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肉食系竜帝


 自室に戻ってタオルを2枚用意し、1枚を机の上に畳んでベッド替わりにして寝かせ、もう1枚を毛布代わりにそっとかける。


「大丈夫、かな?」

「目覚めるまで待つしかないな……」


 外傷は全くなし。脈を拾った限りでは衰弱しているわけでもなし。一応念のためユーディが[ヒールライト]をかけたが……現状、出来る事はもうない。


「それにしても、こんなにっちゃくて可愛い竜帝もいるんだね……びっくり……」

「総じてデカいとばかり思っていたからな……」


 問題はそんな竜帝の一角が、なぜどこぞの飛行船から落っこちたヒロインのように現れたのかだ。……目覚めてから聞けばわかるか。ま、聞ける精神状態かどうかは別だが。


「とりあえず、着替えてしまおうか」

「ん」


 1枚ずつ脱いでハンガーにかけ、一旦クローゼットへ。


 あー……開放感がパないわー……。どうにも昔っから学ランだのスーツだの堅苦しいのは好きになれない。なのでまあ、タキシードもまた然り。こう、下手に動くと引っかかるし、破けそうで。特に学ランの襟カラー、テメーはだめだ。冷たすぎて冬場は特に不快だ。


「ななにぃ、た、たすけて……背中、届かない……」


 助けを求めるユーディの声に釣られて見ると、懸命に背中のファスナーに手を伸ばすも一歩届かない状態だった。


「ストップストップ。腕痛めるぞ」


 というかその前にヴェールを外そう……?


 そっとヴェールに手を伸ばして外し、次いで背のファスナーをゆっくりと下ろす。


 片腕ずつ出させて脱がすと、白レースの下着だけになった。色白の肌に溶け込むような純白の下着。思わず後ろから襲いたくなるが、ぐっとこらえる。


「さて、明日の洗濯まで時間停止だな……」

「んぅ?そのままクローゼットじゃダメ、なの?」

「あかん。ほれ、なんだかんだでかなりの時間着ていただろう?それに、休憩中にヤッた時に出た汗も吸ってる。このまま保管すると汗で変色する上にカビまで生えてしまう。白地だとカビはやたら目立つからな。それに、クローゼットにそのままだと裾がもたついてシワになってしまう」


 このまま仕舞う事で得られる利点は『楽』しか(・・)ない。怠惰な下策と言える。


「……なんでそんなに詳しいの?」

「ジローの結婚式の前にな、あいつとあいつの嫁さんに相談されて調べたんだ。念入りにな」


 それこそ式場関係者だのオーダー先だのに聞けばいいだろうにと思ったが、それらから聞いておきながら何故俺にまで聞くのか。……まあ、ジローが奮発したドレスだったし、加えて嫁さんが心配性なのもあった。そして、「兄貴に聞けば分かる」と、ジローが言ったのも原因だ。


 受け取り方次第でイヤミにも聞こえるが、そんなつもりが微塵もないことくらいはわかっていた。全く、インターネット様々だよ。……間違った事教えないために半日かけて情報を洗い出した訳だがね。


 まあ、こっちでも同様の方法で保管する必要はない。こっちでしかできない手もあるのだから。


「明日洗濯して陰干しして、それから時間停止(ジ・イソラティオン)すれば、型崩れもカビも怖くないさ」


 時間停止便利すぎだろ、何度も言ってる気がするけど。


「魔法で何とかできたらいいのにね」

「あったら便利だが、ありそうでないんだよなぁ」


 術として記されたキシュサールの書に、汚れを落とすような魔法は無かった。本当に有るのか無いのか、発動式を組むとしたらどう組むべきか、組んだところで[アンチグラビティ]のようにコストがバカ高くならないか。……どうにもこうにもだな、全く。




