おまけ
王城へと向かう馬車の中、シンディはずっと気になっていた事を、たずねていた。
「あの、お聞きしたいのですが・・」
「何だ?言ってみろ。」
まだ、少し赤い頬のまま、王子が悠然と答える。少しは王子の風格が戻ってきた様だ。
「 靴屋、服屋、帽子屋を我家に寄こしたのは、殿下ではありませんか?」
「え?は?えっと・・・何の事だ?」
王子の風格は、瞬く間に飛散し、一瞬で全身が真っ赤に戻る。これでは、誤魔化しようが無い。
「殿下なのですね。理由をお聞きしても?」
「りっ・・理由?」
「はい。来られた皆様、酷く必死でしたので、強く言い含められて来られたのだと思ったのですが、理由が分からなくて。」
シンディの言葉に、王子は完全に視線を泳がせ、額に汗を滲ませるばかりで、何か言う気配が無い。
痺れを切らしたのは、王子の隣で、空気の様に存在を消していたダグラスだった。
「それは、勿論レラジット様の服や靴や帽子を揃える為です。」
「え?」
「ダッダグラス?何を言っているんだ?」
慌てて止めようとする王子に、ダグラスは無表情のまま淡々と話を続けていく。
「いつお嫁に来られても良いように、服、靴、帽子を王子自ら揃えられ。」
「待て、ちょっと待て、頼むから待ってくれ!!!。」
「それは・・・。」
「頼むシンディ、そんな残念な子を見る様な目で見ないでくれ・・・。」
「ちなみに、今履いておられるガラスの靴は、その時の採寸を元に作られたのですよ。」
淡々と話すダグラスの口から、今度は何が飛び出てくるのか、シンディは内心楽しみにしながら、聞いていると、王子が降参とばかりに声を上げた。
「分かった。今回の事でお前には多大な労働を強いた、城に戻ったら1週間の休暇を与える。」
途端に、今までの無表情が嘘の様に、ダグラスは満面の笑みを浮かべた。
実の所今回の騒動で一番迷惑を被ったのは、ダグラスなのだ。
ガラスの靴を作れる職人を探し、靴屋に採寸と言う名の型取りをさせ、ついでにドレスや帽子に宝飾品まで用意したいと言い出した王子の為、あらゆる手配をしながらも、初めての恋で舞い上がっている王子に仕事をさせる。勿論部下達にも手伝ってもらったが、それでも何時もより格段に多い仕事量だった。
「ありがとうございます殿下。」
御礼を言いつつも、休暇だけでは割に合わないと、他に何を要求しようか考えているダグラスの姿に、もう余計な事は言わないだろうと判断した王子は、伺う様に、大きな身体を小さくして、シンディの顔を覗き見る。
「シ・・・・シンディ・・・こんな私は嫌いか?」
「まったく、困った方ですね。そんな事で嫌いになる訳が無いでしょう。私が殿下を嫌いなるのは、私を裏切った時ですわ。」
「そんな事は絶対にせん!!!」
「でしたら、私は、殿下以外の方々に認められる様、精一杯努力せねばなりませんね。」
微笑み合う二人に、ダグラスはもう一度馬車の外へ視線を向け、気配を消しつつ溜息を漏らしていた。