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第十三話 目的



「つまり、今のクマタニなら結界を破れるかも知れない、って―とこだ」

「つっても、結界破ったところで一般人に被害出るだけでいいところなんて一つも……」


 実際問題、『逃げられない』という一点のせいで思考が鈍ってしまっていたが敵はかなりの狂人のようである。


「いやいや、人質が意味があるのはな、『向こうの攻撃がこちらに届き、かつこちらに向こうを倒す手段がない』時だけなんだよ。向こうが一般人に手ェ出す前にこっちが居なくなって、でもってあのクソ野郎を倒しちまえば良い」

「そりゃ、理想はそうですけど……」


 何度も説明したとおりだが、こちら側は虎の子の社長(+地脈)くらいしか勝ち目がない。

 その社長も今は遠く市役所に居て、言って戻って来るだけでも一時間以上かかる距離。

 俺の魔力総量じゃ二連続転移は使えないし、神域外じゃ社長は魔法が使えない。


「どう考えたって、三十分はかかる計算ですよ。逃げるだけならできますけど、それで一般人死ぬんだったら胸糞悪いじゃないですか」

「おいおい、忘れてねえか?」


 先輩が懐に手を突っ込みつつそう言った。


「アンデルの嬢ちゃんのこれ、使うなら今だろよ」


 言うと、彼は件の魔道具――オーブの付いた鍵を手渡してくる。




 熊谷さんを結界にぶつける、という作戦自体の実行はそう難しいものではなかった。

 俺の魔術で弾幕を張って援護するふりをしつつ、熊谷さんの退路を少し逸らす。

 それくらいしか手の打ちようがない、と言う言い方もできるが。


「へぇ、色々考えたみたいですねぇ」

「よそ見してんじゃ、無いよォっ!」

「チッ!」


 向こうさんには早くもこちらの目論見に気付かれたようだが、熊谷さんが逆上していることが良い方向に働いた。


 敵の『目的』とやらの関係か、激しい攻防を躱しつつもジェイコブ・スタンレーは一切のダメージを受けていない。いや、受けないように立ち回っている。


 そのせいで、こちらの誘導がきれいにはまる。


「オッケー、河野! 後2メートルだ」

「了解です!」


 俺は弾幕、元宮先輩が計測係でユノは熊谷さんに回復魔法を当てる役。

 魔術に対して強い耐性を持っている今の熊谷さん相手じゃ、並の術は弾かれてしまうところだが流石は巫女と言ったところか、わずかながらも熊谷さんの顔色に効果が見える。


 先輩曰く、『祟り』は熊谷さんの精神力又は体力が尽きると解除されるらしく、怒りによって精神力が持つにしろ、体力が切れると危険なのだとか。


「河野、そろそろだぞ!」

「はい、わかってます」


 結界の縁が徐々に近づく。

 敵はまだ何もしてこないが、直前までわからない。じっと注視しつつもアンデルの作ってくれた魔道具を握りしめた。


「今ッ!」


 先輩の声とほとんど同時、パリンとガラスの割れるような音がして結界が破れる。


「ユノ、こっちに!」


 一瞬離れるだけとはいえ、ユノを置いていくわけにはいかない。

 先輩含め三人を効果範囲に入れて魔道具を起動する。熊谷さんは悪いが、時間稼ぎ役だ。




「社長!」


 転移と同時に、社長とアンデルの手を掴んで再転移。

 事務所に移動して事情を説明した。


「まあ、わかったけれど……」


 何らかの書類を書いている途中だったらしい社長と、暇を持て余しているらしいアンデル。


「とりあえず、市役所の方にお詫びの電話を入れたら現場に向かうわ。ユノちゃん、元宮君は神域起動用の準備を。河野君と……アンデルちゃん、悪いけど時間稼ぎに言って頂戴」


 手早く指示を出すと彼女は携帯を取り出す。


「アンデル、これしばらく借りてもいいかな?」


 今更ながらに使用許可を取ると、快諾が返ってくる。


「うん、シンジ君のために作った道具だし、好きに使ってください」

「ありがとう」


 言って、一つ深呼吸。

 こうしている間にも熊谷さんが危ない。


「行くぞ!」


 魔道具を起動し、転移陣が開く。

 瞬間。


「待ってましたよ! ええ!」


 陣の向こうから、声がして手が伸びてきた。

 先ほど見知ったばかりの声――ジェイコブは実に嬉しそうに笑うとアンデルの足を掴んで、強引に魔法陣の向こうへと引っ張っていく。


「アンデル!」


 咄嗟に俺も術陣をくぐるが……。


「まんまとはめられた、ようさね……」


 陣の向こうで見たのは道端にへたり込む熊谷さん、ただ一人であった。

すみません、来週の更新はお休みします。

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