 そんなこんなで、ドレスとタキシードは洗濯まで時間停止させ、いつものシャツとスラックスに着替える。ユーディはといえば、俺のワイシャツを上に羽織るだけだ。


「……寒くないん?」

「お風呂入るまで、だよ?」


 あーうん、まあ、ユーディも風邪とか無縁だけどさ……。そういえば、こっちの冬はどれくらい寒くなんるんだ?……雪、降らなければいいんだがなぁ。


 と思っていると、机の上のタオルがもぞもぞと動き出す。大きな音を立てて驚かせないように、こっそりと接近。むくりと、上半身だけ起こした寝ぼけ眼のミニマム少女と目があった。


「ん~……?」

「ふむ……おはよう」

「ん~……あー、こりゃ夢だわ。起きて目の前にかっこよく成長したおとーさんがいるなんて、夢以外の何者でもないわ。オヤスミグッナイ」


 そうつぶやくと、再度パタリと横になってしまった。

 おいおい……。なんか、ビミョーにイントネーションが俺に似てる。……間違いないな、うん。


「素っ裸で眠ることを咎めるつもりはないが……まあ、風邪だけは引くなよ、フィエルザ」


 ピクリと、掛けられたタオルが震えた。


「まさか……夢じゃない!?ほんとにおとーさん!?ナンデ!?」

「久しぶり……いや、対話自体は初めてだな。っていうか、よく声変わり済みで気づけたな」

「……やっぱり夢だわ。うん、おやすみなさい」


 今度は頭からタオルをかぶって、丸くなってしまった。

 おいいいいい!?この流れでなんで夢って結論出すわけ!?ここはあれだろ!?感動の再会、お涙頂戴シーンとかじゃないのかよ!?


「んぅ、どうするの?」

「あー……ほっといて風呂行くか。ありえない状況が発生すると、頭が追いつかなくなるからな。噛み砕く時間が必要だ」


 やれやれとため息を出しつつ、俺とユーディは自室を後にして風呂場へと向かった。




フィエルザ視点


 パタンとドアが閉まった音を聞いて、あたしはタオルの中で悶絶した。


「あーーーーなんでなんでなんでーーー!?」


 あたしがこの世界に来て18年、おとーさんのことは忘れたことはなかった。

 ここがどういう世界かは知っている。元の世界で忘れられたからここにいるっていうことも、当然。


 だけど、結果的にあたしはあたしの意思で動かせる体を手に入れた。紙の中でじっとしている必要なんてなくなった。

 ……怒っていない、といえば嘘になる。でも得られたものが大きすぎて、本気で怒れないっていう。フクザツでごちゃごちゃしているわけです。


 それに……あの事件がなければ、おとーさんはあたしを忘れる事は無かったかもしれないから。


 それにしても、いくら夢で見たからって、こんなことになるなんて……。


「おとーさん、変わっちゃったなぁ……」


 昔は虫も殺せないような大人しいしょんぼり顔で、争いを嫌う、保護欲を誘うような子供だった。

 そんな子供が一心不乱に、何度も何度も懸命に書き直して生まれたのがあたしだ。


 ……のおとーさんは昔と対極。簡単に人を殺せる目をしていた。こっちに来てから遠目で見てきたそういう人の目と同じ。生きるために人を殺したことがある目。加えて、細くてもやしみたいな体は、がっちりした逞しい体になってた。


 ……そういえば、隣にいた子は誰なんだろう?


「や、そんなことより……にゅふ」


 あたしとしては、何より思い出してくれたのがすごく嬉しいわけで。それも、この姿であたしだってわかってくれたのがまたすごく嬉しいわけですよ。何十年ぶりに再会した友達っていうレベルじゃないわけですよ。次元を跨いでいるわけですからね!!

 ぶっちゃけますと、合体したい。男と女のファイナルフュージョンしたい!!!


「あーーーーこれあれだ、ファザコン?たぶんファザコンだわ、あたし。独立22年目にしてファザコン疑惑有り」


 いや、でも……極端な年上好み的な~には、ちょっと足りない?なら、正常?いやでもこれは親近的なアレになる?いやいや、血縁だけど血縁じゃないからそうはならない?いやでも……




2時間後──




「……遅くない?」


 いくらなんでも遅すぎる。あたしの記憶が確かなら、昔のおとーさんのお風呂タイムは20分足らず、カラスの行水だった筈。いくら年取って長湯に変わったって言っても……。


 ……ちょっっと待って。一緒にお風呂に行ったあの隣の子は、一体誰でせう?


