第二話 彼女の事情。
2/06追記。すみません。自分で読んでてあまりにも面白くないので、最初っから書き直しました。旧バージョンは一応カクヨムの方に残しておきます。登場人物はほとんど変わらないのですが、ユノがやって来る部分とかいろいろ内容変わります。明後日くらいまでに五六話まとめて内容入れ替えるので、読者の方にはご迷惑おかけします。
ゴディタニナ的には、俺たちは完全に部外者であるからだろう、召使いちゃんとは違って一緒に食べることを許された。関口亭は洋食屋と言っても特定の国籍があるわけではないのでいろいろな料理を出してくれるのだが、特にメインで出てくるビーフシチューがおいしいのだ。以前接待で一度食べた時にとてもおいしかったのでここで食べれなかったらゴディタニナを恨むところだ。
「それでどこへ案内してくれるというのだ?」
召使ちゃんを介さずにしゃべることにしたからかようやっとこちらを見るようになったゴディタニナ。流石神と言うべきかとても礼儀のなったナイフとフォークの動きで丁寧にご飯を食べている。最も顔は相変わらずの仏頂面なので全く美味しそうには見えないが。
「はい。事前に慰安目的と聞いておりましたので温泉や霊脈を中心に数か所を回っていただこうと思っています」
答える元宮先輩の手付きは微妙に不慣れに見える。生粋の日本妖怪だからかな?俺のテーブルマナー?聞くなよ、下手だから。
「そうか」
そう言うと再び無言で食べ始めるゴディタニナ。そして虚空を睨んだままびくともしない召使いちゃん。正直、超いたたまれない。新人教師の初めてのあいさつ直前に場を和まそうとして校長先生が言ったジョークが滑るくらいいたたまれない。
とはいえゴディタニナの面子を考えるなら『一口食べる?』とか絶対に言えないわけで。
ただひたすら無言のまま食事が進んだ。楽しみにしていたビーフシチューの味は全くと言っていいほど記憶に残らなかった。
食後、俺たちは先輩の車で浜岡駅まで移動。そこからは電車で草津温泉を目指す予定だ。ちなみにゴディタニナたちの旅行は一泊二日で草津の温泉とその周囲の霊脈のある山地と妖怪の集落をめぐる予定である。会計は済ませておくから、と言った先輩に後を任され鍵を預かった俺は二人を車まで誘導する。
「ほう」
店を出るなりゴディタニナがため息を漏らした。静かに吹いたビル風に白いひげが揺れる。関口亭の内装は西洋風のレンガ造りであったもののコンクリートの建物もアスファルト敷きの地面も見慣れぬものだろう。
その隣では召使いちゃんが息をのんで赤い目を丸くしていて、無表情以外にもきちんと感情を顔に出せる年相応の反応に俺は妙に嬉しくなったりした。
「待たせてしまいましたね」
と、会計を済ませたのであろう先輩がやってきた。中学時代からぶっきらぼうなしゃべり口調しか見たことがない俺はどうにも違和感を覚える。その彼に鍵を渡そうとすると、
「しばらくこのあたりを歩いても、良いか?」
ゴディタニナが静かに言った。社長の資料によると彼が治めるクレールと言う世界はいわゆる『中世ファンタジー』な世界であり、地球の建築に興味がわいたのだろう。
「わかりました、案内しましょう。ただ、従者殿の格好が少し目立ってしまうかもしれないので私のみの同行でもよろしいでしょうか?」
客の要望とあれば答えぬわけにはいくまい。召使いちゃんのメイド服は確かに目立つかもしれないしな。そう思っていると当の召使いちゃんが疑問を呈する。
「御柱の安全は…」
「構わない。さがれ、ユノ」
「ですが…」
「この者が安全と判断したのだ、信じようではないか」
「ありがとうございます」
先輩はゴディタニナに頭を下げるとこちらに近付いてきて俺に顔を寄せる。
「(河野。追って時間は連絡するが、草津までの電車の予約変更を頼む。あと、ユノちゃんにコレを)」
そう言うと、俺にビニールの包みを渡してくる。包みはほのかに香ばしいにおいを漂わせていて、その中身が食べ物であることを伝えてくれる。なるほど、先輩がゴディタニナと召使いちゃんを引き離したわけが分かった気がする。ずっと上司と一緒だったら気疲れしそうだしな。
