第5節 白黒少女は歌いたい 前編
『準備できた?』
「そうね、大丈夫そう。ハカセにお金も多少は貰ったし」
何ヶ月ぶりかの外行きの服に袖を通したパネルはなんとも珍しい。
それだけパジャマの姿が周りの印象に残っているということだろう。
『じゃあ、行こ。私がナビする』
「え? あ、うん」
なんでか積極的なパネルに若干違和感を覚えつつも手を引かれそのまま部屋をあとにした。
何かを確認することも無くてくてくと歩いていくパネル。手を引かれて歩くボード。はたから見たら見た目が違いすぎるため、姉妹には見えなさそうだ。
「どこに向かってるの?」
『まぁ、たまには行きたいなって思ってたところ』
「パネルが外に行きたがるのは珍しいわね……?」
『ほんとにたまに行きたくなるけど、1人だと外行くのめんどくさいから。帰りは任せた』
「えぇー……仕方ないわねぇ」
そんなやり取りをしていると目的に着いたのかパネルが立ち止まった。
「ここ、は?」
『カラオケ』
「から、おけ?」
『そう、カラオケ』
カラオケは今でも普通に残っている昔からのアミューズメント施設の一つである。
ゲームセンターのように家で同等の体験が出来る物はほとんど廃れたのだが、何故か根強くカラオケだけは人気を維持して文化として残り続けている。
「からおけって、なぁに?」
『簡単に言うと歌を歌うための施設』
「うた? ……歌?」
『ボード、最近は音楽にハマってるでしょ?』
「まぁ、そうね」
ボードは昔流行った曲である演歌に興味を持ち、どうにか聴く手立てがないかと探していた。
パネルはそれを察しており、ネットワークの情報網を駆使して先日ボードにあげた音楽プレイヤーに詰め込んでいたのだ。
更に今朝は小声ではあるが演歌を口ずさんでいたボードに気が付き、カラオケに行く提案をしたのである。
『ボードはいつも家事頑張ってるし、私もお世話になってるから、ちょっと頑張って連れてきてみた』
「むむむ。さぷらいず、ってこと?」
『そゆこと』
「ふふ、ありがと、パネル」
『とりあえず入ろ』
2人は揃ってカラオケ店に入店した。カウンターには人がおらず、機会の自動音声が2人を迎える。
『いらっしゃいませ』
「あ、ご丁寧にどうも……」
『自動音声に返事しても意味ないよ』
「そ、そうなの?」
ドギマギしているボードを横目に必要な手続きをパネルはサクサクと進めていく。表示された部屋を確認し、パネルはボートの手を引いた。
『行こ』
「は、はーい」
流されるがままにボードはその後ろを着いていくしか無かった。
狭い部屋。ボートがまず思ったのはそれだった。モニターが着いていてソファーがあり、机がある。それくらいだ。
そういえば、からおけというものがなんなのかもよく分かっていない。言われるがままに着いてきたがなんとなく、説明から歌を歌うところだということは分かる。
「ねぇ、パネル?」
『何?』
「ここって、どんなところなの?」
『カラオケっていうのは空のオーケストラの略で、流れてくる曲に合わせて歌を歌うだけの場所』
「そ、う……ふむふむ」
説明されてもよく分からないような顔をしているが、とりあえず歌を歌う場所だということだけは認識したボードは何をすればいいのかとそわそわとしている。
『SADで曲を入れるんだけど……とりあえず入れるね』
パネルは自分のSADを操作して曲を入れた。




