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追跡  作者: 青柳寛之
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第十章 夜明け前

 木枯らしの声を聞く頃。時田涼葉は、人生の分岐点について思い悩んでいた。打ち込んでしまえば二度とは戻れない、進路希望調査という名の楔。二年生の三学期の懇談会で第一回進路希望調査が行われ、最終決定は三年生の二学期の懇談会で行われる。決定してしまえば、あとはそれに向かって進むだけだ。但し、就職を希望する場合は、もう少し早く決めなければならない。

 涼葉は、美波の言葉を思い出していた。

『反対する理由、ないけど……。大学に行って、勉強したいことがないのよ』

 進学しても、学びたいことがない。それは涼葉も同じであった。大学、短大、専門学校。勉強したいことがないなら……。進学は、金銭及び時間の“浪費”でしかない。“まだ働きたくないから、とりあえず進学”という生徒もいるが、親不孝にも程がある。地方公務員試験を受けて、警察官になる?恐らく、周囲はそれを望んでいる。私がその道を選ぶことを。けど。私は、それを望んでいるだろうか。……わからないなあ。そして、こうも思った。どんな風にして生きて行くのかを決断するには、十八年という歳月は短すぎる。

 やっぱ、ぎりぎりまで悩むことになるのかなあ。涼葉の脳裏に、よく見知った誰かの顔が浮かぶ。彼にはきっと、学びたいことがあるはずだ。羨ましくもあったが、それを学んで何になるというのだろう。いつか機会があれば、訊いてみたい。きちんと答えてくれそうにないけどね。思わず、愁いを帯びた吐息が漏れる。その吐息が、思いのほか熱を持っていたことを、涼葉は恥じた。

 高校を卒業すれば彼とは疎遠になり、そのまま自然消滅してしまうはずだった。そして、それは青春の甘酸っぱい想い出として涼葉の胸の奥に残り、優しく明かりを灯す。それで良いと思っていた。けど。今は違う。今はもう……。失敗だったなあ。涼葉は思った。笑顔で“さよなら”を言うことが出来ないほど大好きな人を、作ってしまったことは。

 でもねえ。彼と一緒にいたいから同じ大学に行くっていうのは、男に縋って生きる女のすることだ。多くの愚かな女たちが抱くその感情は、恋でしかない。恋は依存、愛は自立。だと思う。あなたがいなくても生きて行けるけど、あなたが傍にいてくれたら、もっと幸せ。……。愛って、そういうものなんじゃないかな。性欲と所有欲に支配された、強い好意。それが恋だ。“好きだから傍にいたい、一緒にいたい”そんな甘ったれたことをほざいているうちは、まだ恋の域を出ていない。恋を愛へと昇華させることの出来る人は、残念ながら非常に少ない。心の弱さが、昇華を拒んでいるのだろう。昇華には、苦痛が伴う。

 そこまで熟慮した時、現実に引き戻された。彼の家って、母子家庭だったわね。学費、出せるの?未だに高木家の経済事情は、神秘のヴェールに包まれていた。


 航一と茂は、図書館へ向かっていた。見飽きた風景は、秋から冬へと移り変わろうとしている。繁華街へ出て直ぐのことだ。一台の青い軽自動車が、二人の傍らを通り抜けて行った。運転していたのは、男。その車を。その男を。俺は、以前どこかで見ている。航一は咄嗟に振り返った。

「どうかしたのか?」

 と訊ねた茂に、

「俺の勘違いだったようだ。……行くぞ」

 そう答えはしたが。勘違いなどでは、あり得ない。森龍信が射殺された現場から、走り去った車と同じ物だ。その車種は人気があるらしく、時折走っているのを見かけるが……。大抵は無難に黒かグレーだ。そんな中で、あの鮮やかな青は目立つ。遠目だったから、気付かれていないとでも思ったか?俺も、随分なめられたものだ。運転していた男の顔には、季節外れの黒いサングラス。航一は、遠い記憶を辿りながら考えていた。

 目が眩むほど強い日差しに晒されたアスファルトの、むせ返るような匂い。昨年の夏。鋭い眼光を放ちながらこちらの様子を窺っていた涼葉。硝子が割れる音と、焼けただれた倉庫の壁にめり込んだ弾丸。映画を見ているように、記憶が“映像”として再現される。中層ビルの非常口から出て来た、犯人であろうと思われる男。アロハシャツに黒いサングラス。正面から見た顔と、助手席に乗り込もうとした瞬時に見た横顔。今しがた見た、あの男……。県立美術館で俺たちの命を狙ったヤツに、輪郭と髪型が似ているな。これだけで同一人物であると断定は出来ないが、可能性はある。ナンバーは覚えた。早速オッサンに頼んで、所有者を調べて貰おう。考察しながら歩いていると、何もない平坦な道で躓きそうになった。

