表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺はニートでいたいのに  作者: いせひこ/大沼田伊勢彦
第一章:剣姫の婿取り
35/40

婿取り12番勝負:歌合戦


歌の巧緻の評価はどうやってするのだろうか。


音程? リズム? 表現力?


俺が思うに、それらの総合力だと思う。


そしてその中でも重要というか、人を感動させる要素が、表現力だと俺は考える。


音程やリズムが完璧でいいなら、それこそ音声合成ソフトが歌手として生身の人間を駆逐している筈だ。

それに、音声合成ソフトを使って楽曲を作っている人も、生身の人間に歌って貰い、それをベースに音声ソフトの声を被せているらしい。

そうする事で、生身に近い声と情感を表現できるそうだ。


そもそもが、知らない曲なら音程やリズムが合っているかどうか判断ができない。

伴奏があるならともかく、アカペラならどうだろう。


勿論、人には不快に思う音程の推移、リズムが存在しているから、アカペラだからとそれらを完全に無視できる訳じゃない。


楽曲の制作をした事がなくても、作業中なんかにオリジナルソングを歌った経験はあるだろう。

しかしその中でも、字余りを感じたり、音程の推移やリズムに違和感を覚える事はあったはずだ。


審査員が知らない歌なら音程やリズムをそこまで気にしなくていいとは言え、『作曲』がヘタクソなら評価は下がるだろう。


だから歌うのは前世で世界的に流行った曲。


日本だけだとこの世界の人々の琴線に触れない可能性があるけれど、世界的にヒットしたなら、この世界で受け入れられる確率は高いだろう。

実際、この世界に生まれ変わってから聞いた音楽を思い返してみる限り、そこまで前世と感性にズレがあるとは思えなかった。


前世の歌詞をこの世界のそれに翻訳するのに、改めて字余り字足らずが強烈な違和感として襲って来る事を思い知った。


前世で勤めていた会社には、強制飲み会があった。

会費は上司持ちだったので、ただ飯ただ酒の機会にありつけるんだけど、まぁ多くの社員はそんな時間があるなら帰って休むなり、趣味に没頭するなりしたいと思っていた。


かくいく俺もそんな一人。


しかもその飲み会では下っ端が何か芸を披露するのが恒例となっていた。


時代遅れの役職『宴会部長』に就任していた先輩から、色々と(強制的に)教わったもんだ。


カラオケでそれっぽく歌う方法もその一つ。


所謂音痴と呼ばれる人間は、音程を取れないだけじゃない。

一番聞く人を不快にさせるのは、原曲と音程の幅が大きく違う時だそうだ。


一音外しているなら、一音外したまま歌い続ける。

音程をずっと外し続けている人間の方が、たまに音程が合う人間よりも聞いていて不快にならないらしい。


そして基本的に人間は、音程を合わせるよりも、音程の幅を合わせる方が簡単なんだそうだ。


そして重要な部分。


感情を込めて歌うにはどうすれば良いのか。


表現力が身についていない場合、歌詞の情景を思い浮かべながら歌うと良いそうだ。


勿論、それだけで人の心に沁みるような歌を素人が歌えるわけがない。

それでも、抑揚もつけずに感情を一切込めずに歌うよりは、人の心を打つはずだ。


調べた限りにおいて、イリスが歌が上手だという情報はなかった。

軍隊と音楽は切っては切れない関係だし、貴族の嗜みとして讃美歌や国家を歌う事はできるらしいけれど、そこに特別な評価は聞かれなかった。


ソルディークの至宝と呼ばれるほど住民から慕われているイリスなら、並みより上手ければ多少は褒める言葉が出て来るものだ。

それがなかったという事は、イリスは歌が得意ではないと断言できる。


披露する機会は多いから、隠れた才能がある事もないだろう。


そして俺。


俺も、特に歌が得意という事は無い。

エルダード家の人間は俺に配慮するような考えを持ち合わせてないからな。

そんな彼らが俺の歌を貶した事が無いって事は、特別に下手って事もないって事だ。


つまるところ、イリスも俺も歌は人並み。

イリスより上手く聞こえる歌い方を知っている分、俺の方が有利、程度の話だ。


そんな訳で今回の決闘はまるで盛り上がらないまま俺の勝利で幕を閉じたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