旅人達との出会い
前回のあらすじ。
訳あって猫を埋葬したら怨念によって湖に引き込まれて死んでしまった主人公は、大きなクジラに異世界転生をさせてもらうことになりました。
「おーい、お兄さん!おーいおいおい!」
やけにうるさい声で意識が覚める。
「クジラっ!?」
「妙な夢でも見てたのかい?ここいらにクジラはいないよお兄さん。」
目覚めると自分は大きめの車などが通るようなちょっとした山道に横たわっていたようだった。
妙な事を口走りながら目覚めた自分を見ていたのは緑を基調とした服装に身をつつんだ整った顔立ちをした金髪の青年だった。
「なんだいジロジロ人のこと観察して、お兄さんね、こんな道の真ん中で寝てたら危ないよ?」
「あっすみません」
こちらを怪しげに見つめる緑の青年の後ろには二頭の馬に引かれている荷馬車があった。
「ショーデさーん!お兄さん目を覚ましましたよー!」
青年が大きな声で荷馬車のほうに声をかけると荷が積んであると思われる所から40代後半ぐらいの青みがかった髪の色の男性が姿を現す。
「彼に怪我などは無さそうか?アシル君」
「どこも痛がってはなさそうですよ。」
アシルと呼ばれた緑の青年はショーデという男性と入れ替わるように荷馬車の方に戻っていく。
「はじめまして。私はショーデ・ニヒムという者だ、君の名前は?」
「えぇっと自分は…」
元の世界と同じ名前を名乗ろうとしたが、やめた。彼の名前を聞いた限りでは名前の文化が違うようなので、生前プレイしていたゲームの主人公の名前を名乗る。
「び、ビクサ、ビクサ・エッジです。」
「ほう?ビクサ君か良い名前だ。」
一瞬不思議そうな表情になった後、こちらを安心させるように爽やかにほほ笑んだ彼はさらに質問を続ける。妙な名前だったのだろうか…。
「君、行くところはあるのか?どうやら荷物はほとんど持っていないようだがどうしたのかな?」
「あーっと…行くところは無いです。荷物は…最初っから…持って……なかったです。」
怪しまれるとは思ったがここは正直に話すことにした。行くところに関してはこの世界の地理など知りはしないし、盗賊にあったなどと言って嘘をついた所でそもそも盗賊が居る世界なのかも解らないのだ。
「最初から持っていなかった?盗賊にでも盗まれたのかと思っていたよ。」
…。盗賊はどうやらいるようだ。
「ふむ…。どうやら訳ありらしいな。君さえよければ一緒に来るかね?」
「いやぁ…そんな、金も持ってないですし…。」
「なに、行き倒れていた人から金をとろうとするほどそれに困ってはいないさ、それに先ほども言ったがここは盗賊も頻繁に出没する。」
どうやら歩いていくには少し危険すぎる山道らしいと分かり、ここは彼の荷馬車に乗せてもらうことにした。
「すみません、じゃあご一緒させてください。」
荷馬車の中にはなんと二人、少女も同乗していて興味深そうにこちらをちらちらと見ていた。片方はショーデと同じような青い髪の色をした少女で、もう一人は顔の中心にバツ印に傷跡が走っている白い肌と白い髪をした少女だ。ショーデさんが御者をする荷馬車に揺られながらすこしドギマギしていると、先ほど自分を起こしてくれた緑の青年…アシルが話しかけてくる。
「なぁお兄さん、あんた名前はなんていうの?」
「えっと…。ビクサ・エッジって言います。」
「へぇ~!変わった名前だねぇー。俺はアシル・ロキシルっていうんだ。アシルって呼んでよ!よろしくなエッジさん!」
「よっ、よろしくアシル君」
そう言って彼は握手を求めてくる。やっぱり少し変わった名前なのかとやや後悔しながら彼の握手に応じる。するといつの間にやや距離を詰めてきた少女達の方を見てアシルが話す。
「そんでこっちのショーデさんそっくりなのがカイネ・ニヒム!こっちの真っ白いほうがヒルザリザ・ヒルト!」
髪の色以外似ている所は無いのではと思いながら会釈をするとカイネと呼ばれた少女も握手を求めてきたので緊張しながらその細い手を握り返す。
「カイネ・ニヒムだ、よろしく。」
「どうも」
ヒルザリザと呼ばれた少女はやや離れてこちらを見つめながら話しかけてくるにとどまった。
「紹介に預かったヒルザリザだ、みなからはヒルザと呼ばれておる、よろしくな」
「よ、よろしくお願いします。」
見た目とは裏腹になんだか老成した喋り方だったヒルザにやや驚きながら挨拶を返す。
その後は主にアシルが話をしてくれた。
アシルとヒルザはニヒム親子の旅の道中で拾ってもらい、帰るあてもないので共に旅をしていること、最近は付近であまり見られなかった盗賊の被害が増えてきていること。これから行く街には大きな湖があり、それが観光地になっていることなど色々な話をしてくれた。
「でさー、そのアイクって国にはそりゃあもうでっかーい湖があってさ!俺も地図でしか見たことないんだけど…。まぁそこがその国の資源でもあって観光地でもあるんだよねー!」
「へぇー、そんなに大きいのか」
「一目見ただけじゃ海だか湖だか解んないって噂だよ!」
「なるほどなぁ~」
とんでもなく大きな湖があるもんだと思いながらアシルの話に関心しているとアシルが話題を変える。
「ねぇねぇ!俺ばっかり話してるのもあれだからさ!エッジさんの話もなんか聞かせてよ」
「えっ?俺の話かぁ…。」
突然振られた会話のボールを前に少々困ってしまう。まさか猫を埋めたら湖に引きずり込まれて転生してきたとは言えないし、かといって元いた世界の話をしたところで彼らに伝わるものだろうか…。どう返すべきか悩んでいるとアシルが申し訳なさそうな表情になる。
「あー…。無理に話せとは言わないよ。言いたくない事もあるだろうし、まぁまだ会ったばっかりだからね。」
「あっそういうわけじゃぁ…。」
ないです。と言いかけたところで馬車が急停止する。慣性で自分とヒルザ、話していたアシルが転がり体勢を崩す。急停止に動じなかったカイネは運転している父の方へ顔を出す。
「父様!一体何が、―――ッ!?」
体勢を直した自分たちもカイネの方へ行き前を見る。
すると、そこにはこちらに気づき周囲を取り囲む盗賊(と思われる集団)と恐らく自分たちより前に盗賊に囲まれて身動きが取れない少女が立っていた。
登場人物まとめ
主人公ビクサ・エッジ
緑の青年アシル・ロキシル
青い髪の御者兼父親ショーデ・ニヒム
青い髪の少女カイネ・ニヒム
白い色の少女ヒルザリザ・ヒルト
捕まっている少女と旅人の行く末はいかに…。