「歩きながら考え事してると、転ぶぞ」

 茂が呆れてため息をつく。そして、こう付け加えた。

「推理はちゃんと座ってからにしてくれ」

 とにかく。和泉翔輝が都市伝説サイトに出入りし始めた動機を明らかにしておきたい。出来れば、期末試験の範囲が発表されるまでに。手掛かりはオカルトフォーラムの過去ログと、牧野琴子が握っている。……はず。和泉は、俺が三年前に解決した殺人事件の容疑者の一人だった。彼の空白の二年間が始まったのは、その直後。そして医学部を卒業した後、今年度から臨床研修医……。運命の悪戯が、黒死蝶にとっては都合の良い偶然を生み出したのだろう。事件のほとぼりが冷めるのを待っていた。周囲の人間には、そう思って貰える。大学から急に姿を消し、いつの間にか舞い戻っていたとしても。姿を消していた間のことを訊ねる者など、誰一人いなかったはずだ。殺人事件の容疑者。あらぬ疑いを掛けられた、気の毒な被害者。多くの人の和泉への印象は、そんなところだったのだろうから。二年の留年を経たとはいえ、現在は臨床研修医なのだ。世間的には“勝ち組”と言って良い。但し、彼の人生には常に“黒死蝶”という暗影が付きまとっている。

「着いたぞ」

 茂の一言で、航一は我に返った。そうだ。和泉が都市伝説サイトに出入りし始めた動機だ。……。俺は、真実に近付きつつある。航一の“探偵の勘”が、そう告げていた。同時にそれは、命の危機に直面する可能性が高くなることを意味していた。ま、どうにかするだろ。あいつなら。俺の幼馴染は「生きた殺人兵器」という、不名誉な異名の持ち主だ。あの化け物もどきの女になら、俺は安心して命を預けられるさ。


 期末試験の範囲が発表された。航一には束の間の休息を、涼葉には地獄をもたらすその時間は、いつもと何ら変わることなく過ぎて行く。ように見えた。

 期末が終わったら冬休みが来て、三学期の懇談会で一回目の進路希望調査が……。夏空を乱雲が覆うように、涼葉の心は晴れない。希望する進路が未定なので、一応受験勉強にも本腰を入れることにした。その成果であろうか。恒例となった四人の勉強会では、航一の嗜虐性が発揮されることもなかった。

「何かあった?」

 茂が心配そうに訊ねたのは、試験が終わった日の放課後である。涼葉は思わず苦笑した。やっぱり、わかっちゃうよね。私、変だもん。

「高木くん。進路、もう決めてる?」

 思い詰めた口調に、我ながら驚く。こんな声が出てしまうほど、煩悶していたのか。私は。苦笑に次いで、自嘲の笑みが口の端から漏れる。

「家から通える範囲内で国公立の大学なんて、一つしかないだろ」

 即答?だが、半ば予測していた返答だ。市立映像芸術大学。美術部の幽霊部員で、母子家庭。その事実から導き出される回答は、他には存在しない気がした。もう一歩、踏み込んだ質問をしても許されるだろうか。

「学費とか通学費とか、出せるの?」

 今度は、茂が苦笑する番だった。必要以上に心配かけてるよな……。良い機会だから、話しておくか。

「出せるよ」

 茂は七歳で交通遺児となった自分に、投資や資産運用のノウハウを叩き込んだ伯母の話をした。

「親父が亡くなった後、遺産を切り崩しながら爪に火を灯すような生活をしていた俺やお袋を、不憫に思ったんだろうな。時には優しく、時には厳しく。飴と鞭を上手に使い分けて、根気強く教えてくれた。……。感謝しているよ。“伯母さん”って呼ばれるのを酷く嫌う人だから、俺は“師匠”って呼んでる。教え方が上手かったのは、師匠が高校教師だったからなんだろう。多分、だけど」

 茂は涼葉の髪を撫でると、

「学費も通学費も出せるし、生活にも困らない。贅沢は出来ないけど、充分過ぎるほどの暮らしが出来てるんだ。あの人には、頭が上がらないよ」

 と言って、努めて明るく笑って見せた。涼葉は暫時黙っていたが、

「高木くんの伯母さんって、高校の先生なのね。公立なのかな。異動でうちの学校に来たりする?」

 高木家の経済事情の真実が明らかになった今、興味関心がそちらへ移ったのであろう。

「ええと……。それは、秘密」

 やれやれ。とんだ失言だったな。茂は長めの頭髪をポリポリと掻いた。

「そこは秘密なんだ」

 涼葉はクスッと笑うとすぐに真顔になり、言葉を続けた。

「ごめんね。言いたくないことまで、話させたよね。……。高木くんのお父さんって、交通事故で亡くなったのね」

「いいんだ。過ぎたことだし。どんなに悲しんだって、死んだ人は戻って来ないんだから」

 茂はそっと悲哀の籠もった息を吐いた。彼は同情されることなど、望んではいない。それを知っている涼葉は、気付かない振りをした。


 授業開始直前。突然、航一の携帯電話の着信音が鳴り響いた。待ちかねていた、時田勇作からの電話だ。

「もしもし」

 航一の声は沈着であったが、勇作のそれは高揚していた。

「頼まれていた例の件な、車の所有者は大石渉。27歳。で、こいつが五芒星のペンダントをしているかどうかを確認して欲しいって話だったよな?してたんだけどさ……。何なんだ?それは」

