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第四話 下世話な狸

2/06追記。すみません。自分で読んでてどうにも面白くなさすぎるので、最初っから書き直しました。旧バージョンは一応カクヨムの方に残しておきます。登場人物はほとんど変わらないのですが、ユノがやって来る部分とかいろいろ内容変わります。明後日くらいまでに五六話まとめて内容入れ替えるので、読者の方にはご迷惑おかけします。

 俺とユノがコントしている間にはうんともすんともならなかった携帯は、俺が駅舎に入った瞬間に、まるで監視でもされていたように元宮先輩からのメールを受信し、彼とゴディタニナがいつごろ駅に着くかとついでに先輩の車のリペアキーを持っている社長があとで車を回収しに来てくれる旨が書かれていた。


 横着したりふざけていたりする割にはやるべき仕事はちゃんとする人である。昔から……、いや昔はただのずぼら野郎だったな。

 駅の電光掲示板などに驚くユノとくだらない話をすること十数分。

 まったく連絡通りの時間に元宮先輩とゴディタニナがやってきて俺たち一行は草津へ向かう電車へと乗り込んだ。



 二人席しかない電車なので主従と俺たちはそれぞれに分かれて座った。

 ゴディタニナとユノは見慣れぬ電車に目を輝かせ、窓の外を流れる景色を静かに見つめているのでをほって置いて俺と先輩は今後の予定確認も兼ねた相談を始める。


「とりあえずこっから先だが、僕たちは草津の温泉まで二人を届けたら折り返して浜岡に戻る。んでもって明日の十時に迎えに行く、そこまではいいか?」

「はい。向こうの旅館は経営者がこっち側の事情にある程度明るいので全部任せて大丈夫、なんでしたっけ?」


 というか、こうして考えると妖怪とかのファンタジーってヤクザとかの裏社会と同じくらいには普通の生活と近いところにあるもんだな。とか思ってると、さらに元宮先輩は衝撃の話を打ち明ける。


「そうそう。ていうか、妖怪だからね従業員の大半。事情に明るいというより、向こうも一種当事者なんだよ」

「へ!?」

「お前が入社したときに説明しただろ?最近じゃ人々の信仰心が薄れてきたせいで神族や精霊も人間界の経済に少なからず関わらざるを得なくなったって」


 その話には確かに聞き覚えがある。元来妖怪や神と言うものは人々の信心や恐怖心、あるいはそれらの混ざった畏怖などによって存在を成り立たせているが、それらが揺らいでくるとその性質は実際の生物に近付き、寝食の必要が出てくるのだったか。そこら辺をかいつまんで答えると、元宮先輩は『正解!』と手のひらを一つ打ち続きを語りだす。


「要するにシノギだけれどもね……。彼らは本来己がいるべき山や川といった自然を離れられないから結構田舎に行くと妖怪が普通に働いていたりする」


 というか、我らが浜岡市も結構地方都市なのだが……。


「もしかして先輩、うちのあたりも妖怪います?」

「うん。こっちの世界じゃ魔法使う人間が少ないせいでお前の眼がなまってるのかもしれないし、僕たちの化けの術はお前が行った世界とは術の構造が違うから気づきにくいかも知れないが……。結構いるよ。妖怪」


 マジか。今度注意してみてみよう。

 ちなみに、俺のチート『魔術解析』は『魔術だときづかなければ解析できない』とか『術によっては時間がかかる』とかの制限があるため彼らの化け術の中でも紛らわしいものは結構解析できずにいる。


「ともあれ、それを置いといて。話を戻すけど」


 と、先輩は自分の前にあたかも箱があるように、ではなくわざわざ幻術で箱を出現させてからそれを横にどかして続ける。


「明日は十時に迎えに行ったあと、あのあたりのめぼしい神社とかをいくらか回って昼過ぎごろに旅館から向こうの世界に帰ってもらう、と言う予定だね」

「分かりましたが、今の演出の必要性は……?」

「ないよ。で、だ」


 と、先輩はさっきまでの真面目な表情をふざけたものに代え目を輝かせる。いや、まあさっきまでも真面目な顔でふざけていたんだが……。


「あの嬢ちゃん、どうだった?」

「どう、とは?」


 薄々下世話な質問だろうと勘づきながらも俺は精一杯はぐらかそうとする。


「異世界に行って、強くなって、何ならハーレム作れるくらい女の子が寄ってきたであろう河野君的にどうだったかって聞いてるんだよ」

「うん、直接的に下世話なこと言いやがったな!?ていうかすぐそこに本人いますよ!」

「安心したまえ、うちの業界じゃ聞かれちゃまずい話をすることもあるから音漏れの心配はない!」


 そう言って彼が指差す先には鞄かけフックにかかった小さな黒い布がある。


「何すかそれ?」

「縮小版蚊帳吊狸、だな」


 いや、名前だけ言われても困るんだが。そんな俺の心証を察したか仕方ねえなと彼は説明を始める。


「ほら、怪談とかであるだろう?夜道を歩いていると急にあたりが真っ暗になって、道も見えなきゃ助けも呼べないって。ああいうヤツをいじって『助けを呼べない』を転じて『音が外に漏れない』にした術」

