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29.氷の力

「そんな、嘘だ……」

 呆然と首を振るルクス。


 リューズを肩に乗せた巨人は、地響きとともにルクスに近づいてくる。


「すっかりたくましくなったわね、前よりずっとかっこいいわよ?」

 そう笑うしぐさも、笑うときにできるえくぼも、間違いなく義姉のものだ。


――本当に、義姉上なのか!?

 ショックで膝から頽れそうになるのを必死にこらえて剣を握る。


「ど、どうして!?」

 言葉はそれだけしか出てこなかったけれど、疑問は次々と湧いてきてルクスの頭の中を駆け巡った。

 

 義姉はどうして今ここにいるのか。

 今までどうしていたのか。

 なぜ得体の知れない化け物と一緒に、城を攻撃しているのか。

 こんなひどいことをして、どうして笑っていられるのか。

 

だがルクスは、リューズの瞳の焦点が微妙に合っていないことに気づいた。

 どこかぼうっとした様子の義姉をみて、彼女は操られていると悟る。


――バジェリさんたちと同じだ!

 本心で敵に従っているわけではない、と分かり少しホッとすると、


「義姉上、目をお覚まし下さい!貴方は操られておいでなのですよ!」

と呼び掛ける。しかしリューズは首を横に振り、


「目を覚ますのは貴方のほうよ。どうして火族の味方をするの?貴方をさんざんバカにして虐げてきた者のために、どうして貴方が戦っているの?」


「やめて、くださいっ!」

 ルクスは思わず大声を出した。


――義姉上はこんなこと言わない!どんなときでも自分を庇ってくれたけど、いじめられたらやり返せ、などとは絶対に口にしない人だ。

 だから、いくら本心でないとは言え、彼女の口からそんな台詞を聞くのは辛かった。


 すると、リューズは艶やかな唇からふぅっと冷たい息を吐いた。

「仕方がないわね」


 次の瞬間、リューズの瞳が藍色の光を放った。


「う……」

 途端に、ルクスは自分の頭がぼうっとするのを感じた。


「さぁ、いらっしゃい」

 リューズの声が甘く耳に響いて――


 ルクスは剣先を下げてフラフラとリューズの方へ歩き出す。


――いけない……!

 これは罠だ、と脳内で警告が鳴る。

 だが頭が朦朧として、思うように身体が動かない。


 バジェリたちと同じように催眠で自分も操られて洗脳されてしまうのか。

 優し気なリューズの微笑みに徐々に引き寄せられて……


 そのとき、ウォーンと狼の遠吠えが聞こえた。

――この声はルシーラ?


 少し体の呪縛が消えて、ルクスは後ろを振り返る。

 確かに、赤い毛並みのオオカミがエンラを背中に乗せてこちらに走ってくるのが見えた。


 だが、その遠吠えは敵にも影響を与えたらしく、リューズを肩に乗せた巨人が「グゥ!」と言って頭を抱えだした。


 それを見たリューズは

「あなた、大丈夫!?」

と心配するような声を上げた。


「え、あなたって??」

 リューズの言葉に、ルクスは唖然とする。


――もしかして、この巨人は兄上?

 だが、そのことに気を取られていたために判断が遅れた。


 悶える巨人が振り回した腕に薙ぎ払われて、ルクスの身体は広間の壁へと吹き飛ばされていた!


*     *      *


「ぐあっ!」

 壁に叩きつけられたルクスは、衝撃で崩れた壁とともに床へと落ちる。


「ルクス様っ!」

 エンラはルシーラとともに急いでルクスが下敷きになっている瓦礫に駆け寄る。


「ルクス様、ルクス様っ!!」

 ピクリとも動かない瓦礫に、思わず最悪の事態がエンラの頭をよぎるが、


「……大丈夫」

 と瓦礫を押し上げてルクスが中から出てきた。

 