 勇作の高揚していた声は次第に落ち着きを取り戻し、疑問形へと変わる。

「話せば長くなるから、電話では無理。定時で上がれそうな日に、連絡を寄越せ。その時に話すよ」

 航一は静かに答えた。勇作は快諾する。

「わかった。じゃあな」

「おう」

 短く言葉を交わし、電話を切った。

「須賀。仕事の電話は済んだのか?授業、始めるぞ」

 そう言って意地悪く微笑む、英語教師、津山千穂子の顔が眼前にあった。千穂ちゃん、容赦ねえ~~!てか、いつからそこに居たんだよ。

「あ、はい。スミマセン……」

 航一は急いで教科書とノートを広げた。


 短い冬休みが終われば、瞬く間に第一回進路希望調査が行われる。そのためであろう。昨年のように、束の間の小休止の訪れに安堵する生徒など皆無であった。少し先の行事に、彼らの大半が頭を悩ませている。

 この世の終わりを迎えるわけでもあるまいし、皆、大袈裟なんだよな。茂は呆れていた。学校側は進学、あるいは就職させてしまえば、そこで肩の荷が下りる。けど。そこから先の人生を選ぶのは、自分なのだ。合わないと思ったら、方向転換すれば良いだけなのに。高校卒業を人生の分岐点だと思っているなんて、愚の骨頂だよ。大学や専門学校に行っても、就職出来ないかもしれない。就職しても、会社が倒産したり、リストラの憂き目を見るかもしれない。何が起こるか予測不可能なのが、人生じゃないか。そう。進学や就職が、ゴールじゃないんだ。それは“ゴール”の顔をした“スタート”に過ぎない。本当に、人生で取り返しのつかないことは……。……。

 終業式が終わり、夏休み前よりも短いホームルームが行われた。まずは宿題が配られ、次に「冬休みの心得」と書かれたプリントが配付される。

「それでは、これでホームルームを終わりたいと思います。三学期の始業式には、クラス全員の顔が揃うように、健康管理には充分気を付けてください」

 手紙の定型文のような担任の一言で、ホームルームは終わった。茂はすぐに教室を出る気にはなれず、ぞろぞろと出て行く生徒たちをぼんやりと眺めていた。視線を窓の外へ移すと、仲冬の空が泣いている。この降り方なら、すぐ上がるだろう。

「高木ぃ。帰ろうぜ」

 自分の名を呼ぶ、友の声が聞こえた。振り向くと、彼の傍には二つの人影が並んで立っている。いつも通りの光景だ。ああ、今終わったのか。茂の顔が急に柔らかくなり、微笑の花が咲いた。

「雨が降ってる……」

 涼葉が呟いた。傘を持って来るのを忘れたのだろう。

「大丈夫。すぐに止むよ」

 茂はそう言うと、ゆっくりと階段の方へ向かって歩き出す。涼葉、美波、航一の三人がそれに続いた。その間にも雨は徐々に小降りになり、やがて彼らが下駄箱へ着く頃には、校庭に濁った水溜まりを残した。天候は読めても……。先が読めないのが、人生さ。但し、俺には絶対に譲れないものがある。茂は、涼葉の無邪気な横顔を見た。長身で容姿端麗な彼女は、実年齢よりも年上に見える。ワーカホリックな母親がいるからなのか、家事万能だしね。てか、母親が単身赴任していた時期もあったらしい。それを“普通”と言えるのかどうかは、わからない。でも。中身は普通の女子高生なんだよ。少し気が強いだけで。……確かに、喧嘩も強いですけど。涼葉に対する世間の認識は「生きた殺人兵器」なのだ。彼女は、その魅力を正当に評価されていない。ま、いっか。俺だけが知っていれば。

 四人で何か食べて帰ろう。航一が提案した。もちろん、異存があるはずはない。涼葉に連れられて入ろうとしたその店の名前は「マトリョーシカ」でもなく「モグラの根城」でもなく……。

「はあ?」

 航一が頓狂な声を上げた。美波も呆れているようだ。

「お前、俺たちに何食わす気だよ」

 非難の眼差しを向ける航一に、涼葉は悪びれもせず、

「ここの山盛り蕎麦、美味しいんだよ?」

 と言った。蕎麦?「鏡の館」で、蕎麦……。強烈な違和感があるが、涼葉が“美味しい”と言うのなら、美味いんだろう。茂はためらわず店に入った。“山盛り”という言葉に惹かれたのか、航一が後に続く。

