第三話 成平環
彼女が落ち着いたところで、そういえば自己紹介がまだだったと口を開いた。
「俺は河野真司だ。いわゆる『召喚勇者』ってのを数年やってて、日本に戻ってきてから『藍崎企画』に就職した。よろしく」
「じゃあ、改めまして。ボクは成平環。中卒で超能力者やってます」
どっちが苗字なのかよくわからん名前だな。
「あ、成平が苗字で、環が名前ね。逆にしちゃうと男の子の名前になるでしょ?」
「言われてみれば、それっぽいな」
「ソレもあって、よく男と間違われちゃうのです」
そういってはにかんで笑う様子は間違いなく女の子である。
「で、あの人たちをどうにかしなきゃなんだよね?」
確認を取るように成平が顎をしゃくった先には、いまだによくわからない論争を続ける魔王と勇者がいる。
「なぜ貴様はそうも人に暴力を振るう! 恐怖を与える! その力でもって強引に支配しようとする!?」
「その恐怖が! 恐怖こそが! 次の世代から戦争をなくし、千年の平和と差別なき世界を生むのだと、なぜわからん!」
うーん、言ってることが難しくて高校中退の俺にはわからない。
「ボクも中卒だから、よくわかんないんだけど……。魔王さんの方を殴ればいいのかな?」
「そうじゃねぇかな……」
どうしているかわからず当惑していると、
「じゃ、ちょっと行ってくるよ」
まるでコンビニにでも行くような足取りで、成平がすたすたと魔王の方へ歩いていく。
「え、ちょ……」
「あ、ボク一人で多分何とかなるから、見てて」
あまり強そうに見えない彼女だが。
さっき言っていた超能力とやらが関係しているのだろうか。
「ねぇねぇ、魔王さんちょっといいかな?」
「なんだ!?」
急に話しかけられた魔王が少し慌てた様子で成平の方を振り向く。
「えい!」
その瞬間、成平が懐から取り出したナイフが魔王の胸を貫か……なかった。
「我を愚弄する気か? 坊主ッ!」
魔王が苛立たし気に裏拳を振るう。
「ボクは女だっての!」
それを成平は右手で防ごうとして……。
「きゃッ!」
そのまま吹っ飛ばされる。
「……」
一瞬、呆然としてしまったがどう考えてもまずい事態だろう。
何の不備だか知らないが、このままでは成平が死んでしまう。
「おい! 大丈夫か!」
吹っ飛ばされた成平の方に駆け付けると、吹っ飛ばされた衝撃であちこちをすりむき、頭からも血を流していた。
スカートの裾には泥がこびりつき、衝撃のせいかだいぶむせている。
「やっぱ、一回目はこうなる、よね……」
成平が小声で妙なことを呟く。
「何言ってんだお前! 死ぬんじゃねえぞ!」
俺が言った瞬間、少女は瞼を閉じた。同時に、わずかに動いていた胸もだんだんと動きを止めていく。
トクン、トクン、トクン、……、トクン……………。
「嘘だろ! おい、返事をしろよ!」
俺が正気を取り戻し、回復魔法をかけようと手を伸ばすももう遅い。
成平が死んだ。
「……が苗字で、環が名前ね。逆にしちゃうと男の子の名前になるでしょ?」
ん? 何か大きな違和感を感じて首を巡らせる。
「ちょっと、河野君! 自己紹介は一回きりなんだから、ちゃんと聞いてよね!?」
「ん? あ、ああ。すまん」
しかし、成平環か。本人の言う通り苗字と名前を逆にしてしまえば性別も反転してしまいそうだ。
「ソレもあって、よく男と間違われちゃうのです。アハハハ」
そう言って、彼女はやや大袈裟に声を立てて笑う。
……アレ? 笑い方に少し違和感を感じた。
「どうか、したの?」
覗き込むように問われて、少しびっくりする。妙に真剣な瞳に、吸い込まれそうな雰囲気すら感じたその時。
「何がおかしいというのだ!」
成平の笑い声が大きかったのだろうか、今までこちらに気付きすらしなかった魔王が激昂して突っ込んでくる。
「河野君、ボクに任せてと言いたいところだけど……。少し助けてほしいことがあるから、魔法を使えるように準備だけしておいて。またその時に頼むからさ」
