朝ごはん
目が覚めたのは翌朝だった。隣にペーターが寝ているところをみると、昨日気をうしなったままペーターの布団で寝かされていたようだ。その隣の布団にペーターの母親の姿は無い。
家の外に出るとペーターの母親がいて礼を言われたが、途中で押しとどめてトイレの場所を教えてもらった。トイレですっきりしてから中を観察する。山小屋のトイレみたいな感じだけど、トイレットペーパーはなかった。今回は必要なかったけど今後のために調べてみると大きめの植物の葉みたいなものと水の入った桶があったので、これできれいにするのだろう。荷物に入っているトイレットペーパーがあるうちはそれを使えばいいけど、無くなったこそれを使うようになるのか。そういえば手から水が出せるのだからそれを活用する方法もある。
トイレから戻るとペーターの母親の姿は無く、家の中にもいなかった。ペーターはまだ起きそうになり。顔色を見る限りでは病気の具合はいいようだ。
台所にあった食器を借りて水を飲んでいると、ペーターの母親が戻ってきた。
「昨日は本当にありがとうございました。」
改めて礼を言われる。もらい物の力を使っただけではあるが、結果としては命を救ったことになるのかも。
『与えられた力を使っただけですので、あまり気になさらず。』
少し謙遜してそう言っておく。そうこうするうちにペーターが目を覚ましてくる。
「おはよう、母さん。」
「おはよう、ペーター。」
わりとあっさりとした挨拶だ。おそらく昨日のうちに元気になった感動の挨拶は済ませてあるのだろう。
「おはようございます。昨日はありがとうございました。」
僕にも気がついて挨拶をしてくれる。
『どういたしまして。』
もらい物の力なので自分で何かしたという感じはあまりしない。それでもペーターの母親のときよりはベーターのときの方が頑張った気はする。
「顔を洗ってきなさい。」
そう言われてペーターは流しの横に置いてある大きな水がめの水を使って顔を洗う。母親は土間のテーブルに朝食の用意をしていく。昔の日本の家みたいに土間には台所の流しやカマドがあるだけでなく、テーブルとイスも置いてある。そして寝るのはベッドではなく布団と和風と洋風が合わさった感じだ。
「あまりたいしたものはありませんが、どうぞ召し上がりください。」
そう言われてペーターと母親といっしょのテーブルで食事をする。木の深皿みたいものに入ったリゾットというか雑炊風のもの。麦みたいな穀物と何種類かの野菜に肉も少し入っているみたいだ。おいしい。皿にのった固い蒸しパンみたいなのはいまいち。これなら僕の宇宙食の方がまだ食べられる。
木苺か桑の実みたいな小さな果実はすっぱいがもっと食べたくなる。飲み物はお茶というには色がないけど少しハッカみたいな感じのする水。
「今日はごちそうだね。」
とペーター。とするといつもはもう少し質素な朝食なのか。
「村長さんが、」
と母親。そういえば何か煮炊きしてる気配はなかったけど、さっき家を出たときに村長の家から貰ってきたのかな。病気の親子に優しいな村長。
「御使いにあまり失礼な物を食べさせないようにと。」
だから御使いではないというのに、まだ言ってるのか村長。
「村長ができましたら昨日の話の続きをしたいと申しておりました。」
うーん、どうするか。できたら遠慮したい。
『できれば今日はゆっくり休みたいのですが。』
試しに言ってみる。昨日はぶっ倒れたのだからそのくらい言っても変だとは思われないだろう。
「わかりました。ではそのように伝えておきます。」
これで今日はのんびりできる。でも何もすることがないなあ。こっちの言葉でも覚えてみようかな。話している意味はわかるので、字幕つきの映画を見ているような感じで何となくだけどわかりそうな気がしてはいるのだけど、誰かに教えてもらえれば何とかなるかなあ。
『それからこれは出来たらでいいのですが、誰か言葉を教えてくれる人はいないでしょうか。』
「言葉、ですか?」
『そうです。私はこちらの言葉を話すことができませんが、練習すれば少しははなせるかもしれません。』
「そうですか、では。」
「僕が教えるよ。」
元気良く言ったのはペーター。まあお母さんよりは気を使わなくてもいいから楽かな。
『それでは、ペーターにお願いできるかな。』
「わかった。僕がおじさんに言葉を教えるね。」
おじさん。おじさんって、僕のことですよね。そうですよね。