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17.誤算の始まり

今回、敵サイド視点です。

 一方その頃。


 ガレン=ヴィルノクスは屋敷の執務室でせわしなく行き来しながら、ルクス=ハーベルライト捕縛の報せを待っていた。


(奴が捕まりさえすれば、道は開ける!)


 ローブの男がルクスを捕え、それを自分が始末する。


 ルクスにアレン殺害の罪を擦り付けた上で殺すことができれば、ガレンはアレンの仇をとった立派な弟として、晴れてこのヴィルノクス家の当主として親族たちにも認めてもらえるだろう。


 ガレンはその瞬間を待ち焦がれていた。


 すると、部屋の扉をノックする音が聞こえた。


「入れ」

 

 入ってきたのは、ローブの男ではなく、ただの使用人だった。


「ガレン様、例の狼が捕まりました」


「!」


 ルクスほどではないにせよ、その狼もガレンが求めているものだった。

 せっかく高い金を払って買い求めたにも関わらず、いつの間にか逃げてしまっていた赤毛の狼。


「只今、地下室の牢に閉じ込めておりますが、いかがなさいますか?」


「いいだろう、行こう」


 ルクスが捕まるのは時間の問題だ。

 あの“藍色の霧”をどうにかできない限り、奴に勝ち目はない。

 ならば、暇つぶしにはちょうどいい。


 使用人とともにガレンは密かに地下室へと向かった。


「おお……!」

 

 太い鉄格子の向こうにいたのは確かにあの狼だった。

 麻酔矢で眠らせているのだろう、今は目蓋を閉じて横たわっている。しかし。


「おい、その横のガキはなんだ?」

 

 同じ牢の中には、小さな女の子が捕えられている。

 こちらは眠らされてはいないが、猿轡をかまされて手を縛られている。


 彼女は、深紅の大きな瞳でガレンたちを睨みつけていた。


「申し訳ありません、狼と一緒にいたものですから……」

 

 使用人は頭を掻いたが、ガレンはふと何か気づいたように少女を見つめた。


 少女の服の裾に刺しゅうされている特徴的な紋章。

 それはディードリール公爵家の紋章だ。


「ほう……」


 ガレンは歪んだ笑みを浮かべた。

 ここでもまた、ガレンに有利な状況が揃った。

 

 ディードリール家に小さな娘がいるとは聞いたことがないから、何らかの事情で預かっている娘だろう。

 それが今は、ガレンの手中にある。



 ディードリール家を相手にしたときでも、有利な取引材料になる、というわけだ。


「おい!この子ハディードリール家の関係者だ。丁重にもてなして差し上げろ」


「ま、誠でございますか!?」


 ガレンの言葉に使用人は驚いた表情を見せたが、すぐに畏まった様子で牢屋のカギを開けた。


 ガレンは牢の中に入って、少女に手を差し伸べた。


「すまなかったね、レディ。さぁ、こっちにおいで。それをほどいてあげよう」


 少女は未だに警戒を解かずに、ガレンを睨んでいる。

 ガレンが近づくと、ふいに狼が目を覚ました。


「!」


 否、狸寝入りをしていたのだろうか。

 少女を守るように立ちふさがると、鋭い牙でガレンの手に噛みついた。


「ぐぁ!」


 ガレンは叫んだ。バキバキと骨がかみ砕かれる音がして、


「このっ!」


 反対の手に炎球を生じさせると、狼へと投げつけた。


 ギャン、と今度は狼が呻く番だった。

 炎を脇腹に食らって、狼は冷たい床に転がった。


「んーー!んーーー!!」


 それを見た少女は涙目になって叫ぼうとしている。


「ぐっ……このっ、ケモノ風情が逆らいやがってっ!」


 ガレンはつま先で狼を蹴り上げようとしたそのとき。


「ガレン様、お耳に入れたいことが」

 

 鉄製の扉の向こうから聞こえたのは、また別の使用人の声だ。


「……何だ」

 

 抱えた右手に走る激痛に耐えながら、ガレンはたずねる。


「ディードリール家の使いと申すものがおりまして。ガレン様にお目通り願いたいと」


「!」

 

 ガレンの背中を冷たい汗が流れた。

 もう手が回っているのか。


(あいつは何をしているのだ!?もうルクスを捕えていてもいいころなのに!)


 藍色のローブ男のことを考えながら、地下室の片隅に目をやる。


 もし、ルクスを首尾よく捕らえられたら、そこにある魔法陣を使ってローブの男や風の狼笛のメンバーがこちらにやってくる手はずになっているのだが。


「『今は手が放せない』と伝えろ!」


 そう言いながら、ガレンは半ば強引に少女を檻から連れ出した。

 連れていけば何か取引材料になるかもしれない。



 まずは、王都外の別邸に行こう。

 ローブの男や風の狼笛の連中と合流したい。

 

 とにかく、ここにいつまでもいたくはなかった。

 下手をすれば、こっちが捕まってしまうかもしれない、という恐怖が湧き上がってきていた。



「んー!!」

 

 ガレンは暴れる少女を肩に担ぐと、地下室の隅へと行った。

 

 そこにある魔法陣に乗ると、使用人に指示した。


「もし、誰か来てもガレンは不在だと答えろ。それと、私が転送完了したら、この魔法陣は絶対にバレないよう隠しておけ!いいな!」

 

 そう言いつけると、ガレンの身体は光に包まれた。


本日もありがとうございます。

遅くなりまして申し訳ありませんでした!

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