言うと、こちらへやって来た魔王へと振り向き、成平は横跳びに跳んで拳を避ける。
「待て、魔王!」
「甘いぞ!」
追いかけてきた勇者が魔王に向かって光弾を放つも、魔王は掌から光を放って横にそらす。
「まだまだ!」
追加の光弾を撃ちつつ接近する勇者。その弾幕を魔王がことごとく逸らすせいで、オークション会場の建物にどんどん傷が増える。
魔王と勇者が接近戦をし始めたので俺は成平の方へ寄る。
「あぶねぇ野郎だな! 成平、巻き込まれるぞ!」
魔王の方を見て、何か考えるようにしていた彼女に光弾が当たりそうになって、咄嗟に引き寄せようと手を伸ばす。
「今!」
だが、成平はそれを見もせず、躱す。同時に着弾した光弾も懐から出したナイフで弾き落とした。
「ボクは大丈夫! 河野君にはもっと必要な役目があるから、今は待機して!」
大丈夫と言うなら、信用するが。
成平は危なげない様子で光弾の嵐をかいくぐりつつ、魔王に接近する。
「我に挑むつもりか! 坊主よ!」
接近に気付いた魔王が振り向きざまに、裏拳気味の拳を
「だーかーらッ、ボクは女だよ!」
魔王が振るった拳を、あらかじめわかっていたかのように背をそらして避け、体のばねを使って戻しざまにナイフを振るう。
「おれを忘れるなよ! 魔王!」
魔王がナイフを避けると同時、その後ろから勇者の飛ばした光の槍が魔王に命中する。
「ぐっ!」
のけぞりつつも、続けて放たれた二射目は避けられる。
その先には成平がいるはずだが、今度もまた予知したかのように跳び退って避けている。
「どういうこっちゃ……」
唖然としながら見つめる中で、成平はすべてが見えているように魔王と勇者の攻撃を躱して、適切に勇者をサポートしていく。
「河野君! あと十秒したら、ボクめがけて特大の雷の魔法を撃って!」
「え、はい!」
急に声を掛けられ、驚いたがうちの社員なだけあって腕は確からしい。
信用することにして、胸の裡でそっとカウントを始める。
(九、八、七)
いつまでも攻撃の当たらない成平に苛立った魔王が、自爆じみた範囲攻撃を放とうとして勇者の突貫に阻害され、代わりに勇者が吹っ飛ばされる。
(五、四、三)
勇者がいなくなったことで一騎打ちになった成平と魔王が、ナイフと魔術の応酬。
相変わらず紙一重でホイホイ避ける成平が何かを見てニヤリと笑う。
(二、一、……)
避けていった結果として体勢を崩してしまった成平に魔王が再び拳を大降りに振りかぶる。
「ゼロ!」
俺が成平を信用して全力の雷魔法を放つと同時、いくつかのことが起こった。
一つ目は、魔王の拳を受けた成平が合気じみた動きで魔王を投げ上げたこと。
二つ目は、その投げのさなかに復帰して突っ込んできた勇者の拳が魔王の腹に当たり、魔王を中心に横向きの力を加えられた成平の投げが垂直に半回転したこと。
そして三つ目。その結果として、成平と魔王の立っていた位置が入れ替わる形で二人が突き飛ばされたこと。
結果として、俺の雷魔法が空中の魔王に当たる。
「なんだと!?」
魔王が驚くのも束の間、成平の投げの勢いによって魔王は地面に叩きつけられ、刹那に競り台から神器を回収した勇者の手によって魔王は止めをさされた。
「何だありゃ……」
偶然と呼ぶにはあまりにも『揃いすぎた』さっきの戦いを目にした俺は、呆然と呟いた。
「河野君、撤収するよ?」
「あ、ああ。わかった」
止めを刺されたとはいえ、まだかすかに息のある魔王と言い合いをしている勇者を放って俺達は事務所に帰ることにした。
オークションで買って、神殿に寄付するってのが大事だからね。勇者から強奪するわけにもいかないし、次のオークションなりを待つしかないのだ。
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次回更新は、来週の月曜日です。




