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運命は二度廻る

作者: アニー

どんな世界、どんな国、どんな状況 関係にも正義と悪は存在する。それは昔から決まっていることで、それが常識なのだ。悪は正義には勝てない。

彼女から見たら、俺が悪で彼が正義なのだ。

俺が知る限りこの世に、悪が勝つストーリーは存在しない。


彼女からLINEが来たのは、5/19日のことだった。

久瀬達也は大山アキラとランニングをするため、隣町まで車を走らせていた。アキラは高校からの数少ない付き合いの一人だ。

ポロンと音を立てたスマホに、一瞬視線を移したが運転中もあってそれを無視した。

結局LINEを開いたのは、それから2時間後のことだった。

ランニングを終えた達也とアキラは、近くのガストで休憩がてら夜ご飯を食べることにした。席に着いてすぐに、アキラはトイレと言って席を立った。

暇になった達也はメニューを開こうとして、LINEが来ていることを思い出しスマホを手に取った。

明るくなるスマホの画面を見て、達也の手が止まる。

画面には、柿谷三葉と書かれた名前とその横に三葉からのメッセージが入っていた。

(今なにしてる)と書かれた文字は、どこか素っ気なく感じた。

アキラがまだ帰ってこないことを確認して、LINEを開く。画面が一瞬暗くなり、三葉とのトーク画面を映し出す。三葉と最後にLINEのやりとりをしたのは、去年の9月だ。9月18日と書かれた下に、(またね)の文字が置かれている。

余計なことを考えないように、指を動かして文字を綴る。

(久しぶり。今は友達とガストいるよ)

送信のボタンを押した瞬間に、既読がついた。

10秒ほどして三葉からの返信がきた。

(久しぶり。そっか。じゃあ大丈夫)

達也は少しの間その文を、見つめていた。そのうちに後ろからアキラが帰ってきて前の席に座った。

「どした」

「ん、あーちょっと」

「ちょっと?」

別に隠しておくことでもないし、それにアキラならいいだろ。達也はスマホの画面をそのままにして、アキラに手渡した。

「三葉からLINEがきた」

「まじか…三葉ちゃんって確かお前の」

「元カノ、去年の夏まで付き合ってた」

「あー」

アキラから返されたスマホを、一旦机の上に置いた。

「どう思う? 」

「大丈夫ではないだろ、少なくともなんかあるだろ」

「だよな」

既読をつけて、そろそろ1分経つ。なにか返事をしなければ、不快までには行かないが多少なり不思議に思うだろう。

「別れてから初めて?」

「いや…別れてからもちょいちょいLINEはしてた。でも去年の9月頃にあっちに彼氏ができたんだ。それからは全く」

弱々しく光を放つスマホを、持ち上げ返事を綴った。

(どうしたの?)

今度は送信のボタンを押しても、すぐには既読はつかなかった。

「とりあえず様子見」

「そだな。なんか頼もうぜ」


三葉からの返事が来たのは、それから1時間後のことだった。

(ちょっといろいろあって、久々に達也に会いたいなって)

アキラとは先ほど別れたばかりだし、ここから三葉の家まではそう遠くない。会いにいこうと思えば簡単だ。しかし…

(俺はいいけど、三葉はいいの?)

三葉には彼氏がいる。そんな状況で、元彼の俺と二人で会うとなるとなにかいけないことをしている気がした。

(大丈夫だよ。会える?)

(うん。どこいけばいい?)

送った後に、1つため息がこぼれた。

(ありがとう。目の前の公園で待ってる)

達也は目の前に、見えてきたコンビニに一回駐車しエンジンを切った。静寂が周りを包んでいく。店内に入ってカフェオレとアイスコーヒーを購入し公園まで向かった。公園の駐車場には、見覚えのある赤色のデミオが止まっていた。