「気味が悪いわね」

 美波が呟いた。薄暗い店内に、ゴシック風の黒い服を着こなした、店主と思しき女性。黒で統一された空間は、とても飲食店には見えない。同様の反応には慣れているのだろう。四人がここへ来た意図を察した店主は、

「蕎麦をお召し上がりになりたいのでしたら、あちらへどうぞ」

 と、指し示した。示された方を見ると、そちらはログハウス風の造りになっている。

「内装にギャップがあり過ぎるな」

 席に着くと、航一が率直な感想を述べた。天井が高く、一階から二階を見上げることが可能な造りになっていて、非常に開放感のある空間だ。

「鏡占いをしていた店主が、占いだけだと客足が落ちるから、店内で手打ち蕎麦を出すようになったんだって」

 空手道場の仲間数人で連れ立って出掛けた時、占い好きな先輩が“鏡の館に行きたい”と言い出したのだそうだ。皆が占いに興じている間、関心がないので、一人で蕎麦を食べていたのだという。

「賢明。安易に、得体の知れない占いに頼らない方がいい……」

 美波が静かに言った。その横顔には、清楚で可憐な色気が漂っている。涼葉の口から“鏡占い”という単語が飛び出した時、航一の顔が険しくなった。

「蕎麦、食べ終わってからでいいから、その話、もっと詳しく聞かせてくれ」

 あーあ……。仕事モードになっちゃったな。事情を知っている茂は、内心ため息をついた。


 恐らく噂の発信源は「鏡の館」だ。発信源というか、原型というか。どっちでもいいよ。航一は自室に戻ると、寝癖のなおりきっていない頭を掻きむしった。故意に部分的な記憶喪失を起こす。鏡を使って……。

『六角形の黒い鏡に出会えたら、忘れてしまいたい記憶を一つだけ消して貰える』

 設定はあるが、オチがない。聞いた者に与える恐怖が中途半端で、説得力が皆無だ。だから、何?と、鼻で笑いたくなるほどに。しかし、和泉翔輝がこれから都市伝説を作るための下準備として、噂の伝達過程を研究していたのだとしたら?……辻褄が合うんだよ。

 蕎麦はもちろん美味かった。けど。それ以上の、思わぬ収穫があったな。航一は不敵な笑みを浮かべ、手のひらの中のボイスレコーダーを見つめた。


 涼葉は自室で一人、除夜の鐘の最後の響きを聞いていた。年越し蕎麦は、早々と夕餉に食べてしまっていた。ともあれ、新年の始まりである。黎明の足音は遠く、夜のとばりは下りたままだ。お正月って、好きだな。お節料理の準備さえしておけば、二~三日はご飯を炊くだけでいいんだもの。あ。これって、完全に主婦の発想じゃない?涼葉は苦笑した。今日は美波と初詣に行く約束、してたのよね……。シャワー、浴びて来よう。その後少しだけ眠ってから、出掛ける準備をしよう。そんな事を考えながら、バスルームへと向かった。

 涼葉は僅かな睡眠時間を得た後、食卓にお節料理を並べた。そして“友達と初詣に行って来ます。おでんは温めて食べて下さい”という書き置きを残し、身支度を整えて夜の明けきらぬうちに家を出た。足早に、待ち合わせ場所へと向かう。

「おはよう、……じゃなかった。明けましておめでとう。今年もよろしくね」

 そう言って微笑む涼葉の視線の先には、美波がいた。

「今年もよろしく……。じゃあ、行きましょうか」

 美波の口の端に、蠱惑的な笑みが浮かぶ。二人で初詣に行けるのも、今年で最後かな。漠然と、涼葉は思った。

『お父さんは“女子大に行きなさい”って』

 少し気の早い質問に、美波は確かにそう答えたのだ。来年の今頃は、受験勉強のラストスパートを迎えている可能性が高い。

「来年も、再来年も、二人で初詣に行きましょうね」

 黙って歩き続ける涼葉の胸中を察したのか、美波が言った。愁いを帯びた大きな瞳は、すべてお見通しのようだ。美波は、ゆっくりと口を開いた。

「短大を受験することにしたの。……妥協案」

 涼葉は、美波の父親に初めて会った時の印象を思い出していた。尊大。その一言が似合う人だったような記憶がある。また、こうも思った。海司にそっくり!否。父親が海司に似ているのではない。海司が父親に似ているのだ。

 女子大に行かせたい父親と、進学しても学びたいことがない娘。短大受験は、そんな二人が辿り着いた打開策なのであろう。私は、どうするの?……どうしたいの?

