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俺はニートでいたいのに  作者: いせひこ/大沼田伊勢彦
第一章:剣姫の婿取り
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婿取り12番勝負:国家運営


 国家運営ってゲームは、複数人が組めば絶対に負けないゲームだ。

 勿論それは一人の人間を勝たせるために、他の人間が犠牲を厭わなければの話だけどな。


 ゲームが中盤に差し掛かるとトッププレイヤーを止めるために他のプレイヤーが結託する事はある。

 けれどそれは、誰しもが一位を目指しているから自然と起きる事だ。


 一位を目指しながらトッププレイヤーを妨害する、という中々難しい事を要求される訳だな。

 だからトッププレイヤーが他のプレイヤーの妨害をすり抜ける事があるし、最下位だったプレイヤーが最終的に勝利する事だってある。


 前世でこの国家運営のモデルになったゲームを俺が好きだったのは、全員がプレイングの基本みたいなのを理解していれば、最後まで全員に一位のチャンスがあるゲームだったからだ。

 それは例えば某有名ボードゲームみたいな、ゴールした後でルーレットを回して、その結果で莫大な勝利ポイントを得られる、みたいな運ゲー博打じゃない。


 早い段階でゲームの終了条件を満たしても、速さを重視した結果勝利ポイントが少なかったりする可能性はある。

 得られる勝利ポイントの高い建物を建設したり、五色ボーナスを狙ったり、速さ以外にも一位を目指すために押さえる手段があるのが大きいんだろうな。


 この手の終盤まで逆転の可能性が残るゲームは、ダれる可能性が減るから好きだった。


 一位をあきらめて二位を狙うプレイヤーが出ないからな。

 一位を狙って三位の人間が必死になっているのに、二位でいいや、と思うプレイヤーが三位や最下位を攻撃し始めたら、萎えるだろう。

 少なくとも俺はそうだった。


 勿論、それはプレイヤーの自由でもある。

 最初は一位を目指しているけれど、一位が難しいとなった段階で二位狙いにシフトする。


 それで満足できるプレイヤーがいる事は否定しないし、そういうプレイイングを否定しない。


 ただ、そういう相手とは遊びたくないなぁ、と思うだけだ。


 麻雀とかなら、トップを目指して無理するより、手堅く進めて少しでも点数をプラスにしようって気持ちはわらかんでもないけどさ。


 閑話休題。


 国家運営はプレイヤーがそれぞれターンごとに違う役割を選んでプレイする。

 そして誰がどの役割を選んだのかは、その役割が行動を開始する番にならないとわからない。


 けれど、プレイヤーのうち四人が符丁を使って自分が選んだ役割を教え合えば、他の人間の役割を推理するのは容易い。

 例えば一番最初に行動する、他の役割一つを指定してその役割をそのターン行動不能にする『殺し屋』に延々とイリスを狙わせ続ける事だってできる。

 同じく他の役割を指定してその役割から金を盗む『盗賊』もそうだ。


 誰かが八つの建物を自分の場に建てたターンが終了するとゲームが終了するが、役割の中には他のプレイヤーの建物を破壊する『壊し屋』という役割が存在する。

 こちらが確実に勝てる状況が整うまで、この『壊し屋』を使ってイリスの建物を破壊し続けてもいい。

 あるいは、選択し続ける事でイリスから妨害されないようにする事もできる。


 本来ならば、自分が一位を目指しながらトップを妨害しようとした場合、妨害用の役割を選んでいられない状況が当然出てくるんだけど、トップを目指さないならその限りじゃない。

 直接的な妨害以外にも、相手の状況から選びたい役割を予想し、自分は必要ないけど、先にそれを押さえておくっていう戦術も有効だ。


 だからこそ、今回俺はこのゲームを決闘内容に選んだ。


 目的はイリスの専属であるリーリアの立場を確認したかったからだ。

 これまでの言動から、十中八九俺の味方になってくれているとは思うけれど、前回のアウローラのように、味方に見せかけて俺の背後を狙っている可能性も捨てきれないからな。


 このゲームなら、リーリア一人がイリスの味方になっても他の人間で組んでいれば勝つことは可能な訳だし。


「けっちゃーーーく! 今回の決闘は圧倒的大差をつけて、レオナール様の勝利です!」


 という訳でなんの危なげもなく俺が勝利する。


 符丁を覚えるなどの明確な味方として行動したのはアリーシャとアウローラ、そしてレフェル。

 ミリナは完全に空気で俺とイリスのどちらの邪魔にもならないように動いていた。


 そしてイリスの専属であるリーリアは、今回明らかに俺達の味方だった。

 一位を目指すわけでも、俺と符丁を共有していたわけでもない。

 ただ、トップを走る俺を止めるような事もなかったし、イリスが絶対にその役割を選ばないといけないって場面で先に選んで潰す事もあった。


「異議は?」


「……ないわよ。ところでリーリア」


「なんでしょう? お嬢様」


 俺がイリスにそう訪ねると、イリスは短く答えた。

 声が硬い。流石にリーリアの態度に気付いたか?


