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王女様の200歳の誕生日  作者: 木原式部
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 ジョニーは最初こそ国の行事や儀式に欠かさず参加していたが、段々と彼の姿を見かけることが少なくなって行った。

 彼の放浪癖は完全には治ってなかったらしい。

 ライラはジョニーの姿が見えないと落胆し、同時に「行事を欠席するなんて……」と魔法学校の時に感じた怒りに似た気持ちを覚えるのだった。



 その頃、王室では年に一回開催される園遊会が催された。

 園遊会はフランクなもので、王族も貴族も一般市民も普段の行事や儀式よりは打ち解けて、立食しながら会話を楽しめた。

 ライラはこの園遊会を密かに楽しみにしていた。

 立食であれば、普段の行事のようにジョニーも自分に対してうやうやしくお辞儀をしてこないだろう。

 多少はあの魔法学校の時のように、肩を並べて話せるかもしれない……。


 ライラは期待しながら会に参加したが、会場の中にジョニーの姿はなかった。

 王女らしく一般市民との会話を楽しみながら、ライラはジョニーの姿をずっと探したが、とうとう見つけ出すことができなかった。

 代わりに、誰かがジョニーの噂話をしているところに何度も出くわした。


「ジョニーは昔から放浪癖が……」

「最近、魔法使いの会合にもあまり参加しないし……」

「いくら魔法使いとして優秀でも、あれでは……」


 ライラはジョニーの噂を聞くたびに、胸がどきどきした。

(――このままではいけない)

 ジョニーの放浪癖をこのままにしておいたら、同じ魔法使いの仲間だけでなく、王族にも反感を買ってしまうのではないのだろうか。

(――でも、どうすれば良いのかしら?)




 園遊会が終わった、その夜。

 ライラは城の図書室へ行って住所録を調べた。

 住所録には国民全ての住所が載っていたはずだ。

 もしかして、魔法使いの住所は載ってないかもしれないと思ったが、ジョニーの住所もそこに載っていた。

 あまり見慣れない住所だ。城から見て東の森の奥に家があるらしい。 


 ライラは軽く入浴を済ませた後、部屋からこっそり抜け出した。

 そして、城の馬小屋の馬にまたがると、鞭を当てて城内を後にした。


 魔法学校時代、自分がジョニーを探しに行って諭したら、その後、ジョニーは真面目に授業に出るようになった。

 今度も自分がジョニーに会って諭せば、真面目に行事や儀式に出てくれるようになるかもしれない、とライラは思ったのだ。


 王女である自分が城を抜け出して、魔法使いとは言え男性の元へ行こうとするなんて……。

メイドや父親の国王に見つかったら、ただでは済まないだろう。

 でも、ライラはジョニーの噂話を聞いて、居ても立ってもいられなくなった。

(――それに、ジョニーをずっと見ていないし)

 さすがに王女である自分は覚えているだろうが、もしかするとジョニーは自分と木の下でリンゴを食べたことは忘れてしまっているかもしれない。

 そう思うと、何とも言えない気持ちになり、ライラは再び馬に鞭を打った。




 どれくらい馬に乗って走っただろうか。

 月明りを頼りに住宅街を抜けて森の中をしばらく走ると、遠くにぼんやりと古い家が見えてきた。

 ライラは馬のスピードを落とすと、ドレスのポケットからジョニーの家の住所をメモした紙を取り出した。

 ジョニーの家は、あの古い家で間違いないようだ。

 家の少し手前で馬を止めて、降りる。

 辺りが暗くて良く分からないが、そこにあるのは、如何にも魔法使いが住んでいそうな古い家だった。

 持ってきたランタンに火を灯して照らしてみると、レンガ造りの壁の一部には苔が生えていて、一瞬、廃屋のようにも見える。

 家には明かりも灯っていなかった。

 ライラは一瞬躊躇したが、小さく頷くと、玄関のドアをノックした。

 返事はない。

 ライラはもう一度ノックしてみた。

 やはり返事はない。

 ライラが試しにドアノブに手をかけると、ドアは呆気なく開いた。


「――失礼します」

 ライラは内心の怖さを隠しつつ、王女らしく堂々と張りのある声を出した。「マスター・ジョニー、いるのですか? いるなら返事を……」

 ライラが一歩家の中に足を踏み入れると、足先に何かが触れた。

 ライラは小さな叫び声を上げた。

 持っていたランタンで恐る恐る足元を照らしてみると、何やら大きくて黒いものが床に倒れているのが見える。


(――えっ?)

 ライラがランタンでその黒いものを良く照らしてみると、倒れていたのはジョニーだった。

 何があったのかはわからないが、ドアのすぐ近くでジョニーが倒れているのだ。

 気を失っているのか眠っているのか、目を固く閉ざして全く動かない。

 ライラはランタンを放り投げるように床に置くと、慌ててジョニーの方に駆け寄った。

「――ジョニー!」

 ライラはジョニーを抱き上げると、身体を揺さぶった。「どうしたのです?! 大丈夫ですか? 目を覚ましなさい……」


 ジョニーが園遊会に来なかったのは、放浪癖のせいではなく、ここで倒れていたからだったのだ。

 どうしよう……、とライラは恐怖で身体を震わせた。

 このままジョニーが目を覚まさなかったら、どうしよう……。

 ジョニーが年老いて、やがて自分の目の前から消えてしまうのを自分はずっと嫌がっていた。

 でも、こんなにも早く、ジョニーが自分の目の前から消えてしまうかもしれないなんて……。

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