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盗賊団と不死鳥の女

前回のあらすじ。

異世界に転生した主人公は偶然にも四人の旅人と出会う。咄嗟にビクサ・エッジと名乗った主人公は四人の旅人達と共に大きな湖のある国へと向かうことになった。しかし、道中盗賊団に囲まれてしまった。

荷馬車はあっという間に十数人の盗賊に囲まれてしまっていた。

そして盗賊の集団の中から頭領と思しきガタイの良い男が大きな斧を担いで姿を現す。


「ふっへへ…運が悪かったな。大人しくしろよお前ら。黙って荷物差し出せば命だけは取らないでやるよ」


明らかに片手で持つような代物ではないそれを軽々しく振りながら盗賊の頭領はそう言うが、御者台に座るショーデは慌てた様子もなく頭領に答える。


「私たちは旅人だ、大きめの荷馬車を使っているが商人ではないので今後の生活に必要最低限の物しか積んではいない。道を開けてくれないだろうか。」

「うるせぇ!口ごたえするんじゃぁねえ!お前は口ごたえした罰として積んでる必要最低限の物とやらと後ろに隠れてる女子供をいただこうじゃあねえか!」


あまりの暴論にショーデは呆れため息をついていたが、彼らはなぜこんなにも落ち着いているのだろうか…。荷馬車にいる自分以外の三人は荷物の中をガサゴソと漁ったりなんかしているし、この襲撃にまったく動じていない。


「な、なぁこれって大分危ない状況なんじゃないのか?あんなデカイ斧で攻撃されたら荷馬車なんてひとたまりもないんじゃあ…。」

「なぁに俺たちだってこんなのに出会ったのは一度や二度じゃないよっと!」


そう言ってアシルが取り出したのは三振りのサーベル(?)だ、しかし鞘の上部と下部にベルトで細工されており三振りのサーベルがちょうど扇状になっている不思議な形状だ。


「それで戦うのか?三人で?」


俺の言葉を聞いてカイネが答える。


「いいや、私と父様だけで十分だ」

「えぇ…??」


いや、どう考えてもそれは無理ではなかろうか…?異世界の人間なわけだし多少腕に自信があるのだろうがそれでも人間は人間、二人で数十人の相手をすれば、二人もこの荷馬車も無事で済むはずがない。


