15.再戦
「ルクス様、エンラさん、そこは滑りやすくなっているのでお気を付けて」
「ありがとう」
「助かるッス」
モスタの注意に、ルクスとエンラは感謝を述べた。
今、3人は王都の地下を流れる水道の中、その側道を歩いていた。
網目のように張り巡らされた地下空間は、さながら迷路だ。
昨日今日来たルクスたちがここを通り抜けられるはずもないため、モスタに道案内を依頼したのだ。
「ここは、俺たち冒険者ギルドも秘密の通路としてよく使ってるんです。今回みたいに何か事件が起きると、たびたび戒厳令と称して街の警備が厳重になったり、王都の外に行くことができなくなるんですけど、いちいちそういう「お上」の都合で仕事が遅れたりしちゃ、やっていけませんからね」
歩きながら、モスタはそう説明してくれた。
「それで、こっそりここを使ってるってわけなんだね」
「でも、そう簡単に通り抜けはできないッスよね?あ、ほら!」
エンラが指さした先には、大きな鉄格子が立ちふさがっていた。
側道の上はもちろん、アーチ形の天井から、水が流れる河底まで鉄格子が入っている。
刀や魔法では容易に壊せない特殊な鋼で出来ている。
しかし、モスタは
「確かに、この鉄格子は通れません。ですから、別の方法を使います」
と言って少し脇にそれたところでレンガ壁の一部を動かした。
すると目の前の床に、ぼうっと魔法陣の光が立ち上がった。
「ギルドで作製した自動転移魔法陣です。どうしたら魔術師でなくても展開できるようにできるか、いろいろ苦労したんですよ」
とモスタは苦笑する。
だが、ルクスはその魔法陣よりも遠方にある異変に気付いた。
「あれ?あっちにも何か光が見えるけれど?」
「え、ほんとッスね!」
ルクスたちは今出した魔法陣を飛び越えて、そちらへと走った。
そこにはギルドのものとよく似た魔法陣があった。
「これは!俺たちが作ったものではないですね……」
驚くモスタの傍で、エンラがしゃがみこんだ。そしてじっと魔法陣を見つめていたが、
「これ、きっとリトミが作ったんスよ!前に似た特徴のある魔法陣を見たことあるッス」
そう言って紋様の一部を指さした。
「ってことは、これを使って彼らは行き来してたってことか」
とモスタ。
「行ってみよう!サラやルシーラもここを通ったかもしれない」
ルクスの言葉に二人も頷いた。
「彼らのアジトに直接つながってるかもしれませんね」
「そうッスね……すぐにバジェリたちとかち合うことになるかも……」
エンラは持っている弓を握りしめ、モスタは斧槍の覆いを外した。
ルクスも剣を抜いた。
「うん、気を付けていこう!」
3人が魔法陣に乗ると地面から光が迸った。
そして次の瞬間には見知らぬ場所に立っていた。
そこはどこかの地下室のようだった。
薄暗い中に使い古しの家具や骨とう品が転がっている。
辺りの気配を伺いながら、奥の方にある階段から上の階にあがる。
相当に年季の入った床板は慎重に歩いてもミシミシと音が鳴った。
そしてある扉の前に来た時。
「!」
身構える暇もなく、ルクスは飛び出してきたバジェリの剣に圧倒されて窓へと吹き飛ばされた。
「ぐっ!!」
砕けるガラスとともに外へと飛びながら、ルクスはバジェリと同じ体躯の騎士へと変身した。
「ルクス様!」
屋敷の中からエンラの声が聞こえる。
しかし、彼女たちがいる廊下には異変が起きていた。
廊下全体が藍色の霧でおおわれているのだ。
「なんだ、これは!?」
驚く間もなく、その霧の中からバジェリが飛び出してきた。
そして振り下ろされた大剣を今度はしっかりと受け止めて弾き返す。
「グッ……」
バジェリがのけぞった。
歯を食いしばったその顔は、瞳が青く、尋常ならざる光を放っている。
その懐に入ろうとすると、今度は斜め上方から巨大な影が降ってきた。
ルクスが瞬時に避けると、ズンという音とともに大きな拳が地面を抉った。
拳法家シュイウォー。修道服を脱いでいる今は、鍛え上げられた筋肉とそこに走る無数の傷が、彼の厳しい修行の様子を物語っているようだ。
と、今度は後ろから殺気が背中を貫いてきた。
素早く振り向くと、真っ直ぐに剣を構えた小柄な剣士が鋭い突きを繰り出してきた。
「クッ!」
咄嗟にスピルカの剣を避けて脇の下に挟む。
スピルカは剣を抜こうとするが、ルクスの方が腕力は上。
スピルカの剣を脇に挟んだまま、剣ごと彼女をぐるっと振り回して、再び飛び込んできたシュイウォーの方へと飛ばす。
「グァ!」
スピルカはシュイウォーを下敷きにして地面に転がった。
しかし息をつく暇もなく、今度は空中に魔法陣が現れ、そこから無数の氷の矢が飛び出してきた。
「なんの!」
ルクスは鷹の姿になって飛び上がり、リトミの魔術を瞬時に避ける。
そして、ディードリール家での闘いとは違って、翼全体を鋼鉄のように変えると一気に振り下ろした。
ギィンと鈍い音がして、バジェリの大剣は剣先が折れた。
驚くバジェリめがけて、もう一方の翼を横に払う。
翼はバジェリの右腕にヒットした。
鈍く骨が砕ける音がする。
「ヌォ……!」
思わず風の狼笛のリーダーは剣を取り落とした。
ルクスは再び人間の姿に戻ると、バジェリの首元に自分の剣を当てた。
「降参しろ!さもなくば、リーダーの命はないぞ!」
だが、残りのメンバーには何の反応もない。
リーダーがやられたことにいきり立つ様子もなく、武器を構えたままその場に突っ立っている。
「無駄だ」
ふいに男の声がした。
藍色の霧の方からだ。
やがて、同じ色のローブを被った男が中から現れた。
「こいつらに今、自分の意志はない。私が指示を与えて動かしているのだからな」
そういいながらルクスの方へと歩いてくる。
咄嗟にそちらに剣を構えたルクスに向かって、
「仕方がない。私が相手しよう」
とローブの男は言った。
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