 東の空が白くなり、夜が明けようとしていた。清浄な闇は消え去り、境内を鳩たちが我が物顔でのし歩く。早朝の神社は、人影もまばらであった。二人は通常の儀礼通りの参拝をした後、学業成就のお守りを買った。おみくじは引かないのが、暗黙の了解である。おみくじも占いの一種だ、と美波は言うのだ。

『自分のことは、占わない。それが私流』

 理知的な瞳を伏せて、言い切る。透徹した信念を思わせる美波の姿が、涼葉の目には、航一の姿と重なって見えた。人は、自分と似てるけど少しだけ違うところのある人を好きになる生き物なのかもしれない。涼葉は、そのように解釈していた。

『それは違うよ』

 その解釈を話した時の、ある人の評である。

『少なくとも、俺は違う』

 そう言うと、愛情たっぷりの眼差しを投げかけてくるのだった……。

「ねえ、涼葉」

 急に名前を呼ばれ、我に返った。

「涼葉はまだ、迷っているの?」

「うん」

 そう言って頷くことしか出来なかった。事実、その通りだったから。すると美波は、

「涼葉には、想定外の選択肢が現れる……。その時は、自分の気持ちに素直にね」

 と、意味深長なことを言い、黙り込んでしまった。それ以上、詳しいことを教えてくれる気はないらしい。何よ、想定外の選択肢って。気になるじゃない。てか、この子……。

「安心して。涼葉のこと、頼まれてもいないのに占ったりはしてないから。星の声が聞こえただけよ」

 やはり、美波には勝てない。涼葉は思った。完全に読まれている。

 “星の声が聞こえた”というのは、美波が“何となくそんな気がする”という意味で使う表現だ。ただ。非常に勘の鋭い美波が言うのである。そして、美波がこの言葉を使う時には、決まってその通りになるのだ。……気になる。気になって仕方ないんですけど~~!そんな涼葉の心の叫びを感知したのか、美波は、

「選択肢は、二つ示される可能性がある。私に聞こえたのは、ここまで」

 とだけ、答えた。

「帰る前に、コンビニに寄ってもいい?」

「うん。いいよ」

 近くのコンビニエンスストアに立ち寄った後、家路につく。別れ際に美波は一言、

「星の声の導くままに」

 と言い、優しく微笑んだ。

 一つめの選択肢は、すぐさま現れた。その日の午後、師範の自宅に年始の挨拶に訪れた時だ。師範は他の弟子たちを帰した後、おもむろに口を開いた。

「お前、空手指導員の試験を受けてみる気はないか?」

 思いも寄らない師範の言葉に、涼葉は戸惑いを隠すことが出来なかった。女である自分には、その道はないものと諦めていたからだ。“好きな事”を“仕事”に出来たら……。誰もが望むことだ。これが、星の導きなの?随分とわかりやすく現れたものだ。

 だが。空手に限らず、多くの武道共通の現実が存在する。道場主でさえ、副業……。つまり、彼らは何らかの本職に就いているのである。指導員の収入など、所詮雀の涙だ。武道の存続と発展は、多くの有志の努力の上に成り立っている。涼葉は、二足の草鞋を履くつもりは毛頭なかった。空手指導員を“仕事”にするのであれば。一つの道を究めたい。しかし、それでは充分な収入は望めない。

 それに。涼葉の両親は警察官だが、父親は柔道の、母親は空手の有段者なのだ。武道の世界の事情に通暁している二人が、首を縦に振るとは思えない。自分にその気がなく、両親も賛成しないことが明白なのであれば……。

「私は人に教えるのが下手です。他に適任者がいるのでは?」

 涼葉の返答に、師範は唸った。

「確かに。お前は、昔から人に教えるのは下手くそだったからなあ。……今からでも、指導員審査に見合った稽古を積むつもりは、ないのだな?」

「ありません……」

 師範の前で、涼葉はただ項垂れるばかりであった。私は空手が好きだ。だから、好きな空手で妥協はしたくない。副業で終わらせたくないのだ。ただ、それだけだ……。

 涼葉は沈痛な面持ちで、師範の自宅を後にした。これはいよいよ真剣に、希望する進路について考えなければならない。好きとまではいかなくても、少なくとも、苦にならないこと。嫌いではないこと。自分に出来ること。……何かあったかなあ。

 帰宅してみると、幼馴染の靴が玄関に置かれたままになっていた。須賀くん、まだいるんだ……。初詣から帰った時には、すでにその靴はそこにあった。曰く“うちのお袋はおでんがあまり好きじゃないから、滅多に作ってくれないんだ”とのこと。もちろん長座の理由はそれだけではないのだろうが、

「あら、須賀くん。まだいたの?」

 と、嫌味の一つも言いたくなる。人が暗澹たる気持ちで戻って来たら。何なの?君は。涼葉はため息をついた。案の定、航一からは、

「仕事の話が終わらないんだ。もう少し、いるよ」

 という返答が返って来た。おでんを頬張りながらそんなこと言われても、全ッ然、説得力ないんだけど。涼葉は思ったが、黙っていた。

 時田家の正月は、お節料理とおでんを大量に用意する。それを知っているからこそ、のこのことやって来るのだ。来年は、おでんではない何かを準備しておこう。涼葉は密かに決意した。


