26.氷雪の夜
それからの1カ月間を、ルクスたちは王都で過ごした。
まずは身体を治して、休養することが重要だった。
その後は、今回の事件について評議会から捜査員が派遣されてきて、聞き取りが行われた。
身体が動かせるようになると、特に予定がないときは、ギルドの仕事をサラと一緒に手伝ったりしながら、時間を過ごした。
エンラは、風の狼笛のメンバーの世話で忙しいようだった。
バジェリたちは身柄を拘束されているものの、丁重に扱われているとのことだった。
「差し入れにあれが欲しい、これが欲しいって、うるさいんスよ!特にリトミなんかは……」
と愚痴をこぼしながらも、エンラはどこか楽しそうだった。
ユニバルは今回の事件の後処理に携わるため、ほとんど議事堂にいるようだった。
今回一番被害を被ったのは、グレノール夫人をはじめとした、ヴィルノクス家の人々だった。身内がしでかしたこととはいえ、何も知らされていなかった夫人のショックは大きかったようだ。
夫のアレンが死に、義弟のガレンは今回の騒乱の首謀者として、ヴィルノクス家当主の座をはく奪されていた。
アレンには子供がいないため、このまま5年間、ヴィルノクス侯爵家に後継者の男子がいない場合は、家は断絶となる。
ルクスの兄たちのことを勝手に殺人犯と決めつけるような人間とはいえ、グレノール夫人のことを、少し気の毒だな、とルクスは思った。
そしてある日。ルクスはバジェリと面会した。
「すみません、このような所までお越しいただいて……」
格子の向こうで恐縮しているバジェリにルクスは慌てて手を振った。
「いえ、そんな!お元気ですか?」
ルクスの言葉にバジェリは微笑んで、部屋の中を見回した。
「はい。ユニバル様のお計らいのおかげで、良い扱いを受けております」
確かに牢屋とはいいながら清潔感があり、家具や寝具も質素だが良いものが揃っている。
「ここにお越しになられた理由は分かっております。ドレク様とリューズ様についてお聞きになられたいのですよね?」
バジェリの言葉にルクスは頷いた。
以前、ガレンの別宅で会ったとき、バジェリは
「もしかしたら、ですが。私はリューズ様は生きておいでだと思います」
と言っていた。
あのときは、ガレンと鉢合わせしてしまったために話が中途で終わっていたのだ。
バジェリは居住まいを正すと、静かに語り始めた。
「では、ドレク様とリューズ様が行方不明になられたあの晩のことをお話しします。
あの夜、野営地に突然現れた氷龍の群れを相手に、我ら討伐部隊は奮闘しました。
小一時間ほど戦ったところで、群れのボスらしい巨大氷龍が突如逃げだしたのです。
このまま逃すわけにはいかない、というわけで追撃する希望者が募られました。何人かの火族とそれに随行する従者、そして私たち冒険者でだいたい20人ほどでしたでしょうか。
その中に、ドレク様とリューズ様もいらっしゃいました。
しばらく追跡したところ、半刻ほどで奴に追いつきました。
とぐろを巻いて、我々のほうを向いている氷龍。
その奴の前に、一つの人影があったのです」
「人影?」
「はい、そいつは藍色のローブを被っていました」
「……!」
またもや、藍色のローブ。
それを被った者たちが複数いる、ということなのだろうか。
彼らは一体何者なのだろう?
「『貴様、何者だ!?』とドレク様が問いただされると、その人影はこう答えました。
“我らは、アイオン。あなた方に代わり世界を統べる者”と」




