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俺はニートでいたいのに  作者: いせひこ/大沼田伊勢彦
第一章:剣姫の婿取り
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婿取り12番勝負:リバーシ


 一年連続決闘勝負の第二番。その当日。

 前回と同じように、拵えられたリングの内側で俺とイリスが向かい合って立っている。


「今回も大盛況だな」


「また宣伝して客を入れたのね……」


「賭けもしてるぞ。三回目からはアウローラが仕切らせて欲しいって言ってたから、任せるつもりだ」


「勝手に妹を巻き込まないでよ……」


 疲れたように言うイリスだが、決して強い拒絶じゃなかった。

 アウローラの性格を俺以上に知っている訳だからな。

 光景が想像ついてしまったんだろう。


「見物料と賭けの収入は、食料の購入代金になるから、結局周囲の領地に金が戻るし、領民は安く食料を買う事が出来る」


「わかってるから、いちいち言われなくても。私まで感謝されるから、心が痛いのよ」


「それはすまん」


 イリスは定期的に領地の巡回を行っているからね。

 その時に、領民からお礼を言われるんだろう。


 まだ婚約の段階とは言え、イリスが俺と婚約しているからこそ、生活が若干良くなったんだ。

 そして、自分の手柄でもないのにお礼を言われて、罪悪感を覚えるイリスは真面目で根はいいこなんだよな。

 ちょっとなんでも真正面から解決しようとしちゃうだけで。


「今回も解説がいるのね」


 イリスが特別席の一つに並んで座る、ミリナとアリーシャを見て呟いた。

 彼女達の背後には巨大な板が立ててあって、それは8×8のマス目に区切られている。


「そうだけど、今回はあくまでどっちがどういう手を差したかを説明するだけで、細かい解説はしないぞ」


「どうして?」


「互いの意図がバレちゃうだろ」


「ああ、なるほど」


 ちなみに、棋譜という訳じゃないけど、後で感想戦みたいなものを記した本を販売しようと思っている。

 ソルディーク家でこそ流通していないが、リバーシは王国のあちこちでプレイされているからな。

 それの棋譜。

 それも一手一手の詳しい意図の解説も入ってれば、欲しがる人間は多いだろう。


 少なくとも、欲しがる人間が大勢出るような打ち方をするつもりだ。


 数日前の前哨戦でイリスの実力はわかっている。

 そしてイリスの性格を考えると、実力こそ上がっているかもしれないけれど、俺の必勝法を見破る力は無い筈だ。


 あれは知らないと本当にハマるからなぁ。


 中途半端にリバーシを知っている人間ほど自然にハマるから、俺も前世で知り合いにやられた時は驚いたもんだ。

 終わったあとで詳しく説明されるまで、何が起きたのか理解できなかったからね。


「それではただいまより、レオナール・エルダードと、イリス・ソルディークによる一年連続決闘勝負の二番目を始めさせていただきます! 司会は前回と同じく私、ソルディーク領地軍所属のミリナ。解説はレオナール様の侍女、アリーシャさんにお願いしております」


「どうぞよろしく」


 ミリナが声を張り上げるのに合わせて歓声が上がる。


「とは言え、今回は盤上遊戯。一手ごとに解説をしていては、打ち手の意図をバラしてしまう事になりますから、あくまでルール説明を交えた、お互いの打った手の紹介になると思います。見届け人の皆様からでは、盤上が見えないと思いますので、こちらの板に試合の進行具合を表示させていただきます」


 アリーシャもメガホンもどきを使っているけど、全然声張り上げてないんだよな。

 それでも通るんだから大したもんだ。


「ハンデだ。先手後手、選んでいいぜ」


「なら後手を選ばせて貰うわ」


 流石にリバーシは後手有利なのはわかっているか。


「じゃあ俺が先手な」


 そして俺は黒い駒を手に取ると、縦5横6の位置に置いた。

 暫く考えたのち、イリスは白い駒を縦6横4の位置に置く。


 ああ、やっぱりそこに置いちゃうよな。

 これで確定した。イリスは定石は知っていても、必勝法は理解していない。


 リバーシに必勝法が無い、と言われているのは、知っていれば簡単に防げるからだ。

 そして、無意識でも回避できてしまうからだ。


 黒:縦5横3

 白:縦4横6

 黒:縦7横5

 白:縦6横6

 黒:縦5横7

 白:縦6横5

 黒:縦3横5


「……え?」


 ざわつく会場。

 打ち返そうとして、白い駒を持ったイリスがその動きを止めた。

 当然だ。

 彼女の打てる場所が無くなったからだ。


 リバーシではパスの回数は定められていない。

 相手の駒を返せる位置にしか自分の駒を置けないが、相手の駒を返せるならば、どんな場所でも置かなければならない。

 パスはそれが不可能な時のみ。


 けれど、イリスはパスもできずにガックリと項垂れた。


「けっちゃーーーーーーーく!! 全滅! 全滅です!!」


 盤上には黒い駒しか無かった。


「わずか9手! 鮮やかな決着! それにこの左右上下対称の見事な形はわざとでしょうか!?」


「いえ、これは偶然だと思います。あくまで最短決着を狙った結果、このような形になったのだと」


「嘘でしょ……? どうして……?」


「アウローラに師事したのが仇になったな」


「!?」


 まだ盤上を見つめたまま驚愕の表情を浮かべているイリスに、俺はそんな言葉を投げかけてやる。

 はっ、として、イリスが顔を上げた。


「相手と平行になるような手を打たない。中に入り込むように打つ。ひっくり返した相手の駒に隣接した空きマスが少ない場所へ打つ」


 リバーシに勝つために重要となるポイントだ。


「けれど、盤上を全体として見ずに、部分部分だけ見てこれらを組み合わせてしまうと、こうなる」


「…………」


 ほんと、最終形が頭に入ってないと、最後の一手を打たれるまで気付けないんだよなぁ。


「今回の決闘の手順と一手ごとの解説を記した書物が後日販売されますので、詳細はそちらでご確認ください」


「さて、という訳でイリス、明日から毎朝起こして貰うからな」


「く、うう……わかったわよ」


「それで、次の決闘だけど、起こして貰った日は朝食を一緒にして貰おうかな」


「? そんなことでいいの?」


 どんな事を要求されるのか、身構えていたイリスは拍子抜けしたみたいだ。

 ソルディーク家の習慣で、当主の食事に同席して良いのは次期当主のみ。


 そんな習慣があるせいなのか、ソルディーク家ってみんなバラバラに食べるんだよね。

 ランニングを終えて、俺が汗を流して戻って来たら、もう食べ終わってたり、逆に俺が食べてる途中にやってきて、食事だけ持って自室へ行ったりしてたから、実は朝食を一緒にした事がないんだよ。


 昼食は午前中に行動を共にしていれば、昼休憩のタイミングが同じだから大体一緒に摂れるんだけどね。


「ああ、折角だしな」


「? まぁいいけれど。こっちは勿論、婚約の破棄よ」


「了解。じゃあ次のゲームは……」


「せめて決闘内容は、とか言い方変えてくれない?」


 どうやら、俺がイリスの知らないゲームから決闘内容を選んでいる事は予想されているらしかった。

 まぁ、イリスが知ってるゲームだと、経験値というアドバンテージが無いから当然なんだけど。


「次の決闘の内容は――」


「――害虫駆除だ」


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