 時田勇作は、黙ってそれを聞いていた。高校生探偵、須賀航一の言葉を。

「これで、タイムリミットはあと二枚になってしまったわけだが……」

 年の瀬に怪盗紳士が現れた。今回も、見事なまでに個人の特定につながる証拠を残していない。

「本仮屋楓恋の遺書にも書いてあっただろう?“怪盗紳士は、中期の香月稔が誰なのかを知ってしまいました。そのため、彼は中期の香月作品ばかりを狙うのです”って。中期の香月稔に対して、怪盗紳士は異様なまでの執着心を持ってる。それは俺も思ったことだ。その執着は作品にではなく、画家に向けられてるってことも……。それを踏まえて、これを聞いて欲しい」

 航一は、愛用のボイスレコーダーをテーブルの上に置いた。収録され機械音と化した、ある人物の声が流れて来る。

『僕の好きな画家ですか?赤城幸雄……、ですかね。香月の作風に少し似ているんですが、なんて言うか、赤城の絵の方が色遣いが鮮やかで、それでいて、繊細で上品なんですよ。他には……』

「これは?」

 勇作が訊ねると、

「本仮屋楓恋の兄と名乗って彼女の遺書を俺の家まで持って来た、本仮屋瑛って男が、こう言ったんだ。“絵画のことなら、僕よりも士元に訊いてみて下さい。詳しいですよ?”ってな。だから、会いに行って訊いてみたんだ」

 航一は、臆することなく堂々と答えた。体調不良を理由に、警察には一切会おうとしなかったあの男が……。勇作は愕然とした。

「お前だから許されることだが、一般市民が職務質問同様なことをしていたら、先方によっては一言ある者もいるだろう。これからは、俺か城一くんを連れて行くといい」

「へぇい」

 明らかに気のない返事をして、航一は続けた。

「似ているというだけでは証拠にも根拠にもならないが、一応調べてみたんだよ。赤城幸雄。早熟の天才と呼ばれた人だが、略年譜以外の資料が少なくてな。しかも、初期作品のほとんどが海外にあるらしい。海外にあるという話は捏造で、赤城幸雄の初期作品が“中期の香月稔”の作品として世に出回っているのではないかとも考えたが、これは俺の推測の域を出ない」

「なす術なしか?」

「今のところは」

 二人の間に、暫時沈黙が流れた。今のところは、なす術なしって……。

「諦めてはいないんだな」

「当然だ」

 航一は、爽やかな笑みを浮かべて答えた。勇作は半ば呆れた。お前らしいよ。本当にこの男は、ゴキブリ並みにしぶとい。

「話は変わるけど……。本仮屋瑛から聞き出したんだが、北白河士元は父親が連れて来た相手なのだそうだ。母親は、楓恋を黒死蝶の教団幹部の子息と結婚させたかったらしい。その相手っていうのがさ……。オッサン、覚えてるか?吸血殺人事件」

「被害者の遺体からほとんど血液が抜き取られていたっていう、気味の悪い事件だったな。あれは。あまりにも不気味だったから、よく覚えてる」

「その吸血殺人事件の容疑者の一人に、和泉翔輝ってヤツがいただろ?そいつが、本仮屋楓恋の母親が娘の婚約者に選んだ、教団幹部の子息だったんだよ」

「あんなチャラ男をか?」

 勇作が、眉を顰める。

「父親が反対したから、楓恋の婚約者は北白河士元に決まったそうだ。北白河家の方が家柄が良く、本仮屋家とは釣り合いがとれたからな。その和泉翔輝だが、都市伝説系のオカルトフォーラムに出入りしていて、牧野琴子とはかなり親密な関係であることがわかった。酒癖も女癖も悪い和泉のことだ。牧野と深い仲であったとしても、別に驚くことではないが」

 そう言うと、航一は茶色くなったゆで卵を口に運んだ。……美味い。お袋は、どうしておでんが嫌いなんだろう。

「問題は、二人の出会いがナンパや合コンではなく、ネットのオカルトフォーラムだったってことだ。科学で証明できない事象を全否定するようなヤツが、都市伝説サイトに出入りしているってのが、俺には信じられなかった。けど、黒死蝶というカルト教団の組織の構図がどんなものなのかを考えてみると、わかるような気がするんだよ」

 なぜ本仮屋楓恋の母親は、娘を教団幹部の子息と結婚させたかったんだ?航一は、勇作に問いかけた。

「お前の答えは?」

 勇作は質問には答えず、続きを促す。……オッサン、自分の頭で考える気、ないな?