「お、おい、敵は見えてるだけで全部じゃないんだ、やめといた方が…。」

「カイネ…!準備は良いか?」


こちらの困惑をよそにショーデが小さな声でカイネに準備を促す。


「おぉーい!ガキ共だけ逃がそうとしてんじゃぁねえだろうなぁ!?余計な真似すれば荷馬車ごとガキ共串刺しにさせるぞぉ!」


こちらの様子をみて怪しんだのか頭領が槍を持った部下に指示を送っている。

と、そのとき。


「親分!こっちの女は荷物おろしはじめましたぜ!」


先に捕まっていたと思しき銀髪の少女はいそいそと抱えていた荷物を降ろし始めている。


「そぉら、そっちの嬢ちゃんは聞き分けがいいみたいだぜェ…お前らも観念しなぁ?」


にちゃあ…と効果音がつきそうな笑顔でこちらに話す頭領、そこで初めて銀髪の少女が言葉を発した。


「エノ!ご苦労様!敵は27人だね!」


そう大きな声で言った少女は腰にあった大きなナイフを二つ抜き放つ。

突如、ゴォ!という爆音が鳴り少女の体を大きな炎が包み込んだ。

炎は圧倒的な熱量で渦を巻きながら燃え盛っており、彼女の周りを取り囲んでいた盗賊数人はその場にいられず逃げ出していた。

突然の出来事に頭領も盗賊たちも唖然としており、そうしてる間に炎は鳥のような形に姿を変え、空へ向かって急上昇した。


「アチチチ!熱ぃ!お、親方ァ!!こ、こいつ!”不死鳥”です!!」

「わ、わからいでか!!お、おい!!矢を放てぇ!」


頭領は上昇する炎の鳥に攻撃を指示した、すると先ほどまでは見えなかった位置から複数の盗賊が姿を現し、矢を放ち始める。


「奴ら、スカウトを潜ませていたか。」


炎に目をしかめながらショーデが驚く。この時ヒルザは怪訝そうな顔で俺をみていたがそれに気づくことはできなかった。

そうこうしているうちにスカウトたちはいくら矢を放っても炎の鳥に矢が効かないことを悟り攻撃を止めてしまっていた。


「ええい!なにしてる!さっさと撃ち落とせ!」

「親方!奴に弓矢なんか効きやしませんぜ!全部燃えちまいまさぁ!」

「グギギギ…ぉおい!不死鳥野郎!てめえ大人しくしねえと!こっ、こっちの奴らぁぶっ殺すぞぉ!!」


御者のショーデに斧を向けそう叫ぶと意外なことに不死鳥と呼ばれた彼女は炎の鳥になったまま言葉を発した。


「話してて解らなかった?その人らはアンタたちなんかじゃ相手にならないってさ?」

「ぐぅぅうう!構わねえ!串刺しにしちまえ!」


業を煮やした頭領が攻撃を指示をする。

しかし命令された盗賊たちが槍を構えるよりも早くカイネが動く。


「父様にも、友人達にも、傷はつけさせない!」


カイネは荷馬車の外に出たかと思うと剣を二本抜き、馬車の上に投げ放つ。

瞬間、ズガガガガッ!っという音が連続し、馬車の外をのぞくと大量のサーベルが降り注いでおり、盗賊たちの持っていた槍は切り落とされ盗賊は傷を負っていた。


「なっ…!?く、くそ!矢だ!馬車に矢を放て!!」


頭領が突然の事態に驚きながらも矢を放つ指示を出すと、今度は遠くで隠れていたスカウトたちが独りでに木に吊り上げられていく。


「ぎゃぁ!」「いてえ!」「う、うあああ!」


またもや部下たちが無力化されていく声を聞き周囲を見回す頭領。


「あまり暴れないことだ。下手をすれば、鋼糸でも体は裂けてしまうからな。」


そう言い放ったショーデの手からは複数の鋼糸…ワイヤーが伸びていた


「てぇめえらああ!俺を馬鹿にするかあああ!」


部下がやられたことで逆上した頭領が斧を大きく振りかぶりショーデを真っ二つにせんと振り下ろした。


「父様!」


カイネが叫ぶ。しかし、炎の鳥ががとてつもない速度で御者台に乗り上げ

ゴッカァァン!!

という金属音がなったかと思うと、人間の姿に戻った少女が二本のナイフで大斧を受け止めていた。


「抵抗はしないほうがいい、アンタたちは運が悪かった…!」


その言葉を皮切りに頭領は斧を引き、大きな声で撤退を指示し、森の中へ去っていった。

一連の流れを呆然と見ていた俺はやっとの思いで声を上げる。


「と、とんでもねぇ…。」


自分はとんでもない世界に足を踏み入れたらしい。


―――――


その後、不死鳥の少女は自分の荷物をまとめショーデや自分たちに声をかけてきた。

不死鳥の少女は近くで見ると思ったより目つきが悪く、というより目に隈ができており、銀髪の髪は所々跳ねているので、どこか不健康そうに見える。


「私が捕まってたせいでとんだ迷惑を掛けました。すみません…。」


先ほどの威容が嘘のように鳴りを潜めたその少女はペコリと頭を下げる。


「何、気にすることはないよ、それよりも見事な腕だな君、名前を聞いても良いかな?」

「んー。今は名乗らないでおきます。名前を名乗るのは二度目に会った時だけって決めてるので…。こちらからもお名前はうかがいません。」

「こちらとしては名乗るのは構わないが…。そういう事であればこちらも無理には聞けないな。」

「縁があればまた会う事もあるでしょう。その時は改めて自己紹介させていただきます。そちらに怪我をした人はいませんか?」

「こちらの人的被害はまったくないよ、君がスカウトたちを炙り出してくれたおかげでね」


不死鳥の少女とショーデが会話している間にヒルザが自分に声をかけてくる。


「のう、ビクサよ」

「ん?」

「お主はあの少女が炎の鳥に変化する前に、”敵は見えているだけが全てではない”と言った、お主は隠れていた弓兵が解っておったのか?」

「え…?俺そんなこと言ったっけ?」

「確かに言うた」


ヒルザに問われ、思い返せば確かにそんなことを言った気がするが…。


「あぁーなんていうか混乱しててさ、正しい言葉が出なかったんだと…思う…たぶん」


思ったままの事を口にした。元々喋るのは得意ではないのできっと選ぶ言葉を間違えたのだろう。

ヒルザが納得のいかない表情をしていると御者台の方から声がかかる。


「さあカイネ達も彼女にお礼を言いなさい。」


そう言われ自分たちは荷馬車から降りて一人一人不死鳥の少女にお礼を言った。彼女は大した事してないですよ…。と気恥ずかしそうに手を振っていた。

そうして、ショーデから荷馬車に乗らないかと誘われた不死鳥の少女はやんわりと礼をいって断り、走っていく馬車を見送ってくれた。

不死鳥の少女は名前を名乗りませんでした。

次は大きな湖がある国へ到着します。

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