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この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

連載小説とか、短編とか

少年探偵はつらいよ

作者:仁藤欣太郎
 彼の名は佐々木藻次郎。IQ180の天才小学生(10歳と8カ月)だ。藻次郎はその高い知能と天才的な推理センスでこれまで様々な難事件を解決してきた。その数ゆうに100件を越え、そのうち99件は殺人事件だった。

 藻次郎の殺人事件遭遇率はすでに天文学的数字だ。警察の依頼を除いても偶然殺人事件に出くわした回数は50回を越える。これはギャンブル依存症である藻次郎の父、佐々木屑郎が先週のGIレースで買った大穴馬券が当たる確率よりも低い。なお、その馬券が紙屑になったのは言うまでもない。彼は毎週紙屑を量産していた。屑郎だけに。


 ある日の夕方、藻次郎が友だちと一緒に帰ろうとすると、いつもの刑事――名を点出田目男てんでだめおという――が校門の前で待っていた。

「藻次郎くん、ちょっといいかね?」
「点出警部……。わかりました。僕の混沌から立ち出でた破邪の推理が必要なのですね」
「いや、普通に事件解決してほしいだけなんだけど……」

 藻次郎はあまりの頻度で死体に遭遇したため精神を患い、重度の中二病に罹患していた。しかし彼は小四だからむしろおませさんと言ったほうがいいかもしれない。

「藻次郎くん、すごいね! また事件解決しに行くの?」

 一緒に下校していたクラスのヒロイン、尻軽沙世子しりがるさせこは目を輝かせながらそう言った。

「そうさ。僕はこれから深淵を覗きにいくのさ」
「しんえん?」
「深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いているのだ。バイ、フリードリヒ・ニーチェ」
「ちょっとなに言ってるかわかんない」

 藻次郎は痛かった。すこぶる痛かった。しかし普通の小四は「ニーチェを読んでこじらせた痛い奴」に出会った経験がないため、沙世子はそれが痛いということがわからなかった。


 なんやかんやあって現場に連れて行かれた藻次郎。そこには少年探偵モノでは石を投げたら当たるぐらいいる、「恐ろしく無能で小学生に頼らないと自分の仕事もろくにできないだめな大人たち」がいた。その中のひとり、容姿端麗、スタイル抜群の婦警、屋良椎名やらしいな(23歳)が藻次郎の存在に気付いた。

「藻次郎くん、来てくれたの?」
「うん! ぼく、椎名お姉さんのためにがんばる!」
「そう、ありがとう」

 藻次郎は美人のお姉さんの前で可愛らしい子どもを演じるというあざとさも備えていた。


 そしていよいよ現場検証が始まる。点出警部は遺体にかけられたシートをどけた。

「どうかね藻次郎くん。犯人はわかりそうかね?」
「う……」

 藻次郎は一瞬険しい表情を見せた。そして次の瞬間……

「おべああぁぁぁ」

 藻次郎は大量の吐しゃ物を地面にぶちまけた。

「大丈夫!? 藻次郎くん!」
「だ、だいじょうぶだよ、椎名お姉さん」
「ほら、サプリメント飲んで吐いたぶんのミネラル補給して」

 藻次郎は初めて遺体発見現場に立ち合って以来、遺体を見ると反射的に吐しゃ物を吐く癖が身についてしまっていた。しかしこれは藻次郎にとっては喜ばしいことだった。なぜなら藻次郎を介抱しようとしゃがみ込んだ椎名の服のすきまから、彼女の胸の谷間を覗きこめるからだ。藻次郎は胸の谷間という深淵を覗いていた。

 そしてなんやかんやで藻次郎は推理を終え、犯人を指名することになった。

「それで藻次郎くん、真犯人は誰なんだね?」

 点出警部は藻次郎に尋ねた。それに続けて藻次郎は目を見開き、決めゼリフを言い放った。

「真犯人は……茂部田茂部夫もぶだもぶおさん、あなただ!」
「「ええー!!」」

 藻次郎は容疑者の内で最も特徴のない男、茂部田茂部夫を指差した。

「そんな、茂部田さんが殺人なんて……」
「いや、待ってくれ、俺は殺してなんかいない! 冤罪だ!」

 必死で弁明する茂部田だったが、藻次郎はIQ180の頭脳を駆使して「茂部田が犯人と思えるようなもっともらしい証拠」について流暢に語り出した。そしてすべてを語り終えたとき、まわりのだめな大人たちは藻次郎の言葉をすっかり信じ込んでしまっていた。

「茂部田さん、ちょっと署まで来てもらおう」
「ちょっと待って! 本当に知らないんだって! 俺はやってないって! ちょっと! 刑事さん! ちょっと!」

 こうして冤罪っぽい茂部田は署に連行され、この事件は一件落着となった。


 次の日の下校時。またも校門の前には点出警部が立っていた。

「点出警部……。わかりました。今日も僕のすべてを見通す神眼が必要なのですね」
「いや、そういうのじゃないから」
「ではなんですか? ついに警視庁が僕の存在を隠しきれなくなったんですか?」

 点出警部はかわいそうな人を見るような目で藻次郎を見た。

「凶器のナイフをDNA鑑定をしたらね、茂部田さんのDNAがひとつも見つからなかったんだよ。代わりに屑郎さんのDNAが見つかったんだ」
「え?」

 痛い藻次郎でもさすがにいまの自分の置かれている状況は理解できた。

「屑郎さんにいま、署で話を聞いているところなんだ。君も来たまえ」
「ちょっと待って! 本当に知らないんだって! 僕は関係ないんだって! ちょっと! 点出警部! ちょっと!」

 あわれ藻次郎は父親が逮捕され、親戚に引き取られることとなった。そして学校では「共犯者」のあだ名をつけられ、藻次郎はますます中二病を重症化させたのであった。

おしまい

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