「主神殿、それでは一時間ほどこのあたりを案内させていただきます」
そう言うと先輩は神を連れて浜岡駅の方へゆっくりと歩き出した。
二人、厳密には一柱と一匹が去り俺と従召使いちゃんが関口亭の駐車場に残された。鍵を預かっても無免許故に俺はこの車を運転できないのだが……。
「とりあえず、食べなよ。冷めるぜ?」
阿呆みたいに二人してボーっとつっ立ているのもアレなので、先輩に預かった包みを開きプラスチックの小さな容器に入ったビーフシチューとパンなんかを渡してやる。
「私に、くれるの?ありがとう」
彼女が駐車場の車止めに座って食べようとするので俺もその隣に腰掛ける。
「おいしい、です」
プラスチックのカップやスプーンの質感に少し気味悪さを感じている様子ながらもハフハフとビーフシチューを口に入れ彼女は微笑んだ。
この娘、こんな風に笑うんだな。小動物のような可愛らしい様子で美味しそうに微笑んでプラスチックカップを抱えた、彼女がビーフシチューを食べるのを俺はしばらく見つめていた。
流石にプラスチックカップをポイ捨てするわけにもいかず先輩が包んでくれたビニール袋にそれを入れた俺は一度スマホに連絡が来ていないかを確認し、従者ちゃんを連れて駅へと歩き出す。
「不思議な光る石板を使うのね?」
石板って。そういや中学時代に校則違反承知で学校にスマホ持ち込んでた奴らがそんな隠喩使ってたけど……。彼女の眼には確かに石板に映るのだろう。こっちを去る前から使っていた大分型落ちの愛用携帯である。
機械とか、電波とか言っても通じないだろうと考えた俺は
「これはスマホって言う、通信道具。テレパシーみたいなものかな?」
とざっくりとした説明をする。
「すまほ、通信、テレパシー……。遠隔念話のような物?」
「うーん、まあそんなところだね」
こりゃ通じないな。そう思った俺は早々と説明を諦め駐車場を出る。車は……。社長に連絡だけしてほっとこう。免許ないやつに預ける先輩が悪い。後で叱られろ!
小一時間ほど歩き回ると言っていたし、そこそこゆっくり歩いても三十分ほどで駅に着くと判断した俺はせっかくなので召使いちゃんにいろいろ質問することにした。まだ秋になり始めたこの季節、熱い日差しの中で吹く風が気持ちよかった。
「召使いちゃ……ユノちゃんはさ。人間なの?」
さっきあの仏頂面爺が名前を呼んでくれたおかげで助かった。流石に本人相手に『召使いちゃん』はまずい。
「私は、ヒューマン種だよ?」
別に獣人かエルフかと疑って聞いたわけじゃなく神様であって実はものすごい年上、とか言う展開を疑ってたんだが。この娘はもしかすると天然なのかもしれない。まあ、ヒト種なら見た目通り、俺と同じくらいの年齢か。
「クレールにはゴディタニナ様以外にも神様がいるんだろう?ならどうして他の神様と一緒に来なかったの?」
俺も今まで三件ぐらいしかこの手の接待を体験していないが、基本的に神と言うのは群れるものだ。いや、人もだけど。というか、基本スペックは人類の方が低いので人材引き抜きの意味合いでもシンプルな慰安の意味合いでも、能力が高くて立場が上の方のやつを連れてくる神が多いのだ。
神々の世界も世知辛いんだろうなあ。
「御柱、うちの神界だと嫌われてるから……」
ぅおっと!初手地雷……。主神が嫌われてるって、どうなのよその神界。
「で、でもほら。ゴディタニナ様の奥さんとか……」
「離婚した。今は御柱の息子の内儀」
神話あるある!こっちの世界でもそこそこあるだけに理解できるけどでも今はお呼びじゃないヤツ!
「じゃ、じゃあその息子さんとか」
「絶賛喧嘩中」
ですよね!コンチクショウ!息子に嫁さん持ってかれたら怒るよね!
「いや、御柱の奥方への態度が悪すぎて愛想つかされた。怒ってるのは息子神様の方」
元凶はゴディタニナかよ!ダメジジイじゃねえか!
「ぶ、部下の方とか」
「奥方様と一緒に離反した」
うん分かってた。わかってたけどなんつーかもう。だったら!