「術っていう事は……」

「ああ、あの黒い布はあくまでエフェクトみてえなもんだから。術を解くと消えるぜ?」


 つまり、結界術のような物だろうか?じゃああれはお札とか魔法陣みたいな……、どう見てもただのぼろい布にしか見えん。


「ちなみに一部伝承では狸が金玉を伸ばして旅人を包んでいるという説もあるが……」

「なんつーバッチいことしてんだアンタ!」

「アレはただの結界、実体のない術の塊だよ」


 うわ、ビビった。フックに先輩のモツがかかってるかと思ったじゃねえか。というか、絶対俺のツッコミが入ること想定して言葉に間を作ったな、この狸。


「ま、それは置いといてだ。異世界でモテモテだったお前的にはあの従者の子はタイプなのか?ええ?」


 チッ、せっかく話をそらせたと思ったのに。というか、また意味もなく木の葉を段ボール箱に代えやがった。


「色々誤解があるみたいですけど。俺はまず異世界ではモテなかったんです!」


 しょうがない、諸刃の剣で同情を引く作戦に移るか。モテなかったのは事実だし、これなら先輩も引いて……。


「え、そうなの?まあ、でも正直お前がモテたかどうかはどうでもいい。さっさと感想を言え!さっき駅でいい感じに仲良くしゃべってたから僕は気になってるんだよ!」


 そうだった。こんなんで引く人間じゃなかった。いや、狸だが。


「さあ、話せ話せ。なんであんなに仲良く漫才やってたのか、タイプなのかタイプじゃないのか、結婚するのかしないのか、この元宮先輩にたっぷりと聞かせてもらおうじゃないか。ええ?」


 ニマニマ、ニマニマ張り付いた笑顔が鬱陶しい。

 あと、さらっと結婚させようとするんじゃない。

 背景を流れて行く黄葉しかかった銀杏並木のきれいさをぶち壊しにする下世話さである。


「別に向こうが明るい性格だったからうまくしゃべれただけで別にユノがタイプとか、だから距離を詰めようとしてるとかじゃないですってば!」


 そう、向こうがコミュニケーション能力高かっただけである、と主張したかったのだが。


「ほほう。ユノ、とな。もう下の名前で呼んでいるのか……」


 これ以上ないぐらい三日月に歪んでいた唇をさらにゆがませて先輩は笑う。

 揚げ足取りにきてやがる……。


「いや、下の名前しか知らないだけですってば!特にタイプでもないですし」

「チッ、マジで言ってやがんのかよ……。つまらねえでやんの。年頃なんだから一目惚れとかしとけばいいのに」


 年頃だからって一目惚れするわけじゃなかろうよ。


「何ですか。先輩だって僕より一つ上なだけなんだから、年頃なのは一緒でしょう?」

「いや、僕狸だから人間とはいろいろ寿命とか違うしー」


 と、今度は頭の後ろで手を組み替える。

 でも俺は知っている。


「化け狸の精神性はむしろ人間に近いですし、途中まで人間として育てられて生きてきた先輩の情操は人間とそう変わらない筈です」

「クソ、バレたか」


 バレたか、と言うより数日前にこの世界の妖怪について彼がそう説明したのであるが……。


「大体俺が彼女に惚れてたとしてそれがどうなるって言うんです?」


 恋愛話を好むような質ではなかった彼が意外としつこく食い下がってきていたことに俺は首をかしげる。


「本人たちをいじり倒す。幻術とか使ってそこそこ程度に感動的な演出を入れて酒の肴にする。その上で一番いいタイミングですべてを台無しにする。或いは、お前ら二人をくっつけてクレールとの交渉の材料にする。ついでにこっちに都合のいい不平等条約とかを結ばせる」


 と、臆面もなく言う彼にチョップを入れて俺は切り返す。


「人を資源として最大活用しようとするんじゃない!このド畜生め!」

「だって狸は人間じゃないし、何ならむしろ動物的な意味で畜生だしー」


 開き直ったように言う彼に俺は芝居がかった動きを意識しつつやれやれと首を振る。

 と、一瞬沈黙したのちに神妙な顔でにらみ合っていた俺たちは同時に噴き出してしばらく笑った。俺が辛辣めのツッコミを入れて先輩がおどけて返す。それは俺にとって懐かしいやり取りであった。

 そう、召喚される前のまだ普通の男子高生にとっての日常であった。そのことを思い出しようやく異世界から帰ってこれた実感がして俺の胸の内は少し温かくなった。


「ま、何でもないならそれはそれでいいさ。とはいえ、せっかく異世界まで言ったのに女の子の一人もナンパしてこないとは、そんな子に育てたつもりはありません!」

「先輩が育てたのは俺の反骨精神だけっすよ」

「アッハッハッハ。いい返しができるようになったじゃないか。肩の力も抜けたか?」


 肩の力が抜けた?言われてみてハッと気づく。そう言えば異世界より帰ってこの方、向こうと同じ感覚でいつ襲われるか緊張しっぱなしであったのかもしれない。なんだかんだ、俺はこの人にはかなわないなあ。


「おいじゃ、ちょっとトイレ行ってくる」

 

 俺が苦笑すると、先輩が席を立った。

2/06追記。すみません。自分で読んでてどうにも面白くなさすぎるので、最初っから書き直しました。旧バージョンは一応カクヨムの方に残しておきます。登場人物はほとんど変わらないのですが、ユノがやって来る部分とかいろいろ内容変わります。明後日くらいまでに五六話まとめて内容入れ替えるので、読者の方にはご迷惑おかけします。

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