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俺はニートでいたいのに  作者: いせひこ/大沼田伊勢彦
第一章:剣姫の婿取り
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姉妹の会話


「ねぇリーリア」


 午後、領地軍の訓練に参加していたイリスは、休憩中にリーリアに話しかけた。


「最近レオナールが私の事じっと見つめてくるんだけど、どういう事だと思う?」


 どういう事、と聞きながら、目を逸らし、頬を赤らめていては、期待している答えは明らかだった。


「…………」


 そんな主人をリーリアは冷めた目で見つめる。

 リーリアの方を見ていないイリスは、彼女の目に気付かない。


「……お嬢様はお綺麗でいらっしゃいますから、見惚れていらしたのでは?」


「で、でも、アイツにはアリーシャがいるでしょ!? 今更私なんかに……」


 期待していた答えを聞いたくせに、それを否定しようとするイリス。


「アリーシャ嬢とお嬢様では綺麗さの方向が違います。多くの人間から支持を得られる美しさはお嬢様の方でしょう」


「そ、そうかしら? そうなのかしら……」


「…………」


 どういう心境の変化だろうか、とリーリアは考える。

 イリスがレオナールに好意を抱いている訳ではないのはわかる。

 しかしそれでも、外見を褒められる事に悪い気がしない程度の感情には回復したようだ。


「で、でも、あんまりアウローラの方は見てない感じなのよね。どっちかって言うと怖がってるっぽくて……」


「…………」


 自分の事以外は敏い主人だ。

 リーリアは感心しながらも呆れた。


「それは今度の決闘で初めて真剣勝負をするからでしょう。アウローラ様を見ていないというよりは、見られないようにしているのでは?」


「そういうものかしらね……」


 しかしイリスはリーリアの答えに納得していないようだった。


「イリス様、何かお悩みですか?」


 と、話しかけて来たのはミリナだった。

 最近はレオナールの作業に付き合わされている事の多い彼女だが、あくまでその所属は領地軍なのだ。


 あまり領地軍の一部だけを自分と親しくさせるのはよくない、というレオナールからの意見を、一理あると考えたイリスは、領地軍を順番に彼の元へ派遣するようにしていた。

 更にレオナールの指示する作業を理解している人間がいた方が良い、という言葉にも納得し、最初の決闘からレオナールと付き合いがあり、指揮官としての適性も高いミリナが選ばれていた。


 レオナールとしては、いざイリスと結婚して伯爵の跡を継いだ時、領地軍から不満を持たれては困る、という考えから自分を手伝う人間をローテーションさせるように伝えたに過ぎないが、イリスはそれを、領地軍内で派閥ができないようにする配慮だと考えた。

 レオナールの言動を好意的に受け取るようになったのは、間違いなく二人の関係性に進展があった証拠だ。


「うーん、悩みって程じゃないんだけど、最近レオナールの視線が気になって……」


「ほう」


「ほほう」


 どこから聞きつけて来たのか、領地軍の女性兵士が集まっていた。


「顔はそれなりに良いと思いますよ」


「ええ? ちょっと頼りなさそうじゃない?」


「気さくなのはいいんですけど、ちょっと威厳が感じられませんね」


「頭はいいみたいですけど、腕っぷしはどうなんでしょう?」


「体力はありますよね。夜は凄そうです」


「ちょっと、下品よ」


 女三人寄れば、とは言うが、あっという間に品評会が始まってしまった。

 あまり良い評価はないのね、とイリスはそれを何となく聞いていた。






「んふふ。嫁入り前の女性を、姉と婚約している人間が、婚約者に内緒で自室に呼び出してどうするつもりなんですか?」


 同じ頃、レオナールは自室にアウローラを呼び出していた。

 二人きりというわけでは勿論ない。

 アリーシャとレフェルも同席している。


「お前の考えを知りたいと思ってな」


「考えですか?」


「お前はイリスの味方か? 俺の味方か?」


「どちらでもありませんわ。私は私の味方です」


 レオナールの質問に即答するアウローラ。

 次の決闘で敵同士となる以上、レオナールは彼女の真意を質す必要があった。


「お前なら、この領地の状況と未来が見えているだろう?」


「ええ。子供の頃から知っていますわ」


「なら、俺とイリスが結婚する必要性もわかる筈だ」


「お父様からすればそうですわね」


「何が言いたい?」


 アウローラの言い回しに違和感を覚えたレオナールは詰問口調で尋ねた。

 しかし、彼女は柳に風と受け流す。


「そのままの意味ですわ、お義兄様。領地を預かるお父様からすれば、エルダード家の支援を優先的に受けられるうえに、農地改良の知識までついてくるお義兄様とお姉様を是が非でも結婚させたいことでしょう。けれどお姉様はどう思われますでしょうか? 他の方は?」


「答えになっていないな。俺と敵対する理由にはならない筈だ」


 彼女がイリスの味方だというなら、イリスの望まない婚約を破棄するため尽力するのは理解できる。

 しかし、アウローラははっきりとそうではないと言った。

 ブラフの可能性もあるが、幾らなんでもわかりやす過ぎる嘘だ。


「お姉様の味方ではありませんが、今のところ私とお姉様の目的は一致していますの」


「目的?」


 勿論、レオナールと敵対する理由となる、イリスと合致した目的など一つしかない。


「お姉様とお義兄様との婚約を破棄させるため。それが私がお義兄様の敵になる理由ですわ」


「つまり、お前は領地を見捨ててもいいと思っているのか?」


「まさか。領地を救いたいと思う気持ちは私にもあります。そのために色々な所へ行って勉強させて貰っているんですから」


「だが、俺とイリスが結婚しなければ、領地に対するエルダード家の支援は他の家に対するものと大差なくなるだろう。俺が今やっている実験程度の農地じゃ、そこから十分な生産量に至るまで増やすだけでも数年の時間がかかるぞ」


「ええ。ですから、お姉様と目的が一致しているのは婚約の破棄まで。そこからは、私だけの目的ですわ」


 そしてレオナールは、かつてアウローラに抱いた感覚の正体を知る。

 獲物を見つけた狐のような目に見えたと感じたが、それが間違いではなかったと理解する。


「私がお義兄様と結婚すればいいんですわ」


 まさに彼女は、レオナールを獲物として見ていたのだった。


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