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新・プロローグ (こっから読み始めて大丈夫です、安心してGo ahead!)

エイプリルフール企画、とかではなく。

とっつきにくいと言われることが多いのでプロローグの前のお話を一つ。

「これで止めだ、くそジジイ! 『ア・ラッセン・ケグト・エンペラーレ』!ッ」


 とある異世界、神々からは『オンペラーレ』と呼ばれる大陸の、その最果て。

 少年――日本より召喚された勇者の叫びとともに、魔力が解き放たれる。描かれる魔法陣は豪華絢爛、放たれるは天を穿って山をも砕く極太の紫電。その威力は大地を抉り遠く離れた雲をも吹き飛ばさんとするほどであった。


 その威力を前にすれば、彼の怨敵――魔王ですらも灰燼と帰すであろうが、されど油断せず少年は魔力を練り上げる。


「『バルフォッケン・ケーセム』!」


 それは加速の呪文。

 瞬時にして音の数倍へと加速した少年は懐から取り出した拳銃を乱射、近づきながら抜刀した細身の長剣をもって、爆煙の中で立ち上がらんとしていた魔王を幾百となく斬りつける。


「フハハハハ、これくらいで吾輩を倒せると思ってもらっては困るな! 勇者、リュウジ・マツイよ!」


 しかし、魔王は沈まない。


「噂の結界かよ! クソほど固ぇな!」


 魔王が魔王たる所以の一つ。今まで幾千の猛者たちの膝を屈させてきたその魔術結界を前にして、しかしリュウジは攻撃の手を止めない。


「吾輩の『鉄壁』を知ってなお、挑むか。少年」

「ハンっ! 大したことじゃないね。てめぇが無敵だってのはてめぇの魔力が持つうちだけ。ひたすら殴

ればいずれ敗れる!」


 言うとリュウジは再度加速する。


「ハハハ、不屈の精神か。その意気や良し!」

「諦めが悪いのは日本人の専売特許なもんでね!」


 ゆっくり移り変わる視界の中で魔王を斬りつける。たとえ手ごたえがなくても宿敵の魔力はどんどん削れていく。最後に笑うのは己だ、そう言い聞かせて。


十回。


百回。


千回。


「ッ!?」


 数えるのも面倒なほど斬りつけ続けた少年は、誰も追いつけないはずのスピードの中にあって殺気を感じ、身を横に飛ばす。


(コイツ、まさか俺に追いつきつつあるのか……!)


「今のを避けるか! 勇者よ」

「追いつけるアンタの方が、異常だっての……!」

「なに、新しい技術を見ると、己も使いたくなるのが老人の性分じゃ」


 一瞬の会話、されどその間にもどんどんと魔王はリュウジの速度域に近づく。

 一合、二合。

 一方的だったリュウジの剣戟に、魔王の持つ暗黒の剣が徐々に追いつき始める。


(実力を隠してた、ならまだしもこの一瞬で成長するとか。チートかよ!)

 こちらが魔王の結界を破り切るのが先か、向こうの成長がこちらに追いつくのが先か。

 綻び始めた魔王の結界に素早く目を走らせながら、リュウジは剣を振るい、引き金を引く。


(今! 『ぺニ・クランティス』ッ!)

 実際の時間にしてほんの数秒後。魔王の背後に結界の穴を見つけ、今まで温存していた瞬間移動で魔王の背中へと跳ぶ。誰よりも速い二人だけの速度域からの、更なる加速。誰にも避けられないその一撃。


(とった!)