「貴方は私の味方なのよね?」


「はい。私の望みはお嬢様の幸せでございます」


 イリスがリーリアにそう確認し、リーリアは一切の淀みも躊躇もなくそう答える。

 これは、リーリアの動きに違和感を覚えたけど、まだ確証にはいたっていない感じか?

 それとも、リーリアが敵だと信じたくないのか?


「そう、ならいいわ。それで? レオナール。次の決闘内容は?」


「え? ああ、そうだな……」


 それ以上リーリアに何も追及しないイリスに違和感を覚えつつも、俺は次のゲームを考える。

 まぁ、リーリアが完全に味方になった時点で選ぶゲームは決まっている。


「ダイス・イン・ダイスだ」


 各プレイヤー他の人間にわからないように複数のサイコロを振り、出た目が全体で何個あるかを予想し合うゲームだ。

 確認できるのは自分で振ったサイコロだけ。

 出目の合計じゃなくて、出た目、つまり4が全員で何個あるか、1が全員で何個あるかを予想し合うゲーム。


 このゲームはイリスの引きの強さで無双されてしまう可能性があるゲームでもあった。

 けれど、イリス以外の全員がグルなら、それを抑え込んで勝つ事ができるだろう。


 だから、イリスの味方として参加者に選んでも不自然ではないリーリアの立場をはっきりさせるまで、このゲームを選ばなかった。


 ルールのシンプルさと中毒性で言えば他のゲームより明らかに上だから、これで商売をするなら早いうちに領地の内外に知らせておきたいゲームではあったからな。


「参加者は?」


「基本六人までだから、今回からミリナを抜いた感じでいいだろ」


 俺がルール説明をしている間、イリスは妙に余裕そうだった。

 自分の勝負強さが活きるゲームだとでも思っていたんだろうか?


「なら、決闘内容はダイス・イン・ダイス。参加者はレオナールとイリス。アリーシャ、リーリア、アウローラ、レフェルの六人でいいわね?」


「ああ、そうなるな」


 なんだろう。何かを見落としている気がする。


「そう、それじゃあ決闘後の要求だけれど……」


 そしてイリスは俺を見てにやりと笑った。

 その笑みに、直感的にその先を言わせてはならないと感じるが、根拠がわからなかった事もあり、俺は動けなかった。


「私の訓練に付き合ってもらうわ」


「……え?」


 てっきり婚約破棄かと思っていたが、イリスは違う事を言い出した。


 まぁ、これまで領地の現状を散々教えてきたし、俺の活動が領地のためになるという事も教えてきた。

 だから、俺との婚約、というか結婚は領地を守るために必要不可欠だという結論に至ったんだろう。


 そのうえで、嫌な相手との結婚が拒否できないなら、結婚相手を自分好みに育ててしまえばいいと考えたんだろうな。

 イリスが俺との婚約に納得してもらうめに、俺とイリスとの共通の時間を作り出す事が決闘の目的だったから、それはいいんだけどさ……。


「流石に毎日は勘弁してあげるし、遠征にも帯同しなくていいわ。そうね。私と貴方が午前を共に過ごしたら、午後は訓練する、という形ね」


 いや、待て、これはまずくないか?

 

 ソルディーク家が俺の味方だったのは、俺との結婚が領地の救済に不可欠であり、イリスがそれに反対しているからだ。

 けれど、イリスが結婚自体を認めてしまえば、ソルディーク家が俺に味方する理由が無くなる。


 むしろ、領地の窮状に今まで気付かない。気付いていても見て見ぬふりをするような脳筋集団だ。


 イリスの男性の好みと、彼らの上司に求める性質はほぼ同じなんだ。


 つまり、イリスが決闘に勝利した後の要求で婚約破棄を言い出さなくなった時点で、ソルディーク家が全員俺の敵に回る可能性が出てきた。

 

 イリスと結婚するだけなら、これでめでたしめでたしなんだが、俺の目的はその先。

 領地を豊かにして、イリスか俺とイリスとの間に生まれた子供を前に出して、俺は悠々自適な隠居ニート生活を送る事だ。


 イリスの訓練に付き合わされたら、それが叶わない。


 イリスを見る。

 彼女はドヤ顔で俺を見て、鼻で笑った。うわ殴りてぇ。返り討ちだろうけど。 



上り調子の時ほど足元を見ましょう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ずっと順風満帆とはいかず、障害が用意されている所 [気になる点] 展開が軽い [一言] 勝ちを諦めるプレイヤーがいると萎えるのめっちゃわかります 結局楽しいのって本人だけなんですよね。名人…
[気になる点] 閑話休題より以前の文章いらないですよね [一言] プレイングは自由であり否定しないと言いつつも不快感はしっかりと表明するように口先だけ多様性を認めるような素振りを見せるだけの男とは一緒…
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