「仲のいい神獣とか」
「いない」
「いないんだ……」
いっそシンプルだなあ。ていうか、なんであのじーさん主神できてるんだよ!登場人物の大半から嫌われる王って何者だよ。
「と言うか、ゴディタニナ様それでよく主神の座を追い落とされないな」
「強いからじゃないかな?」
「いやどんだけ強ければそこまで嫌われてて主神になれるんだよ!」
強いから何とかなるものじゃねえだろ……。
「でも、御柱は良いお方よ?みんなから『悪い神じゃないんだけどねえ』って言われてるくらい良いお方だよ?」
「悪い人じゃないはいい人って意味じゃねえ!」
「クスクス」
と、突然ユノが笑い出した。どうしてなのか全くわからず俺は首を傾げ彼女の顔色をうかがう。そんな俺を放っておいて今しばし彼女は肩を震わせると、目元をぬぐって口を開いた。
「シンジは面白いね」
「面白い?」
「いや、シンジがって言うより私に原因があることなんだけどね。私はこれでもクレールでは結構偉い方の神官なの。だから、対等な立場で人と喋ることってあんまりなくて。つい」
なるほど、彼女の身分が実際どうなのかはしらないが、神官にとっての圧倒的上位の存在のゴディタニナか自分より下の位階の神官たちとしか接したことのなかった彼女にとってみれば俺と言う存在は確かに稀有だったのかもしれない。
「もしかしてかしこまったほうが良かったか?」
「それは大丈夫よ、砕けた態度の方が私も気楽でいいし」
「そうか」
それから、しばらくの沈黙。もうすぐ秋になろうというのに昼過ぎの燦燦と照る太陽が眩しく、熱い。
だからか妙に人通りの少ない裏道を静かに二人分の足音が響く。
しばらくして、ユノが再び口を開いた。
「私ね、外の世界を知らずに育ったの」
「へ?」
「いや、言う順番が逆か。私は孤児だったの」
急に重い身の上話を始めた彼女に戸惑う俺をよそに彼女は話を続ける。
「私は両親の顔も覚えてないくらい小さい頃に捨てられたらしくてね、神官たちの一人が気付いた時には御柱の神殿にいたらしいの」
彼女は足を速めるでもなく緩めるでもなく、先ほどと同じようなスピードで歩く。俺にはその淡々とした様が彼女が世間を知らぬ故なのか、それとも自分を捨てた両親への無関心故なのか見当もつかなかった。
「それで私は神殿で育てられたの。御柱も先輩の神官たちも私を可愛がってくれたわ」
これはきっと彼女の壮絶な過去が明かされるに違いない、と俺は続きを促す。
「それで?」
「それだけ」
「うぉおおい!?」
続きがあるのかと思っていたらものすごく早く話が終わったのでずっこけた。
「えぇ!?」
「でも、そうね。さっき御柱が街の景色を見てとても驚いていらしたでしょう?」
と、急に話題転換。うーん、この子は天然故のついていきにくいところがあるな。
「ああ、そうだったな」
「その時、私には何を驚いているかわからなかったの。しいて言うなら御柱が驚いていることに驚いたくらい」
と、そこでようやく彼女が言いたいか察した俺はわずかに息を呑んで彼女の次の言葉を待った。
「だって私は神殿の外を知らないから。御柱が何に驚いているのかもわからなかった。でも、少し寂しいなって感じたの」
先ほどからのこの子の様子からするにゴディタニナとは単に主従であるだけでなく、まるで義理の親子のように慕っているのだろう。その感情が理解できなかったのに寂寥を感じるのも無理はない。
「安心しろ、それは自然なことだ」
だから、俺はどこか不安を感じさせるようなはかなさを受け取り彼女を励まそうと声をかける。
「お前がゴディタニナ様を慕っているからと言って何もかもを理解する必要なんてないし、いずれお前がいろいろなことを経験して理解できるようになる日も来る……」
少しでも励みになれば、と俺は彼女に優しく説いたのだった。
感想等もらえると嬉しいです。
2/06追記。すみません。自分で読んでてあまりにも面白くないので、最初っから書き直しました。旧バージョンは一応カクヨムの方に残しておきます。登場人物はほとんど変わらないのですが、ユノがやって来る部分とかいろいろ内容変わります。明後日くらいまでに五六話まとめて内容入れ替えるので、読者の方にはご迷惑おかけします。