 内心でリュウジが笑みを浮かべた、その瞬間。


「かかったな?」


 されど瞬間、魔王は今まで結界の綻びのあった場所に魔毒の矢を出現させる。


「罠かッ!」


 リュウジが気付くより早く、放たれた矢は首に直撃し……。



「ここまでのようだな」


 加速から解き放たれてなお、ゆっくりに感じる時間の中で勇者リュウジは魔王の握る闇魔法の剣を首元に突き付けられていた。解毒魔法も治癒魔法も、簡易ながら矢傷を治すのには十分だった。


「くそがっ!」


 されど、魔王の成長はすでにリュウジを超えて遠い。


「ほかに言い残しはあるか? ここまで一人で乗り込んできた貴様の『諦めの悪さ』とやらも、存外あっけないものだったな」


 その言葉にリュウジは静かに諦めたように笑う。魔王が勝利を確信し剣を握る手にひそかに力を込めた、その瞬間。


「なら、聞いてもらおうかな……。俺は一人じゃねぇ! やっちまえ、エリカ!」


 リュウジの笑みが不敵なものに変わり、彼の胸にぶら下がっていたペンダントが光を放って魔法陣を描く。そこから現れるは、金髪青眼。杖を握った一人の少女。


「任せて、リュウジ!」


 彼女はペンダントの中で練り上げた膨大な魔力と複雑な術式を即座に展開し、魔法を放つ。


「超極大魔法、『アルタ・ヘクト・エントラ・パスケ・ヴァーレ』ッッ!!」


 八重に重なった複雑な幾何学が解き放つのは無限にも思われる数の眩き光の大槍。

 魔に属するものを滅する、神罰と浄化の光だ。


「これなら……ッ!」


 そう、リュウジが結界を削りエリカが必殺の一撃を撃ち込む。それが彼らの作戦だった。



 これがよくできた英雄譚なら、魔王はこの光の槍に貫かれて絶命しただろう。

 或いはよくできた吟遊詩人の物語であるなら、絶命と言わずともダメージを負った魔王相手にもう一戦し、倒せていたかもしれない。


 だがこれは非常な現実。


「フハハハハ、勇者よ、どこまでも楽しませてくれるなぁ!」


「そんなっ!」

「嘘だろ……ッ。おい!」


 そう、煙の後に現れた魔王はやはり無傷……。


「ふむ、なかなかいい奇襲だ。渾身と言ってもいいであろう」


 まるで褒め称えるように、喜ばしいと笑みを浮かべる魔王。


 それに反して、リュウジたちの表情は暗い。


「なんだ、今度こそ終わりか。期待させておいて肩透かしを食らわせるとは……」


 瞬時に察したか、魔王の表情から喜悦が抜け落ちる。


「が、この程度で万策尽きるというなら。貴様らもハズレであったか」

「負け、られるかよッ!」


 言葉の直後、リュウジは目に光りを灯し再度加速する。

 だが、そうして放った剣戟はいともたやすく魔王に受け止められる。


「それは先ほども見たわ」


 ただただゴミを見るような無表情。霧散させていた闇の魔力を再び剣へと編んだ魔王は、それをあえて大ぶりに振りかぶる。


「くっ」

「リュウジ、アタシの魔力であなたを飛ばすから……、逃げて!」


 言ってエリカの練った魔力は、魔王に霧散させられる。


「良い台詞だ、感動的だな……。だが無意味だ」

「どっかで聞いたことあるネタだな、魔王ともあろうものがパクリか?」


 リュウジは最後の反撃とばかりに皮肉を言うが、もはや魔王は言葉を返しすらしない。ただただ無情に剣を振りかぶり、勇者と少女は最後の抵抗とばかりに魔王を睨む。



 そして剣が振り下ろされる、まさに瞬間。



 ポンッ!



