表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/33

11.館での戦い

「嘘……バジェリ?」


「どうした?」


 左肩を押さえながらユニバルが聞く。


 エンラは泣き出しそうな顔になりながら、信じられない、というように首を振った。


「バジェリ=ブラセンコ、アタシの、風の狼笛(ろうてき)のリーダーっス!」


「!」


 ユニバルの顔が険しさを増す。


「リーダー!何やってるんスか?アタシッスよ、エンラっス!!……スピルカもどうしちゃったんスか!?」


 エンラは反対側の剣士にも叫んだ。

 間違いない。そこにいるのは、スピルカ。


 双剣を操る女剣士、スピルカ=メルバだ。


 仲間であるはずの2人がどうして、自分たちに襲い掛かったのか、エンラには訳が分からなかった。


「……エンラ君、目を閉じているんだ」


 ユニバルが(ささや)く声が聞こえた。


「!」


 エンラは身構えた。

 ユニバル様は何を始められるのだろう?


「安心してくれ、彼らを殺すような真似はしない」


「はい」


 エンラは素直に従って目を閉じた。

 すると、一瞬にして、周囲が明るく照らされたのが目蓋を通してもわかった。


 ドン、と何かが落ちる音がして目を開ける。

 見ると、バジェリたちは武器を取り落として、目のあたりを押さえている。


「行こう!」


「え?はい!」


 ユニバルに手を引かれるようにしながら、エンラはバジェリの横を走り抜ける。

 今は、彼らに話し合いは通じないだろう。


「目くらましを使われたんスね」


「あぁ。ほぼ光のみで熱のない炎を2人に見せたんだ。対人戦闘技の一つくらい持ってないと、こういうとき困るからね」


 生身・丸腰の状態でも“炎”という攻撃手段を持っている火族(かぞく)は、たとえ人間と争いになったとしても、人間に対して炎で「攻撃」するべきではない、とされている。

 

 炎は確実に人間を死に至らしめるからだ。

 いかなる諍いであれ、それは公的な場で裁かれるべきものである以上、その場で制裁=殺しが行われてはならない。


 だから、やむを得ない場合を除いて、人に対して炎を使用することは過剰防衛、もしくは殺人を企図したものとみなされる。


 最も、最近ではその「やむを得ない場合」について火族が拡大解釈している、という批判が人間側からしばしば上がっているのだが……

 

 ユニバルは近くの部屋の扉を開けて飛び込んだ。

 指を鳴らして部屋の灯をともすと、壁にかけられた剣を二振り取った。


「剣の心得は?」

 

 ユニバルが聞くと、エンラは頷いた。


「多少ならあるッス」


「よろしい」


 ユニバルはエンラに剣を渡すと、


「私は彼らを止める。君は応援を呼んできてほしい」


といった。エンラは首を振る。


「そんな!アタシも一緒に――」


「彼らは手加減なしだ。だが、君の方はためらいがあるはずだ。それでは戦えまい」


「……!」


 そのとき、部屋の外で足音が聞こえてきた。

 物音を聞きつけた邸の警備兵たちだ。


「おい、貴様、何者だ!止ま――」


 廊下の反対側にいる誰かに声をかけた警備兵たちは、その方角から突然起こった風によって吹き飛ばされた。


「ぐあぁ!」


 その声に、ユニバルとエンラは部屋から飛び出す。

 

 風が巻き起こった方を見ると、バジェリが大剣を担いでこちらに向かってきていた。

 バジェリは剣風のみで2人の兵を圧倒したのだ。


「ユ、ユニバル様!」

 

 警備兵の声に、ユニバルはバジェリの方を見ながら、


「お前たちは外から応援を呼んできてくれ!」


と指示した。


「しかし――」


 反駁(はんばく)する間もなく、バジェリがドンと鈍い音とともに廊下を蹴って襲ってくる。


 ガギィン!!


 振り下ろされた大剣を、ユニバルが受け止めると、剣風が炸裂した。


「早く行けっ!」


 ユニバルが再び喝を入れると、兵たちは慌てて立ち上がって、元来た廊下を戻ろうとする。


 だが、彼らの前に、別の大きな影が立ちふさがった。


 バジェリよりもさらにいかつい体の男がそこに立っていた。

 黒を基本とした修道衣は、この国でも信徒の多いプレトリア教の修道服だ。


「くっ!!」

 

 立ち向かおうとする警備兵を、男は丸太のような腕で横に払いのけた。

 ひびが入るほどの衝撃で壁に叩きつけられた兵たちは、あっという間にその場にのびてしまった。


「シュイウォー!!」


とエンラは叫んで、両手を広げて男の前に立ちふさがった。


 シュイウォー=タイロン。

 “風の狼笛”では回復術士を務めている男だ。


「アタシのことが分からないんスか!?どうして、どうしてこんなことをするんスか!!」


「……」


 必死に叫ぶエンラを、シュイウォーは胸倉をつかんで持ち上げる。


「ぐっ……!」


 息苦しさを感じながらも、エンラはシュイウォーから目線を外さずにじっと見つめる。

 シュイウォーの目はどこか焦点が合っていないように見える。


 もしかして、意識がないまま操られているのか?


 エンラは、そうした精神操作の魔術があると聞いたことがあった。


 すると、向かい合った男の顔はピクッと痙攣し、眉をしかめるとエンラを取り落とした。


「うっ!」


 尻もちをついて呻くエンラ。

 だが、シュイウォーもまた頭を抱えて悶えていた。


「ぐぅうう……」


 驚いたことには、バジェリもまた喉奥で呻くような声を出し始めた。

 そちらを見ると、バジェリは涙を流し始めていた。


(もしかして、アタシのことを思い出し始めている?)


 エンラはありったけの大声で


「バジェリ!シュイウォー!目を覚ますッスよぉ!!」


と叫んだ。

 

 その声に一瞬、彼らの動きが止まった。

 しかし。


「ぬ……ぐぉおお!!」

 

 再びバジェリは剣を握り直して、ユニバルへと突進した。


「ぐっ!!」

 

 一瞬の気の遅れがユニバルの身体を鈍らせた。

 銀の刃は彼の腹を深々と貫いていた。


「ユニバル様っ!!」

 

 叫ぶエンラもまた、シュイウォーによって上から押さえつけられる。

 鮮血にまみれながら、ユニバルの身体がゆっくりとその場に崩れていく。

 

「いやぁ!ユニバルさまっ!!」


 エンラの叫びが廊下に空しく響き渡る。

 それを聞き届けれくれるものは、ここにはいない。


 涙を浮かべたエンラの脳裏に、少年の影が浮かぶ。


(あぁ、助けに来て、ルクス様っ……!)


 そう思ったとき。


 廊下の向こう側から風が伝わってきた。

 やって来たのは、一羽の大きな鷲。


 その黄金の毛並みには見覚えがあった。


「ル、ルクス様っ!!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