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俺はニートでいたいのに  作者: いせひこ/大沼田伊勢彦
第一章:剣姫の婿取り
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それは勘違いに似て……

三人称視点です


「あまり盛り上がらなかったな」


勝ち名乗りを受けたあと、レオナールは苦笑しながらそう言った。

確かに、彼の言葉通りに決闘の会場内では勝者を讃える拍手こそ起こっているものの、歓声はあまり聞こえてこなかった。


歌の素人二人が、それも大して上手くない二人が対決したのだから当然だ。


しかし、イリスは別の事を考えていた。


彼女の脳裏をよぎるのは、先日、従者との会話ででた話題。

決闘内容に歌を選んだのは、イリスを口説くためではないか、という言葉。


レオナールが披露した歌は聞いた事がない歌だった。

交易商から聞いた、遠い異国の歌を王国の言葉に翻訳したものだとレオナールは言っていた。


何故そのような歌を選んだのか。

技術的に大したことがないと自覚しているなら、馴染みのある歌の方が観客も盛り上がったし、それを見て審査員の点数も甘くなったのではないだろう。


実際、イリスはソルディーク家に代々伝わる軍歌を歌った。

審査員は観客の中からランダムに選ばれていた。そこには決闘の噂を聞きつけた、他の領地の人間も含まれている。


彼らに聞かせるなら、国家でも讃美歌でも良かったはずだ。


しかしレオナールは、恐らくこの場の誰も知らない歌を歌った。


理由はわからなかった。

しかし、歌を聞けば理解できた。


あれは(・・・)私達のための(・・・・・・)歌だ(・・)


上を向け。

涙を流すな。

前へ向かって進め。


ゆっくりとしたテンポで明るい曲調とは裏腹に、強いメッセージ性が感じられる歌だった。

一見すると未来に思いを馳せているような歌である。

しかし、過去に何かがあった事を、聞く者に想像させる歌でもあった。


涙を流すほどの事があった。

それでも前へ進まなければならない。

例え孤独の夜が訪れようとも。


戦争により多くの命が失われた。

王国は終始優勢で、ソルディーク家はその中でも栄光を掴み続けて来た。


しかし、無傷とはいかない。

幾つもの悲しみに彩られた勝利だった。


そして戦争が終わり、ソルディーク領は更なる困難に直面している。


そんな自分達に向けられた歌だ。


誰も知らない歌。

審査員は観客の中からランダムで選ばれた人々だ。

歌の技術的な事が語れる者ばかりではない。

巧緻を繊細に評価できる者はほぼいない。


ならば、観客の盛り上がりは審査する上で重要な要素だ。


しかしレオナールはあえて誰も知らない歌を選んだ。


何故か。


ソルディーク領民に聞かせるためだ。


何故そのような事をするのか。

審査基準に対して、観客の盛り上がりは大きな影響力を持つ。

領外から観客も来ているとは言え、多くはソルディークの民だ。

ならば、ソルディークに向けた歌を歌って盛り上げる目的もあったのだろう。


しかし本当にそれだけだろうか。


これまで、レオナールは確実に勝てると踏んだ決闘を選択してきた。

イリスの歌が上手いという話を聞いた事がなかったとはいえ、不確かな歌での勝負を選んだのは何故か。

お世辞にも上手とは言えない歌で、イリスに挑んだのは何故か。


「私を、口説くため……」


呟くと同時に心臓が跳ねるのを自覚した。

頬が紅潮しているのがわかる。


レオナールの顔が、見れない。


「つ、次の勝負は何にするの……!?」


一刻も早くこの場から立ち去りたかった。

尋ねるイリスの声は上擦っている。


レオナールはそれに気付かず、軽い口調で答える。


「料理対決だ」


これまでの交流から、イリスが料理が不得手である事をレオナールは理解していた。

そもそも、貴族の子女が自ら厨房に立つ事など殆どない。

そしてレオナール自身は、ある程度料理ができる。


勿論、金を取れるようなレベルではない。

しかし、ほぼ初心者のイリスよりはまともな料理ができる自信はあった。


また低レベルな対決になるな、と思いながらも、レオナールは勝算あっての提案だった。


しかし、イリスの受け取り方は違う。


自分の得意分野でアピールし。

愛の歌を捧げ。

最後に手料理を振舞う。


それは王国内の恋愛譚などでしばしば見られる求愛の手法であった。


レオナールの顔が、見れない。


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