


「大丈夫だ、ヘマはしないさ。ここで待っててくれ」


 何やら、牢番と誰かが話をしているらしい。

 やがて、カツンカツンと階段を下りてくる靴音が聞こえてきた。


 そして、わずかな衣擦れの音とともにやってきた男は、ルクスの方へと歩いてきた。


「ほぅ、君かな。氷龍を倒した男というのは」


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