「恐らく多くの信者は資金調達のための捨て駒で、教団の恩恵に浴することが出来るのは、一握りの幹部とその家族だけだからなんだろう。けど。それだと、和泉翔輝が都市伝説サイトに出入りするようになった動機がわからない。吸血殺人事件の後、ヤツは二回留年している。その間、和泉がどこで何をしていたのかは不明なんだ」

「ほう?」

「多分ヤツは、教団幹部としての活動をしていたのだろうと思われる。先述の推測が誤りで、幹部はよりハイリスク、かつハイリターンな立場にあるのだと仮定してみよう。和泉は保身のために黒死蝶の存在を都市伝説化しようと企んだ。その下準備のため、噂の伝達過程、都市伝説伝播における特徴などを研究するためにネットサーフし始めた。こう考えるとさ、腑に落ちるんだよ」

「お前、それは考え過ぎなんじゃないのか?和泉のことだ。ネットで出会いを探していたとか……」

 勇作の反論は、真っ向から否定された。

「二年の留年を経たとはいえ、現在は臨床研修医。そんなヤツが、出会いに飢えているとは思えないな」

「そういうもんか?」

 勇作は腕組みをして黙り込んだ。

「将来性のある男は、合コンでは女から“当たり”と判断されやすい。ああいう一発勝負の場では、顔の良さも強力な武器になる。和泉翔輝には、モテない要素がない」

 言い切る航一の姿をぼんやりと眺めながら、勇作は思った。涼葉には、そういう女になって欲しくないな……。

「それから、大石渉だけど……」

 その日。航一が時田家を辞したのは、日付が変わる直前であった。


 製菓専門学校。涼葉の胸中に、そんな単語がよぎった。菓子作りなら、嫌いではないし苦にならない。ただ、ねえ。学費が……。涼雅もいるし、家にあまり負担を掛けたくないな。……。うちって、絶対、他の家に比べたら縛りが多いよね。

 時田勇作には、時田大作という兄がいる。彼と妻との間には、子がなかった。そんな折、英琳が涼雅を産んだ。これに欣喜雀躍した人物がいた。勇作の父親だ。涼葉が生まれた時には“女の子なんか産みやがって”と聞こえよがしに舌打ちしたその人が、である。涼葉は、この話を父から聞いた。それ以降、父方の祖父のことがはっきりと嫌いになった。

 涼雅を子供のいない兄夫婦の養子にするよう執拗に迫った祖父だが、長男に“もう少し待ってみよう。まだ子供が出来る可能性は充分ある”と言われ、待つことにしたのである。

 どういうわけか、勇作は父親と馬が合わなかった。また、兄の大作とも反りが合わず、家庭の中で勇作は孤立していた。父子は些細なことで衝突することも度々あったようだが、母親の取り成しなどは、一切なかったらしい。

 勇作は多くは語らなかったが、幼い涼葉にはそれらは全て、祖父が“言うことを聞くから長男は良い子、思い通りにならない次男は悪い子”と決めつけているだけのような気がしてならなかった。今でも涼葉は、祖父を形容する言葉を“頑迷”以外に見出すことが出来ずにいる。あまりにも我が儘が過ぎる祖父は、そのくせ自分を“偉大な人物”であると思い込んでいる節があり、涼葉としては失笑を禁じ得ない。中学校の校長を勤め上げ、退職後、乞われて大学の学長になった。それだけなのに、何様のつもりなの?

 祖父にしても、気に入らない次男の嫁が産んだ孫より、長男夫婦の実の子の方が遥かに望ましいと思っていたであろうことは想像に難くない。祖父と伯父夫婦は、待った。しかし、一向に大作の妻は子供を授かる気配がなく、大作は焦った。だが、忖度すると兄夫婦に子が出来ないことを気に病んでいたのは、勇作の方ではなかったろうか。

 涼雅の誕生から十年経った時だ。勇作と英琳の恐れていた事態が、現実になった。涼雅が大学に進学する時に、長男夫婦の養子にすること。学部は教育学部にすること。大学進学と同時に、涼雅を養父母と同居させること。但し、大学の学費は実の親である勇作が負担すること。頑迷な祖父は、そんな身勝手な要望を突き付け、横車を押して通したのである。

「急死しないかな、あの親父」

 勇作が小声でそう呟くのを、涼葉は黙って聞いていた……。涼葉、齢11の冬の出来事であった。

 この時の勇作の言葉で、忘れられない一言がある。

『涼雅には、涼雅の人生がある。人間は誰もが“人生”という名の舞台の、主人公なんだ』

 進路について思い悩んでいる涼葉は、眠れない夜にその言葉を思い出していた。

 学費のことを考えると……。製菓専門学校受験は、断念せざるを得ないだろう。やはり、地方公務員試験を受けて警察官になるのが無難だ。空手という特技を活かせる職業を、他に知らないし。涼葉は大きくため息をついた。

 今日は七草粥の日だ。涼葉はゆっくり立ち上がると、正月料理を腹一杯食べた胃腸を休めるには最適な夕食の支度をするために、自室を出た。リビングから自室へ戻ろうとしていた涼雅と目が合う。

「僕は、伯父さんの養子にはならないよ。だから、姉さんは自分の進みたい道を選んで」

 穏やかに微笑むと、弟は言った。いや、いや。それは、難しいと思うわよ?