「あ、足から血が!」

 エンラが慌てて治療しようとするが、ルクスは「本当に大丈夫だから」と押しとどめる。


 そして、少し左右を見てから

「その巨人は、ドレク兄様ですか?」

 とリューズに質問を投げた。


 リューズはうっとりした表情で「そうよ」と返した。

「アイオンの皆さまから新しい能力をいただいたの。氷龍の血を入れていただいたことで火族だったときを上回る力が出せるのよ、ドレクも私も」


 そのとき、バタバタとこちらに駆けてくる足音が聞こえてきた。

 ルクスたちが振り返ると、討伐部隊の火族が幾人も走ってきている。


 広間にたどり着いた数人の火族たちは、正面向こうにいるリューズたちに目を留め、

「む、あれは何だ?」

 と武器を構える。


 すると、リューズは右手を高く掲げて静かに呟いた。

「凍らせよ」

 

 リューズの頭上に青い光の球が出現し、そこから白い光の矢が飛び出して火族たちに襲い掛かった。


「ぐあっ!」

「あああっ?こ、凍る?」


 光の矢が刺さると、そこから火族の身体は凍り始めた。

「た、助け――!」


 断末魔を上げるより先に、彼らは氷の彫像と化していた。


「そ、そんな!」

 その様子にエンラは息を呑んだ。


 一般の兵士ならともかく、氷龍を焼き尽くす炎を持っているはずの火族が、いとも簡単に凍らされてしまうなんて……

想像もできないことが現実に起きていることにエンラは慄然とした。


「どう、ルクスすごいでしょう?あなたもこんな能力が使えるのよ?」

 リューズは再び笑みを浮かべてルクスに語り掛ける。


「私たちの仲間になって。一緒に新しい世界を作り上げましょう」

 リューズの瞳が青く輝くと、ルクスは


「あ……」

 と小さく呟き、フラフラと義姉のほうへと歩いていく。

 その足元からは一筋の血が流れて、赤い糸のように伸びていく。


「ルクス様!?」

 焦点の合わない目で歩き出したルクスに、驚いたエンラが声を掛けるが、少しも耳を貸さない。


 ウォンウォン!とルシーラも再び吠えるが、今度はまるで効果がないのか、ルクスは振り返りもしない。


「ま、マズいっす!」

 慌ててルクスに駆け寄ろうとするが、足がピタリと床に張り付いたようになっていることに気が付く。


「う、嘘!」

 先ほど火族に放たれた氷の矢の余波で、エンラの足も凍ってしまったのだ。

 それはルシーラも同じで、その場から動くことができない。


「ルクス様っ、眼を覚まして!」

 必死に呼びかけるも反応することなく、リューズの元へとルクスは歩いていく。


 リューズは巨人の肩から降りると、ふわっと着地して義弟を出迎えた。


「フフ、いい子ね」

 微笑むリューズへと、ルクスは虚ろな瞳で近づいていく。


「ダメ、っスよ……!」

 エンラは涙を零して首を振る。


 やがて義姉と義弟は相対し、リューズは相手の頬に細い指をかけた。

「さぁ、私と一つになって――」

 

 そう言いかけたリューズの両手を掴むと、ルクスは相手を押し倒した。


「え!?」

 驚く間もなく、ルクスの身体はぐにゃりと溶けて、リューズの両手足を地面に繋ぎとめる鋲へと変化した。


「こ、これはっ!」

 床へと固定されたリューズの耳に、


「ふぅ……」

 瓦礫の下から声が聞こえ、崩れた壁を押しのけて人影が現れた。


「え、ルクス様!?」

 エンラの目の前には、もう一人のルクスが立っていた。


「どういうことなの!?」

 驚いているリューズに、


「さっきのは僕そっくりに作った分身ですよ」

 と本物のルクスは言った。


「まともにあなたの前に立てば、視覚を通じて洗脳されてしまいますからね。だからダミーを作って、義姉上に近づけたんです」


 そう話すルクスの指先からは紅い血が流れている。

 それはリューズを拘束している鋲、つまりさっきまでルクスの分身だったものに繋がっている。


「この血で操ってたんスね!」

 エンラの言葉に、ルクスは微笑む。


「さぁ、反撃開始だ!」


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