12.救出
ギルドを出ると、ルクスは鷹の姿になって、キーオルを背に乗せた。
「しっかり掴まっていてくださいね。……ルシーラも後で会おう!」
隣にいる狼に声をかけると、ルシーラは応えるように小さく吠えて、一足先に公爵邸へと駆け出した。
ルクスもまた大きく翼を広げて、夜空へと舞い上がった。
公爵邸に近づくと、邸の一部でパッと光が閃いた。
「あれは?」
「もう戦いが始まっとるのかもしれん!」
「……急ぎます!」
ルクスは翼を狭めて、急降下した。
1階には、ガラスが割られた窓。
近くに降り立ち、2人は窓から中へ入る。
と、上から気配がして、ルクスは急いで飛びのいた。
銀色の軌跡が、ルクスのいた空間を切り裂く。
シャンデリアから降ってきたのは、小柄な女だった。
両手にそれぞれ細身の剣を携えている。
(風の狼笛のスピルカか……)
パーティーに双剣を操る女性剣士がいることは、エンラから聞いていた。
ルクスが剣、キーオルは使い古した感じのある槍を持ってスピルカと対峙する。
「やあっ!!」
最初に踏み込んだのはキーオルだった。
一点を突くように鋭く繰り出した槍に、スピルカは後ろへと飛びのく。
キーオルも元は冒険者だったらしく、身のこなしは軽い。
「先に行け!ここはワシが預かる!」
「お願いします!」
駆け出したルクスだったが、突如足元に魔法陣が現れて、咄嗟に避ける。
すると、ズンという音とともに、それまで立っていた場所に石の槍が生えた。
(グレイブ!……魔術師か!)
だが、その姿は見えない。
不可視化魔術で隠れているのか。
このままでは身動きできない。
その時、ルクスの足元を赤い光が駆け抜けた。
ルシーラだ!
ルシーラは廊下の角まで走ると、そこで吠えまくった。
(もしかして!)
ルクスは素早く持っていた剣をその方向へ投げつけた。
「くっ!」
と小さな声がして、空間が揺らいだ。
そこからローブを被った人影が現れた。
長いスリットスカートの裾が切れて、脹脛から鮮血が滴っている。
風の狼笛の魔術師リトミは耐えきれずに、膝をつく。
ルクスは一目散に駆け出す。
魔術師は遅延魔法を開放して雷の矢を放つが、再び鷹の姿になったルクスには当たらない。
広い廊下を飛び続けると、目の前に見えたのは大剣を持った剣士!
そしてその前に倒れているのは、
「ユニバル様!」
その近くにはエンラの姿も見える。
ルクスはバジェリの近くに降り立つと、金属硬化させた翼で彼を薙ぎ払った。
「グォオ!」
低く呻きながら、大剣士は壁へと吹き飛ばされた。
「ぐっ!」
すると、シュイウォーが、エンラを離して、ドンと床を蹴ってルクスの元へと特攻する。
しかし、ルクスが翼を打ち下ろすようすると、床へと叩きつけられた。
「ルクス様!」
駆け寄ってくるエンラ。
ルクスは変身を解除すると、ユニバルの元へと走り寄った。
「ユニバル様!!」
「ぐっ……ル、クスか……全く、キミと、き、たら……いった、い、どこへ……」
口の端でやれやれ、というように笑うユニバルに、
「しゃべってはだめです!」
とルクスは首を振って、ユニバルの身体を横たえさせる。
すると、ゆっくりと人が立ち上がる気配がした。
バジェリとシュイウォーは激しく息をつきながらこちらを見ている。
「くっ……」
エンラにユニバルを連れて逃げるよう指示しようと考えたとき。
大男2人の足元に魔法陣が現れた。
魔法陣の光は急激に強くなり、目を開けていられないほどの眩しさになった瞬間、パッと消えた。
それと同時にバジェリとシュイウォーの姿も消えていた。
リトミが転移魔法を使い、パーティー全体を逃がしたのだろう。
ひとまずの危機は去った。
* * *
「すまなかった。剣士の嬢ちゃんの相手をしているうちに、魔術師のほうを逃がしてしまってな」
キーオルはそう言って申し訳なさそうな顔をした。
ここはディードリール邸内の医務室。
広く大きなベッドには、包帯を巻かれたユニバルが寝ている。
包帯には緑色の光で、草の紋様が浮かび上がっていて、治癒法術が施されていることがわかる。
「いえ、そんな。……お医者さまに来ていただいて助かったッス」
エンラはそう言ってユニバルを見た。
顔色はまだ悪いが、呼吸は安定しているようだ。
「うむ、ワシもまさか、ルクス君に続いてもう一人火族の治療をするとは思わなんだがなの」
とキーオルはつるつるの頭を撫でた。
「そういえば、ルクス様は?」
「ん、彼ならさっき部屋の外へと出ていったよ」
「そうっスか……」
「なんじゃ、気になるなら行ってきたら良いぞ?ユニバル様のことなら任せておけ」
「あ、すみませんッス。……じゃあお願いしまス」
エンラは礼をすると、医務室を出た。
襲撃があったことで、邸の中も外も、大騒ぎになっている。
衛兵たちやら使用人やらが忙しく行きかう中を、エンラは縫うようにして歩いていく。
やがて、廊下の途中にある半円形のバルコニーに座っている少年を見つけた。
床に座り込んで、うなだれているルクスの元に、エンラは歩み寄る。
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