「僕はさ、ずっと航一さんのことを尊敬してた。航一さんになら、姉さんを取られてもいいかなって思ってた。……けどさ。もっと身近な人で、尊敬できる人を見つけたんだ」

 それが伯父さんとの養子縁組を断る理由には、ならないでしょ。涼葉が口を開く前に、涼雅が続けた。

「姉さん。父さんってさ、凄い人だと思わない?」

 勇作の新年は、散々な出来事から始まった。英琳が勇作に風呂に入るように勧めたのだが、まだ湯が沸いておらず、水風呂に入る羽目になってしまったのだ。ひたすら謝り続ける英琳に、勇作は“いいんだよ”と、温厚な笑顔で答えていた。

「どうしてあんな風に許せるのか、父さんに訊いてみたんだ。そしたらさ“水風呂に入らされたぐらいで、命を取られるわけじゃないし”って」

「それは……」

 お母さんが怖いからなのでは?涼葉は言いかけたが、涼雅が遮った。

「父さんの凄いところは、それだけじゃない」

 涼葉が修学旅行で家を空けていた時だ。英琳の手料理を不味そうに食べる涼雅に、勇作が“薬だと思って食べなさい”と言ったのだそうだ。

「何が入っているのかを、味覚で感じ取っていたんだよ。父さんは。それらにどんな効果があるのかも、知っていた」

 しばしの沈黙が流れた。お母さんの料理って、薬みたいな味がする……。それは、以前から涼葉も思っていたことだ。体に良いとされる香辛料を多用して作られているため、どうしてもそんな味になるのだ。“薬だと思って食べなさい”かあ。なるほどね。父は、味の良し悪しよりも、健康への配慮の方を重視していたのだ。端的に言えば“不味い”の一語に尽きる母の手料理には、愛が込められていることを、父は知っていたのか……。祖父や伯父ならば“こんな不味い物が食えるか!”と、罵声を浴びせていることだろう。確かに、お父さんって凄い人なのかもしれない。

「僕は、時田勇作の子供でいたい。これから先も、ずっと」

 そう。須賀くんよりも尊敬できる人が、お父さんだったというわけね。なぜか、涼葉は安堵していた。“あの”須賀くんを尊敬しているなんて、どうかしていると思うわ。

 幼馴染だから。いろいろな須賀くんを知っているつもりだ。良いところも、悪いところもね。それは、涼雅にも同じことが言えるはずだ。底なし胃袋で、推理バカ。身も蓋もない言い方だが、私の知っている須賀くんは、そんな人だ。それとも……。私が見ているのとは違う“須賀航一”が、涼雅には見えていたのだろうか。尊敬に値する“須賀航一”の背中が。


 足元を冷たい風が通り過ぎて行く。春の声はまだ少し遠い寒空の下で、三学期が始まった。異様にテンションの跳ね上がった「千穂ちゃん」にも、慣れてしまった。何が楽しくて、こんなにテンションが高いんだろう?この人は。

 いよいよ、本格的に動き出すのだ。卒業後の身の振り方について。涼葉は美波の言葉を思い出していた。

『選択肢は、二つ示される可能性がある』

 一つめの選択肢は、辞退した。それを、けして後悔はしていない。けど。もう一つの選択肢って、何だろう……?

「葉……、涼葉」

 ホームルームが終わると、涼葉は自分の名を呼ぶ声で我に返った。

「ごめん、美波。ちょっとぼんやりしてた」

「進路のこと、考えてたのね」

 やはり、美波には勝てない。涼葉は正直に白状した。

「ちょっとね」

 思わず、照れ笑いが漏れる。

「寄り道して帰らない?ファミレスで良ければ、だけど」

 美波の申し出を、涼葉は快く承諾した。

「もちろん。美波からのデートのお誘いを、私が断るはずないでしょ」

 二人は、学校から一番近いファミリーレストランへと歩き出した。

 美波が提案する寄り道は、大抵ファミリーレストランである。理由は実に単純で、各メニューのカロリーが明記されているからだ。気にする必要もない体重を、美波は気にしていた。そこはやはり、乙女心である。

 それに。ファミレスなら、僅かなデザートとドリンクバーで粘れるし。って、あれ?パティシエって、女の子の敵なんだ……。涼葉は思った。カロリーの高いケーキや洋菓子を作る、パティシエ。目の前で長考の末、他のパフェより若干カロリーが低い和風パフェを選んだ美波。これは……。考え直さなければならない。夢を売る仕事だから、いいと思ったんだけどなあ。軽く失望する。やはり、私には警察官以外の道は用意されていないのか……。


誰もが通る道を、彼女たちも通り過ぎて行くようです。

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