14.ガレンの思惑
今回は、敵サイド視点です。
「このっ、馬鹿野郎がぁっ!!」
ガレンは炎の玉を、怒りに任せて藍色のローブの男へとぶつけた。
スイカほどもある炎は男の腹にめり込むと、爆音とともに炸裂し、男の体を壁へと叩きつけた。
フーッフーッと、ガレンは肩で息をついている。
さきほど、ローブの男からユニバル襲撃は失敗したと聞かされたのだ。
しかも男からの報告によれば、襲撃の邪魔をしたのは自在に変化の能力を使う者、というではないか。
(間違いない、さきほどこの屋敷に侵入していた、あの輩のことではないか!)
奴が生きているということは、この屋敷でしていた話は、いずれユニバルに伝わるということだ。
(そうなったら、この俺はどうなってしまうのか?)
「くそっ、くそくそくそっ!!」
ガレンは怒りと不安に任せて、部屋中の物に当たり散らした。
本は散乱し、花瓶は砕け散った。
「……まだ、敗北したわけではございません。少なくとも、あなた様がアレン様の殺害に関わったという証拠は何もないのですから」
倒れ伏した床からゆっくりと起き上がりながら、ローブの男は言った。
「当たり前だっ!そもそも俺は兄を殺してなどいない!」
ガレンは噛みつかんばかりに、男に対して吠える。
「しかし、あなたの望みであったことは確かでしょう。私たちはあなたの代わりにそれを叶えたまでのこと」
ローブの男は冷淡に返す。
「……!」
ガレンは言い返すことができず、その場に立ち尽くす。
「……ともかく!俺が義姉上に嘘をついている、とバレるだけでもマズい。もし、ユニバルの口からバレたら、俺はどう義姉上に説明できるってんだ!?」
「では、あなたがグレノール様にお話ししたことが『紛れもない真実』であれば、問題ありますまい」
「どういうことだ?」
「ハーベルライト家が間違いなくアレン様殺害に関与していた、と明らかになれば、あなた様の言葉は真実となるということです」
ガレンはローブの男の「顔」をまじまじと見つめた。
無論、表情など伺えるわけもないが、ガレンは「ハッ」と鼻で笑った。
「気でも狂ったか?そんなことが――」
「先ほどの曲者、名はルクスというものです。ルクス=ハーベルライト……」
「!」
ガレンは驚きに目を見開いた。
まさか、そんなことが――
「どうやら、ディードリール家の世話になっているらしいのです。恐らく、グレノール様とユニバルとの会話を聞いたのでしょう」
「それで、さっきここに乗り込んできたというのか。ならば」
ガレンの言葉にローブの男は頷く。
「はい。奴を捉えて殺しましょう。この屋敷に無断で侵入し、こちらを攻撃してきたのでやむをえなかったと説明するのです。そして、なぜ侵入したのかと言えば」
「アレンに引き続き、この俺も殺害するつもりであった、と?」
「左様でございます」
(そのルクスという奴に全ての濡れ衣を着せてしまえ、ということか!)
『自分が助かる道筋』が見えたことで、ガレンは落ち着きを取り戻しつつあった。
とはいえ。
「どうすれば奴を、ルクス=ハーベルライトを捕えられるというのだ?」
「問題ございません。風の狼笛の後を追って、いずれやってきます。その時を狙って返り討ちにいたします」
ガレンは眉をひそめる。
「できるのか?」
「調べてみましたところ、奴は“炎”を使えぬ者のようです」
「なんだと?ハッ、出来損ないではないか!」
「左様。火族でありながら、炎が出せぬゆえに、変化の力などというものを使っているのです」
それを聞いてガレンは一安心した。
炎が使えないのなら、最初から恐れることはない!しかし――
「奴が援軍を連れてきたら厄介だな」
「ディードリール邸の者はユニバルを守るので手一杯でしょう。火族の屋敷が襲われたとなれば、他の火族も自分を守るのに必死で、応援をよこしたりはしますまい」
「なるほどな」
ガレンの心にあった、自分の計画が台無しになるのでは、という恐怖はすっかり拭い去られていた。
そうだ。
恐れることはない。
今までこちらが勝手にアレン殺しの犯人に仕立てていたドレクの親族、ハーベルライト家の人間が、わざわざ向こうから乗り込んできたのだ。
不審者としてこれを捕えることができるなら、こちらに大義名分が立つ。
そして殺してしまえば、死人に口なし。
どうとでも罪を着せてしまえる。
そう考えると、今回のことは災難ではない。むしろ幸運であるとすら言えた。
(天は俺に味方しているっ……!)
ガレンの中に邪な愉悦が戻ってきていた。
「それでは。私はこれから、ガレン様の別邸に参りまして、迎え撃つ準備をいたします。そこに奴らは必ず来るでしょう」
王都の外には、ヴィルノクス家の別邸がある。
今は、そこが風の狼笛の拠点になっているのだった。
ローブの男は礼をして、音もなく部屋を出ていった。




