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3.エンラとの出会い

「うわぁ~~!!」


 ルクスは夕暮れ時の風を切りながら、味わったことのない感覚に身をゆだねていた。


(気持ちいい~!)


 なんとも言えない開放感が全身を満たしていた。

 それには、「家」から解放されたという気持ちも加わっていた。


「さて、これからどうしようか」


 このままリューズたちが行方不明になった現場の山脈に行くこともできるが……


「ひとまず、王都に行ってみよう」


 王都では今、行方不明者の捜索隊が編成されているはずだ。


「そこに行って入隊を志願してみよう……」


 もちろん、何のコネもない子どもが行っても相手にはしてもらえるかどうかは分からない。


 だが、行ってみないことには始まらないだろう。

 それに、何か氷龍(ひょうりゅう)討伐部隊そのものについても情報が得られるかもしれない。


 ルクスは翼をひるがえして、王都の方へと進路をとった。


 夕暮れ時で、眼下の森は既に暗く沈み始めている。

 その中心には街道が一本走っている。

 これを辿っていけば、いずれは王都に行きつく。


 そのとき、街道近くの森の上空を黒々とした物体が飛んでいるのが目に入った。


「あれは、氷龍!」


 氷龍。


 それは“龍”と名前はついているが、どちらかといえば“大蛇”というべきであろうか。


 大木のように太い胴には、足も翼もない。


 頭部もまた、蛇のように少し平たいが目のようなものはない。


 木の幹のようにごつごつとした黒い体表には白い霜が降りている。

 

 体長は、大人10人ほどであろうか。比較的小型の氷龍だ。


 それでもこんな街道の近くに出るのは厄介だ。

 明らかに人々の往来に影響が出るからだ。


「今のうちに退治しておこう」


 王都には早く行きたい。


 だが、火族たるもの、氷龍を見つけておきながら素通りするような真似はしないもの、とルクスは厳しく教えられてきた。


 奴の方は、頭を地面に向けているため、こちらに気づいていない。

 好都合だ!


 ルクスは翼をすぼめて、氷龍のほうへと急降下する。


 そして、片方の翼の前縁を刃物のように鋭くした。


「グギャァ?」


 ようやく氷龍は、頭上のルクスの気配に気づいたようだが、もう遅い。


 狙うのは、氷龍の頭部だ。

 その中心には、大きなこぶができている。

 このこぶが『氷根(ひょうこん)』と呼ばれる、氷龍の弱点なのだ。


 ルクスは氷龍の頭の上を攫うように飛び、翼の刃で氷根を切り飛ばしていた。


「ガ――」


 断末魔を上げる暇もなく、氷龍の体は森へと落下していく。

 

 すると、


「うわぁああ!」


 森の中から人の声がして、ルクスは驚いた。

 こんな街道から離れた所に誰かがいるとは思わなかった。


 ルクスは声の聞こえたほうに降りていった。


 森の中の小さな空地に着地する。薄暗い木々の間を見回して先ほどの声の主を探す。

 氷龍の落下に、巻き込まれていなければよいが。

 

 すると、翼にチクリと痛みが走った。

 翼を見ると、矢が浅く刺さっている。

 

 飛んできた方角を見ると、人影が見えた。


「ま、待ってくれ!」


 どうやら、自分は魔獣と誤解されているようだ、と気づいた。

 矢は深くは刺さっていなかったので、翼で払うと簡単に抜け落ちた。

 変身を解除して、人間の姿に戻る。


「え!?」

 

 木立の向こうで驚く声がして、人が踊り出てきた。

 それは、一人の少女だった。


 冒険者らしく、革の鎧をまとって、脇に弓を携えている。

 小麦色に灼けた肌に、白髪のショートカット。


「ご、ごめんなさいッス!大丈夫ッスか?」


 どうやら、先ほどの声の主だ。

 少女はルクスに駆け寄った。


「あ、あぁ、大丈夫」

 

 翼は腕へと戻り、若干矢傷は残っているが、かすり傷程度だ。


「まさか、人間だとは思わなかったッスから……ちょっとじっとしてるッス」

 

 少女は腰に下げたポーチから消毒液とガーゼ、簡易包帯を取り出した。

 

 消毒液を傷口に垂らしてガーゼでぬぐう。

 

 新たなガーゼを当てると、テープ状になっている簡易包帯を何度かルクスの腕に巻き付けて、端を切った。


「これでよし!……本当に申し訳なかったッス」


「いや、そんな。確かにあの姿は、魔獣と間違われても仕方ないからね」


「すごいっスね。変身するなんて魔術、見たことないッス」


「魔術というかまぁ……それよりも」


 ルクスは辺りを見回した。


「どうしたんスか?」


 と少女が首を傾げる。


「氷根を探しているんだ。さっき倒した氷龍の。このあたりだと思うんだけど」


「え!氷龍を、キミが?」

 

 少女が驚いたように碧色の瞳を見開いていたが、やがて気を取り直した。


「……氷根ならこっちッス!」


 少女に案内されて、ルクスは木立の中へと入った。

 少しゆくと、周りの木々を巻き込んで、巨大な樹木が倒れているのが見えた。

 

 いや、それは倒木ではなく、先ほどルクスが倒した氷龍の死骸だ。

 

「確かこの辺りに……あ、あれっス!」


 少女が指さした先。

 森の中を流れる小さな川の中に、木の根のような黒い塊が転がっている。

 そして黒い塊を中心として川面が凍り始めていた。


 氷根が放つ“凍気”が原因。

 間違いない。黒い塊は氷根だ。


 ルクスは迷わず川に入り、氷根を素手で掴んだ。


「あ!そんなことしたら危ないっスよ!」

 

 少女は顔を青ざめさせるが、ルクスは


「大丈夫だ」


と、川岸に上がると、氷根の表皮を手でむしり始める。


 やがて、中から藍色の玉が現れた。

 大きさは拳2つ分ほどだろうか。


 これが氷根の本体だ。

 氷龍のエネルギー源にして、生命。


 人間が持ついかなる武器も魔術も、この玉を破壊することはできない。

 完全に“燃やす”ことができるのは、火族(かぞく)の”炎“だけだ。

 だから、今のルクスには氷根は壊せない。


「どうするんスか?」


と少女が聞いてくる。


「こいつの“結絡点(けつらくてん)”を突く。そうすれば、氷根を封印できる」

「!」


 氷根は魔力の“糸”が幾重にも絡まってできている。

 そして、その“糸”は全てある一点に収束している。

 

 これが魔力の結絡点である。

 

 その点に別の魔力、つまりこの場合はルクスの魔力をぶつけることで、全ての糸に衝撃を与え、氷根全体を沈黙させることができるという理屈である。


 ルクスはそれを手の上で転がしながら見つめていた。

 やがて、手を止めると、もう一方の人差し指をピンと立てて、金属製の太い針へと変形させた。

 そして、その針先を一気に氷根に突き立てた。


 藍色の玉はびりっと震えた後、風船がしぼむように、徐々に小さくなり、半分ほどの大きさになった。


 成功だ。

 

 あっけにとられる少女の横でルクスはほっと息をつくと、


「あ、君の名前は?」


とたずねた。


「え……エンラっていうッス」


 その言葉にルクスは頷くと、頭を掻いた。


「ごめん、エンラ。これを入れられる袋ってないかな?」


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