第1節 暗号少女は雨に濡れる
お久しぶりです。今日から更新再開です
「……はぁ」
雨の中1人で歩く少女。 藍色の髪を携え、傍から見ると小学生と言われても疑いようがない体躯をしている。
とは言っても、彼女は別に小学生ではないし、むしろ、そこらの小学生など比べ物にならないくらい知識も知恵も、力も持ち合わせていた。
登録番号2番サイファ。 彼女は暗号の名前を貰っているドールだ。
相手を油断させるための幼い容姿、しかしながらも目の底には他人を信用しないというような深い疑惑の色を灯らせ、傘もささずにとぼとぼと道を歩いていた。
ドールズは世間的にあまり良い目では見られていない。
軍事的にも利用できそうな強化人間のごとき少女たちを普通の人は恐怖する。そもそも、襲われればひとたまりもないのだ、積極的に関わろうとする方が酔狂というものだろう。
「サイファ」
「……何よ」
1人で歩くサイファに後ろから声をかけた人物がいた。サイファは立ち止まり、振り返ることなく返事をする。
彼女に声をかけたのは登録番号1番リスト。紫の髪をしたサイファと同じくらいの体格のドールだ。サイファとは連番、そして培養器から出た時期も同じ。つまり、姉妹のようなものである。
サイファは否定するだろうが、リストとサイファは仲がいい。なんとも言えない関係を保ちつつも、サイファもリストを邪険にできないのである。
「んむ、帰ろうよ。皆……心配してる」
「うん、なんで溜めたのよ? 心配してないでしょそれ!」
「……まぁ、サイファ出てくの、割といつもの事だし、皆、夕飯までには帰ってくるでしょとか言ってた」
「……いや、なんかそう思われてるのもムカつくけど、あんまり否定できない自分がさらにムカつくわ」
やれやれと肩を竦めながらリストの方に向き直るサイファ。
「まぁ、サイファとグラフって水と油みたいな……?」
「確かにね、多分どこまで行っても仲良くは出来ないわ、それは確実」
実際、ドールの外出は制限されている訳では無い。現状、ドールへの対抗手段などドール以外に存在せず、外に危険はほとんどないと言っていい。
それなのにリストが迎えに来ている理由はサイファが喧嘩の末に研究所を飛び出していったからである。
グラフ……登録番号3番の黄髪の少女である。正義漢と言ったような少女であり、彼女はサイファと相性がとても悪い。言わば太陽と雨雲のような関係である。
「グラフもまだ落ち着いてないしなー……ん、じゃあ、今から遊びに行こ」
「は?」
「どうせ、今戻ってもまた喧嘩しそうだし、遊びに行こうって言ってるんですし」
真剣な顔でサイファを見つめるリスト。 なんだか面倒くさそうなことになったと研究所を飛び出したことに若干の後悔を覚え始めたサイファだった。