 どうにも緊張感のない、瓶からコルクの抜けるような音がリュウジの耳に響いた。

 次いで視界一杯に映っていたはずの闇魔法の剣と何故かそれに突き刺さる形でいきなり現れた日本刀が二枚の木の葉に変わるのを見て、唖然とした。


 まるで狐に鼻をつままれたようだ、そう思いながら刀が飛んできた方向へと振り向く。


「狐じゃねぇ、狸だ!」

「変なプライド刺激されてる場合ですか!」

「ッ!??」


 見えたのは三人の不揃いな格好をした男女。


 リクルートスーツの金髪美人に、小柄で爺臭いTシャツにジーパンの青年。そして最後に、こちらも無地のTシャツにジーパンを着て、黒いジャケットを羽織った少年。


「何者だ貴様らは!?」


 リュウジより一拍遅れて気付いた魔王の言葉に、彼らの一人、爺臭い青年が口を開いた。


「通りすがりの仮め……、痛っ」

「ここでぼけてもネタわかるの勇者の彼だけっすよ! 自重してください先輩、勤務中です」


 ボケた青年に少年がチョップを入れる。それを傍目に今度は金髪の女性が名乗りを上げた。


「私たちは警視庁民事三課、著作権侵害事件担と……、痛ッ!」

「こんな時に社長までボケにでください、今日は時間が押してるんです……。ちゃっちゃと片付けないとサービス残業ですよ」


「わかったわよ」

「あいじゃ、手筈通り僕と社長でそっちの青春男女の治療はやっとくから。お前はあそこのオーガもどきを頼むな」


 というか、かりそめにも勇者と魔王の最終決戦の場に割り込んで来たというのに随分と悠長に話している。そして、格好も戦場に来るものではない。


 魔王はその様子に激怒した。必ず、かの邪知暴虐の王を……、もといこのふざけた珍奇団三人組を倒さねばならぬと決意した。


「吾輩を前に随分とふざけてくれるなぁ……ッ!」


 それはバトルジャンキーとまで呼ばれた彼のプライドであった。


「あれ、魔王さんだいぶ怒ってるわねぇ……」

「僕の『オーガもどき』がまずかったかなぁ」


「社長たちが変なネタ挟むせいですよ!」


 ふざけたやり取りをやめぬ三人を前に魔力を暴発させ、一気に亜光速へと加速する。それは勇者リュウジとの闘いで得た身体強化の深奥にあるもの。されど……。


「はい、ストップっす」


 先ほどまで『社長』とやらと駄弁っていた少年が『通常の』速度で呟くと同時。

 少年の直前、剣を振りかざして無防備に胴をさらした状態で加速が一気に消え去る。


「ま、ご丁寧に術式組んでくれて助かりました」

「なッ……!」

「あ、その手の質問は慣れてるんで。サクッと気絶しちゃってください」


 『何をした』とすら言わせてもらえず少年が放った電撃が魔王を襲う。呪文も鍵言も、魔法陣もなしに少年が放った魔術に魔王は驚愕する。。


「馬鹿な! 結界が……」

「ん? 壊しましたよ」


 確かに、身にまとっていたはずの魔力は分散している。


「何故……! そんなことがッ、できる!?」

「まぁ、そういう『チート』持ちだから、としか言えないっすけど……。ま、あとは練習と実践っすかね」


 まるで強引に意識を奪わんとばかりに打ち出された高圧の電流に、それでも気合で持ちこたえながら魔王は問いかける。


「まさか……、神だとでもッ、言うつもりかッ!?」


 その言葉に、少年はなおも掌から雷を飛ばしつつ。


「いや、『機械仕掛けの神』(デウスエクスマキナ)的な意味でなら、神とも言えますけど。神ってのは俺らより世知辛くて、金と利権に雁字搦めになってる連中ですし……。ま、あっちこっち勝手に手を出してその『世知辛い』部分を捻じ曲げるって意味では『メアリー・スー』の方が正しいですかね?」


 少年が首を傾げつつも断言すると同時、ついに気力が切れたか魔王の体から力が抜ける。それを軽々と受け止めた少年へと、『社長』が声をかけた。


「そのネタも多分通じないわよ……。一応、広告はしっかりしなきゃだから私が名乗っておくわね」


 その手には、いつの間にかビデをカメラが握られている。


「私たちは『藍崎企画』。日本と異世界の平和をできる範囲で、対処療法的に(早口)守る株式会社です」

 

 そう、これは誰かがご都合主義のハッピーエンドを迎えるために裏方で奔走する、とある中間管理職たちの物語なのである!


「社長、その名乗りは魔王さんの意識があるうちにしといてくださいよ。この人だってイツカうちの顧客になってくれるかもしれないんですし」

「いいのよ! 適当に戦闘シーンのある仕事にかこつけて、広告用のPV撮るってのが今回のメインなんだから」


 多分、そのはずである!


「はい、撤収!」


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