公園から三葉の家は、徒歩2分ほどしか離れていない。なんでわざわざ車で来たのだろう。

車から降りて三葉を探した。公園内は街灯が切れており、暗闇が覆っていた。時刻は23時、人影も見当たらないし立ち止まると少し恐怖感を感じた。

三葉の名前を、小さく呼びながら暗闇をかき分けて行く。そのうちベンチに、誰かが座っているのを発見した。

三葉だった。三葉は達也に気づくと、ゆっくりと立ち上がって手を胸の位置まで上げた。

「久しぶり」

懐かしい声と共に、三葉の香りがこちらに寄りかかる。

「久しぶり、これあげる」

三葉は昔から、カフェオレが好きだっただから先ほどのコンビニでかっておいたのだ。

三葉はカフェオレを受け取ると、手の中で遊ばせて少し見つめ始めた。

「ありがとう、それは?」

「アイスコーヒーだよ」

「そっち…もらっていい?」

「いいけど…飲める?」

袋の中で横たわっていた、アイスコーヒーを手に取り三葉のカフェオレと交換をした。

「ありがとう」

「凄いね、昔は苦いーーってあんだけ言ってたのに」

三葉は達也の言葉に、少しだけ微笑んでベンチに再び座り込んだ。

「大人になったから」

三葉の視線は、前を向いているのにどこか寂しそうで悲しかった。

三葉の左に座り、カフェオレを一口飲む。

少しの沈黙が2人を包んでいく。

10秒程して、三葉の大きく息を吸う音が聞こえた。

三葉が喋り出す時の癖だ。

「あのね…ちょっといろいろあって」

「いろいろ?」

「うん」

「彼氏さんと?」

「そう」

なんでか胸が、キュッと締まり苦しくなる。

「なんかあったの?」

「ん〜なんかあったわけじゃないけど、最近あんまり連絡とれなくて」

「とらないじゃなくて?」

「うん、取れないの。全く取れないってわけじゃないけど朝送ったLINEの返事が夜中だったり、帰ってこない時もあったり」

三葉の話によると、彼氏さんは今は就職している身で忙しいのだと言う。だからそのせいだと。

しかしそれを語る三葉の顔は、1ミリも納得をしているものではなく気づけば視線は真下に落ちていた。

「そっか…電話…」

達也が言い切る前に、三葉は首を横に振った。

「無理、迷惑かける」

「彼氏なんだもん、それくらい」

「ダメだよ…ダメなんだよ」

「なんで…」

「だって」

そこで三葉は、黙ってしまった。そのうち三葉の鼻をすする音が、辺りに響いた。涙は太もも辺りに落ち、染みを作っていく。

達也は三葉を見つめながら、恐る恐る腕を三葉の肩に回した。肩にかかる達也の腕を、三葉は拒まずそのまま受け入れた。抱き寄せた三葉の身体は、静かに震えている。何もかもが懐かしくて、達也は目を閉じた。匂いも声も、感触も1年前まで隣にずっとあったものだった。

三葉と恋に落ちたのは、3年前の高校3年生の時。それから2年間付き合った。しかし、去年三葉から突然別れを告げられた。最初は納得ができなくて、何回もやり直そうと頑張った。それも届かずついには、三葉に新しい彼氏ができた。それを知った途端自分の中で、何かが切れた音がしてそれから三葉のことを諦めたことにした。

周りに何かを聞かれても、

「迷いすぎて疲れた」と言って自分を納得させてきた。それが楽だったから。

三葉は小さく「ありがとう」と言って、達也から離れた。

「大丈夫?」

「うん、余裕だよ」

大丈夫じゃない。三葉が最後に「余裕」とつける時は、必ず無理をしてる時だ。

「三葉、彼氏さんに甘えれないんだったら違う人に甘てもいいと思うよ」

「違う人?例えば?」

「えっと…例えば、友達とか家族とか!」

三葉は達也を見たまま、視線を外さない。

「達也は?」

「俺?」

「達也には甘えちゃダメ?」

それは思ってもない言葉で、もう一生かけられることはないと思っていた。達也は必死に首を縦に振って、何度も「いいよ」と言った。

達也が「いいよ」と言うと、三葉は子供のように喜び笑った。その表情を見て、心の底から嬉しがっている自分がいた。

やっぱり三葉はまだ…。

それからはお互いの身の回りの話をした。三葉がバイト先を変えていたことを知り、どこか聞くとそれはよくアキラと行くカフェだった。

三葉にそれを言うと、笑って「またおいで」と言ってくれた。スマホの着信音がなり、気づくと12時を回っていた。日付が変わろうが、三葉と離れたくなかった。きっと三葉もそう思っている。

しかし、お互い明日も学校がある。2人はどちらかともなく立ち始め、駐車場まで歩き始めた。駐車場に着くと、三葉に後ろから抱きつかれた。自分からではなく、三葉から抱きしめてくれたことが達也にとってどれだけの喜びだったかは計り知れない。

達也も体を反転させて、三葉を抱きしめる。

2人だけの沈黙が、周りを満たしていく。そのまま達也は三葉にキスをした。

三葉はそれを拒むことはしなかった。

そのうちゆっくりとお互いの唇は、離れていく。離れてはくっつき、離れてはくっつきを繰り返していくうちに2人は少しだけ笑っていた。

懐かしくてそれが嬉しくて幸せだった。

「いいの?キスして」

「うん、大丈夫」

「そっか」

10回目のキスが、離れたところで三葉が「いくね」と言って解散した。

三葉は別れ際に「またね」と言ってくれた。達也も「またね」と返して、三葉の姿が消えるまで手を振り続けた。


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