表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺はニートでいたいのに  作者: いせひこ/大沼田伊勢彦
第一章:剣姫の婿取り
27/40

これからの勝負のために


「お姉様申し訳ありません」


 決闘後、アウローラの第一声はイリスへの謝罪だった。


「いいのよ、アウローラ。むしろ私が不甲斐ないせいだわ」


 イリスはそう言ってアウローラを慰めるが、本心だとわかる。

 恨み言の一つもないのが本音って凄いな。

 例えその場だけだったとしても、俺だったら文句言っちゃってるよ。


 まぁ、同時にイリスがアウローラの裏切りに気付いてないって証拠でもあるんだけどね。


「さて。これで明日から、朝食を一緒に摂って貰うぜ?」


「え? うん、別にいいけど、なんでそんな感じなの?」


 やっぱりあんまり気にしてない感じだな。

 まぁ俺も何か意図があって朝食を一緒にしようって言ってる訳じゃないからいいんだけどさ。


「じゃあ次の決闘だけど、要求は?」


「婚約の破棄よ」


 だろうね。


「じゃあ俺は、そうだな~……」


 正直、ここから要求をエスカレートさせていく気はないんだよね。

 例えば一緒に寝よう、とか、毎朝起こす時にキスして、なんて言っても虚しいだけだ。

 ついでに言えば、碌に好意を抱いていない相手にそんな事をしなきゃいけないなんて苦痛でしかない。

 嫌われるためにやってるんじゃないんだから、そんな要求意味が無いんだよね。


「じゃあ朝食を一緒にした日は夕食も一緒にして貰おうかな」


「いいわよ」


 もうそれ、要求内容を了承したってより、夕食の約束にオッケーしてくれた感じだよな。


「それで? 決闘内容は? どうせあなたの考えたゲームでしょ?」


「それはその通りだけど、一応今作ってる訳じゃなくて、前からある奴を選んでるからな」


「そんな事を疑ってはいないわよ」


 ようは絶対に俺が勝つルールのゲームを今考えてる訳じゃないって弁明だったんだけど、イリスに伝わったみたいだ。

 伝わって、逆に怒られたけれどね。


「ゲーム内容は国家運営だ」


「せめて決闘内容って言いなさいよ」


 思わずそんな言い方をしてしまった俺に、イリスは苦笑いを浮かべてツッコミを入れたのだった。




 そろそろ誰が味方で誰がそうでないのかなんとなくわかってきた。

 ここに来たばかりの頃は、伯爵をはじめ、家臣団の上層部くらいしか確実な味方はいなかった。


 領地軍は一部が最初の決闘で敵ではなくなった。

 その後、農作業を一緒にする事で、領地軍の多くが味方になり、敵愾心を抱く者がいなくなった。


 領民は割と最初から好意的だった。

 ユリアス閣下は救国の英雄なのでそれを誇りに思っている人は多い。

 その子供で『剣姫』と呼ばれるイリスはまさに領民の娘的存在。


 ただそれとは同時に、領地が困窮している事も感じ取っている。

 あくまで伯爵家の人気で領民の不満を抑え込んでいるだけなんだ。


 だから、王国一金持ちのエルダード家の三男が婿に来たとなれば、領民は期待してしまう。

 しかもその俺が、イリスと結婚した後の事を考えて色々実験しているとなれば、自分達のためにしてくれている、と感謝する人も多い。


 そして伯爵家に務める人々。

 領地の経営に関わる訳でも、治安を守るためでもない彼ら。


 ようは侍女や侍従なんかだけど。

 彼らの多くは元々貴族でそれなりの教育を受けているから、この領地の状況をわかっている。

 だからやっぱり、俺の味方だ。

 自分達の雇い先が潰れたら困るのは当然だもんな。


 再就職も中々難しい世界だし。


 そんな中でもイリスやアウローラに近い人間はどうなのか。

 例えば領地軍の隊長格やイリスの直属の部下達。

 例えば彼女の身の回りを主に世話する侍女。

 例えば彼女の専属である、リーリア。


 彼女達はイリスの味方なんじゃないだろうか。

 イリスの望まない結婚に反対なんじゃないだろうか。

 イリスを犠牲にして助かる事を望んでいないんじゃないだろうか。


 そんな風に思っていた。


 けれどどうも違うらしい。


 それは、これまで三ヶ月接して来てなんとなくだけどわかるようになっていた。

 それは、先日の決闘の解説内容で、なんとなく理解できた。


 彼女はイリスに気付かれないようにそれとなく、俺がイリスを追い込もうとしている罠へと彼女を誘導していた。

