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俺はニートでいたいのに  作者: いせひこ/大沼田伊勢彦
第一章:剣姫の婿取り
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勝負の後


「どうなさるのですかぁ~?」


 決闘後のある日、自室で休んでいる俺の下にアウローラが訪ねてきて、開口一番そう言った。


 煽ってくるなぁ。

 アウローラも俺が追い詰められているとわかってるんだろうな。


 周りから見れば俺は、イリスが俺との婚約、結婚を納得するために決闘を続けているように見えていた筈だ。

 そのイリスが婚約破棄を言い出さなくなったのだから、決闘を続ける意味は無くなった。


 そう、周りからは思われている筈だ。


 俺の最終的な目的がニートになる事だと知らなければ、そう思うよな。当然だよ。


「お姉様の訓練は厳しいですからね。お義兄様も体力には自信がおありでしょうけれど、んふふ」


 アウローラにしても、俺がそんな事を考えているとは知らない。

 あくまで、イリスの訓練につき合わせると大変だから俺が困っていると思っている。


 イリスに確実に勝つにはイリス以外の人間を味方につける必要がある。

 これまではイリスとソルディーク家の人間の利害が対立していたから、俺の味方でいてくれたけど……。


 ニートでいたいから、なんて言っても、味方してくれないよなぁ。


「お義兄様、私も味方だとは思わないでくださいね?」


「……なんでだ?」


「お姉様から婚約を破棄するように仕向けてそれが成功した場合、私がお義兄様から恨まれる。それは理解しました。エルダード伯爵家も、そのような場合にはソルディーク家を見限るだろうという事も」


 以前そんな話をしたなぁ。


「けれど、お義兄様の方から婚約の解消を言い出した場合はどうなのでしょうね?」


「……訓練に音を上げて、俺が逃げ出すと?」


「そのような場合、エルダード伯爵家はどのように対処するのか、興味がありますわ」


 どうだろうなぁ。他の家に婿入りさせるか、自分の所で囲い込むか。

 女子のしごきに耐え切れずに逃げ出した、なんて噂が流れたら、俺の評価はだだ下がりだろう。

 となると、婿に出す家の格は下がる事になるだろうな。


 ……そこでニートでいられるか?

 エルダード伯爵家の権威を存分に使えばなんとかなるだろうか……。


 けど、エルダード伯爵家の権威が通じるような貴族だと、あまり余裕がない可能性があるんだよな。

 勿論、家同士の話であれば、例えエルダード伯爵家並に裕福だったとしても、位階が低いってだけで通じるだろう。


 けれどそこから婿入りした三男の待遇だとどうだろうな。


 伯爵家からの援助がなくてもやっていける家なら、通じない可能性が高いし。

 伯爵家からの援助を必要としている家だと、俺がニートでいるためにはソルディーク家と同じように土台造りから始めないといけない。


「普通の貴族であれば、そんな家の恥とも言える人間は、押し込めてしまうかもしれませんわね」


「う……」


 そう、格下の家に婿に出されるならまだいいほうで、家で囲われるとなった場合、その可能性もあるんだよな。

 うちがある程度利益重視型の家だと言っても、利益を確保するために面子を優先しないといけない事もある。


 そんな時に、逃げ出してきた俺のような存在は邪魔になるだろう。


 家臣扱いで扱き使われる可能性もあるし、あまり環境のよろしくない場所に幽閉される可能性だってある。

 そして最悪、そんな子供はいなかった事にされる可能性だって無いとは言い切れない。


 そんなリスクを負って賭けに出るよりは、イリスに勝つ方法を考えた方が有意義だ。


 次のゲームは既に宣言してしまった。

 参加者までしっかり言質を取られたのは、まんまとイリスにしてやられたってところだろう。


 アウローラ達を味方につける事はできないが、中立でいて貰うように頼む事はできるか。

 リーリアを説得するのは無理だな。とすると、俺とアリーシャのイカサマ対イリスの引きって事になるが……。


 勝てる気がしないんだよなぁ。

 

 ダイス・イン・ダイスでの勝負のつけかたは、害虫駆除と似たようなもんだ。

 場に存在している出目の数を手番プレイヤーが宣言する。次のプレイヤーは、その宣言された数が、場の数より少ないと思えば自分は更に大きな数を宣言する。場の数より多いと思えば『アウト』と宣告して全員のサイコロを公開する。

 宣言より出目の数が少なければ、宣言したプレイヤーが差分だけ手持ちのサイコロを減らす。多ければ、アウトを宣言したプレイヤーが同じく差分だけ手持ちのサイコロを減らす。

 手持ちのサイコロが無くなれば、敗北してゲームから離脱だ。


 そしてアウトを宣言して場のサイコロを公開した時、宣言した数と出目の数が同じだった場合、宣言したプレイヤー以外のサイコロを一つずつ減らすんだ。


 相手を攻撃するなら、相手にアウトを言わせるか、相手が次に宣言した数に対してアウトを言う事になる。

 安全策を取るならイリスが宣言した数にアリーシャがアウトを宣告する事になるだろう。


 けれどイリスの場合、そこで同値を出してきそうで怖い。

 それこそ五連打でイリス以外全滅する可能性が普通にあるんだ。


 イリス以外が味方なら、互いの出目とその数を教え合えば事故を防げるんだが……。


「なぁ、ここでイリスが勝ったとして、次に婚約破棄を賭けて一対一の武術対決を宣言する可能性ってあるかな?」


 自分以外に味方がいない事に気付き、ひとまず俺の味方を削るために決闘に勝利した時の要求を変えたとしてもおかしくはない。


「お姉様がそのような真似をなさるとは思えませんわね」


 イリスにとっての正々堂々とは真正面から戦う事だけを指すんじゃない。

 背後からの強襲はイリスにとって卑怯じゃないし、伏兵による奇襲も卑怯じゃない。


「けれど、協力してくれれば土地を分け与えると言って味方につけたあと、その協力者を攻めて土地を奪うのは卑怯だと考えるのがお姉様ですわ」


 なるほど、それは確かにその通りだろう。

 けれど、今回の例えはそうじゃないんじゃないかな。


「でも自分の有利な場所で戦うように相手を誘い込む事は卑怯とは考えないだろう?」


「まぁ……ですわね」


「平原で歩兵を相手に騎兵で蹂躙する事も卑怯とは思わない筈だ」


「そうですわね」


「じゃあ有利な地形に籠る相手を平原に引き摺り出すために一旦退くのは?」


「卑怯とは……考えませんわね」


 そう。次回自分に有利な勝負で婚約破棄を言い渡すために、今回敢えてソルディーク家が味方になるような条件をつける、という行為は、アウローラよりも俺の考えの方が近いと思う。


「……でしたら、今回私はお姉様の味方も、お義兄様の味方もいたしませんわ。勿論、レフェルも」


「それは有難いが、味方はしてくれないのか?」


「お義兄様は私を説得できませんでしたので」


「さっきの例えで納得した訳じゃないのか……」


「はい。そういう可能性もあり得る、とは思いましたが、やはりお姉様がそのような事を考えているとは考えにくいですから」


「むぅ……」


 まぁ、敵にならないだけでも有難い。

 それに、中立だって言うなら積極的に俺もイリスも落とすような真似はしないだろう。

 俺のあとにアウローラという並び順になった時、緊急避難として使えるかもしれないし。


「完全に石像にはなりませんから、詰みの状況に追い込まれた時、私を安全地帯とは考えないでくださいね」


 そんな俺の姑息な戦法は、アウローラには筒抜けなのだった。


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