「好き」という言葉の魔法
七月にふとした弾みから、一回り年下の彼氏は私に「好き」という言葉を口にしなくなった。
言葉がすべてではないことは知っている。でも、言われなければ不安は募る。勝手に私ばかりが彼氏を好きみたいで、だけど感情を押しつけられない。
デートはしてくれるし、笑って話してくれる。それで十分じゃない。無理矢理自分を納得させようとしている私は、それでも言葉を欲しがってしまう贅沢者。
十二月に入って、彼氏のお母さんにばったり会った。「初めまして」と私が名乗ると、彼氏がお母さんに「彼女さんです」と紹介してくれて驚いた。嬉しい気持ちが溢れるのと同時に紹介の仕方のかわいらしさに微笑んでしまう。私は彼氏の「彼女さん」でいいのか。
次の日、彼氏の職場に車でお迎えに行った。車内で世間話をしていると、彼氏が思い出したように「この間、職場の忘年会だった」と、食事内容や飲み会でよくあるゲームの様子など教えてくれた。
少し悩みながら「若い独身男性って誘われたりしない?」と私は訊いてみた。干支が同じの年下彼氏はなんでもないことのように「職場で彼女がいるって言ってるから」と軽く答える。
年の差を気にしていた私は「今どき年の差なんて関係ないでしょう」と続けられた言葉に舞い上がった。うん、本当にそうだね。私も明日、職場で「彼氏がいる」って話すよ。
クリスマス当日はお互い仕事だから、前倒しでクリスマスパーティー。私は張り切ってプレゼントを用意して、シャンパンやお料理の材料を買う。そこまでお料理が得意なわけではないけれど、せめて彼氏の好きなチーズ味のものを作りたい。
クリスマスパーティーでお料理を「美味しい」と褒めてくれた彼氏に、お店でラッピングしてもらったプレゼントを渡した。「え……何も用意していないけど」という彼氏の返答は想定済み。私がプレゼントしたかっただけだから、見返りなんて求めていない。
プレゼントを気に入ってくれた彼氏の楽しげな笑顔を見ていると、つい本音が零れてしまう。
「好き」
私ばっかり好きみたいで重い女かも。だからこそ彼氏の返事に息が詰まった。
「俺も好き」
数か月ぶりに聞いた、欲しくて欲しくてたまらなかった言葉。言葉はすべてじゃない。だけどやっぱり口にしてくれると心から嬉しい──を通り越して死にそうになった。顔を伏せて動かなくなった私を優しく撫でる手。
「好きだよ」
温かい手と温かい言葉が、七月から死んでしまっていた私の心の脆い部分を蘇らせてくれる。最高のクリスマスプレゼントに堪えきれず嗚咽が漏れる。
言葉だけで十分過ぎるけれど、それ以上を欲してしまってメールを送った。
『大好きです』
『俺も大好きだよ』
返信は彼氏からの大事な大事なプレゼント。一度死んでしまった私の心を生き返らせてくれた彼氏に幸せが訪れますように。