 同時に、イリスが俺に好意を持つようにさりげなく俺を褒めたりフォローしたりしていた。


 リーリアはイリスの望まない結婚に反対しているのは間違いない。

 彼女が求めるのはイリスの幸せだけだと聞いた。


 だからリーリアはイリスを幸せにするために。

 俺との結婚をイリス自身が望むように誘導しているんだ。


 勿論これは俺の推測だ。

 十中八九当たっているとは思うけど、それでも確実じゃない。


 だから確実なものにするために、確認しよう。

 そのための、国家運営だ。


「とまぁ、こんな感じでそれぞれ役割を選んで施設を建てていくんだ」


「自分の建てた施設が八つになったら勝ちなの?」


「いや、誰かが八つ建てたそのターンが終了するまでゲームは続く。その後は施設ごとに設定されてるポイントの合計で勝敗を決める」


「それじゃあ、最初に八つ建てる意味は無いの? 勿論、勝てると踏んでゲームを終了させるためって意味はあるんでしょうけど」


「最初に八つ建てたプレイヤーにはボーナスポイントがつくよ。他にもカードが色分けされてるのは見ればわかるけど、これは赤、青、緑、金、紫の五色あって、これが揃ってるとボーナスが入る」


 国家運営も前世にあったゲームをこちらで再現したものだ。

 元々中世ヨーロッパ頃を舞台にしたゲームだったから、世界観を合わせるのに苦労はしなかった。

 ルールがやや難しくて、建物や役割にそれぞれ特殊な効果があるから、文字が読めない人間ではプレイするのが難しい。

 だから基本、貴族の間で流行らせるつもりのゲームだ。


 実家や、実家付近の領地ではそれなりに好評だけど、やっぱり中々流行らないね。

 この決闘を機に人気が出てくれると助かるんだけどね。


「最大で八人遊べるゲームだ。できれば六人は欲しいかな」


「私とあなた。それとアリーシャは決定でしょ?」


 そのくらいしか味方いないわよね、とでも言いたげなイリス。

 まぁ他の味方になりそうな人は領地の経営で忙しいから、知らないゲームの練習をする暇無いもんな。


「いいぜ、あとはアウローラ、リーリア、レフェル、ミリナでどうだ?」


 最大で八人って言ったけど、このゲーム、八人いない方が面白いんだよね。

 役割が八つあってそれぞれ選んでいくんだけど、誰が何を選んだかはわからないようになってるんだ。

 最初に八枚のうち一枚を伏せて置き、スタートプレイヤーは七枚の中から一枚を選ぶ。

 選んだあとは次の人間に六枚のカードを渡す。

 これを繰り返していくんだけど、七人以下の場合は最後の一人は、回って来たカードと伏せたカードの二択から役割を選ぶ事になる。

 最後のプレイヤーにも選ぶ楽しみが残るし、その手前のプレイヤーも、最後のプレイヤーが何を選んだかわからなくなるんだ。

 けれど八人だと、スタートプレイヤーが最後に選ぶプレイヤーのカードが何かわかっちゃうんだよね。


「その人選でいいの? なんならエルダード家から人を呼んでもいいのよ?」


「ハンデだよ。俺とアリーシャはやりこんでるうえ、俺は制作者だぜ?」


「随分な自信ね。けれど、これまでの決闘内容を鑑みれば、当然の自信でもあるわね」


 アウローラは間違いなく俺の味方になった。少なくとも、イリスの味方はできなくなった。

 俺と結婚して領地から逃げる事ができなくなった以上、俺に領地を再生して貰わないと困るからね。


 そのアウローラの専属であるレフェルも大丈夫。

 リーリア的な思考の持ち主かもしれないけれど、そもそもイリスを勝たせてもアウローラのためにはならないからね。

 俺がアウローラを説得したあの時、レフェルも一緒にいたからな。


 ミリナは立場が微妙だ。

 俺の味方ではあるけれど、イリスの心情を多少は斟酌するだろうからね。

 まぁちょっと話しておけば、どちらの敵にもならないように立ち回ってくれるだろう。

 彼女はそれで充分。


 そしてリーリア。

 彼女が俺の推測通りのイリスの味方であるなら。


 このゲームでさりげなく俺をアシストしてくれるはずだ。

 勿論、リーリアが敵だったとしても負けるつもりはないけどな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 次の決闘のゲームはあやつり人形ですかね?
[気になる点] 最初の決闘まではとても面白かったのですが、最近、決闘(ゲーム)の話しばかりになってしまった感じがします。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