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俺はニートでいたいのに  作者: いせひこ/大沼田伊勢彦
第一章:剣姫の婿取り
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料理の素人・決着

三人称視点です

審査員がソードブレッドと呼ばれた料理に手を伸ばす。

パンに腸詰を挟んで幾つかの調味料をかけただけの料理。

料理と言えるほどの工程はほぼ無かったように思えるし、何か目新しさがある訳ではない。


まぁ、レオナール様が料理が得意だとは聞かないからこんなものだろう。

パンと肉とバターの合わさった味なら想像できる。

ならばあとは調味料の分がどうなるか。


「!?」


しかし、手に取って見て驚いた。


(硬いのは確かだ。だが、いつも我々が食べているパンとはその硬さの種類が違う。焼いたせいか? いや、焼きたてのパンを食べた事はあるが、焼き菓子よりは多少マシ、程度の硬さだったはずだ)


(硬い。確かに硬いが弾力がある。言うなれば、薄い鎧の向こうに柔らかな肉体の存在を感じ取れるような……)


一口齧る。


(やはり硬い。だが、それは表面、外側だけの話だ。その表面もガチっとしているものではなく、サクっとかパリパリって歯で簡単に噛みちぎれる硬さ。しかも中にはフワフワモチモチとしたパン生地が詰まっている。そして甘い。小麦とは違う種類の麦を使ったという話だが、そのせいだろうか)


(そして腸詰を齧ると肉汁が溢れる。この肉汁がパンに沁み込み味わい深さが増している。バターとパンと腸詰の組み合わせの妙は今更語るまでもない)


(この調味料、酸味があってさっぱりしているかと思いきや、思いのほか濃厚だ。しかしパンとも肉とも濃厚さの種類が違う。それでいて、互いが互いの味を邪魔せず、そればかりかお互いに引き立て合っている)


(調味料の量が少ないと思っていたが、むしろ逆だ。この濃厚さでは、量が多すぎると肉とパンの味を殺してしまう。この量だから良いのだ)


(この酸味……そして味。まさか南方諸島から入って来たトメイトゥという果実では!? 確かにエルダード周辺の領地には、この果実を使った調味料が出回っているとは聞く。なるほど、果実を使った調味料なら、これだけパンと肉に合うのも納得だ)


(そしてマスタード。これも通常のものではないな。カラシナの種子をすり潰したものにワインを加えて作るのが基本だが、味が微妙に違う。まさか……これも王国南方で流行っている甘カラシを使っているのか!? 廃棄用のワインを再利用するのではなく、専用のワインを作り、それに砂糖を混ぜて作られるというあの高級品!? 確かに、この料理とケチャップと言っていた果実調味料と合わせるなら、通常のものより酸味が強く仄かに甘みも感じられるこのマスタードの方が適切だ)


(ただのマスタードなら芋や肉に合わせて食べるのは普通の事だ。ソルディーク領内ではそのくらいの食事も贅沢とされると聞くが、しかしわざわざエルダードから調味料を取り寄せたのか。この料理と合うのは通常のものではなく、この甘カラシであるという理由だけで……!?)


(エルダード家三男としての財力を惜しみなく披露した形だな。だが、それもまた料理だ。料理とは何も料理人の腕前だけが重要なのではない。材料選びの時点で目利きができねば一流とは呼べない)


(最高の材料を用意しても、それぞれの主張が強すぎて味が喧嘩してしまっては意味がない。良い材料の目利きが褒められるのも、調和が取れてこそだ)


(調理は得意ではないからこそ、材料で勝負か。しかし、それも材料の目利きと味の組み合わせがきちんと想像できてこそ。ここで外さないのは流石だな)


(そういう意味では、腸詰にも何かアイデアが欲しかったところ。噛んだ時のパリっという感触も良いし溢れる肉汁もたまらない。普通に美味い。だが、それだけだ。いつも食べている腸詰の味だ)


審査員たちは無言で食べ進めるが、驚きに目を見開き、手を止める事無く食べきってしまう。

美味しかった。

そう彼らが感じているのは誰の目にも明らかだった。


そして次にイリスの煮込み料理が出される。


ジャガイモと根菜と葉物野菜を少量の塩で茹でただけの簡素なスープだ。


「言えばあまりの腸詰くらい使わせたのに」


「いいのよ」


ベースが違うとは言え、あれに腸詰が入ればポトフ擬きにはなる。

それで評価が覆るとは思えないが、ソルディーク家令嬢の作る料理として見栄えは良くなるだろう。


(普通だな)


(普通だ)


(普通ね)


(普通だわ)


ホットドッグでそこそこ腹が満たされていた分を加味しても、イリスの料理はその評価を超える事はなかった。


こうして、一年連続決闘勝負、その七番目は、レオナールの勝利で幕を閉じたのだった。


食レポって難しいですね

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