「見た目二次性徴始まったくらいで、おとーさんが10代後半……多分19くらい?ここと向こう(・・・)だと時間の流れが違う?や、そうじゃなくて……。やめた!行けばわかる!」


 と、いうわけで、部屋を脱出しました、まる。お風呂場の場所?匂いをたどれば一発デース。おとーさんの体臭じゃないよ?アルコール臭よ?


「うっぷ……きつっ……」


 あたしはアルコールにとにかく弱い。あたしが空で気を失ったのも、立ち上る尋常じゃないアルコール臭をモロに受けてだった。つまり気分が悪くなる匂いをたどれば、お風呂場にたどり着けるってわけよ!うっぷ……。



20分後──


 なんとか、お風呂場の脱衣所にたどり着きましたよ。がんばった、がんばったよあたし!きつかったー……。心なしかちょっとアルコールに耐性付いたような気もするわ。


 音を立てないようにそ~っと、脱衣所に潜入。小さいとこういうとき便利よね。


 あるのは大きな脱衣カゴ、鏡と洗面台、そして、湯気が漏れる引き戸。……脱衣カゴに入れられた男物のシャツ2枚と、スラックス、そして、替えの下着。折りたたまれた男物の下着とせくしーな黒の下着には、黒の首輪と、ロックが解かれたハート型の錠。


 ……え?


「や、やっぱりこれわ……」


 薄々予感はしていた。お風呂場が男女別にあるのに、アルコール臭が分岐していなかったんだもの。


「やー、まってまって。これはあれよ、おにーちゃんと妹のスキンシップ的な?そういうアレよね?」


 多分そう、きっとそう。そうよね?それ以上の意味なんてないよね!?


 あたしの頭がさらに回る前に、引き戸の向こうから声が漏れてきた。



「んっ、ナナにぃ……もっと、そこぉ……」

「きもちいいのか、ならもっと揉もうか」



 ……な、なんですとっ!?これはつまり、スキンシップ(意味深)ですかっ!?そうですよね!?



「んっ、あああっ……」

「しかし、ユーディだけきもちいのも不公平だな」

「はふ……なら、今度は私の番」



 確定ですね、この向こうで男と女のくんずほぐれつなアレが……ッ!


 ッ……今、あたしの前には3つの選択肢があるッッ!!


ドンッ!!!


1、何も知らないふりをして部屋に戻る。

2、乗り込んで中止させる。

3、混ざる。


 常識的に考えて2を選びたいッッ!けどそれはあたしがおとーさんに抱かれる可能性を自分から消す行為ッ!常識を選べないッ!悪手ッ!!圧倒的悪手ッ!!

 なら1が妥当?いいえ、ここは3、混ざるが正解!!ここで1を選ぶのは、自分からみすみすチャンスを逃すようなもの!!

 今の省エネサイズから等身大になるにはちょっと魔力が心もとない。なら、混ざるには混ざるとしても、本番までは行かないで、この大きさでナニに抱きついでゴシゴシして、親近でやるっていう忌避感を薄くするッ!!次のための布石にするのが正解ッ!!!



「くはぁ、きもちいいな……」



 って、時間がない!!フィニッシュされたら賢者になっちゃう!!いくわよ、突撃!!!


 渾身の力で引き戸を目一杯開いた!!!




「あたしもまぜなさいっ!!」

「「お??」」

「……え?」


 目を疑った。目の前の浴槽では、男と女の連結合体をしている、なんてことは全然なくって……。


 裸の女の子が、裸のおとーさんの肩を揉んでいた、まる。


「あ、あれ?」

「あれ?じゃねぇよ、閉めろアホ。脱衣所が湿気るだろうが。っていうか、せめてタオル巻いて来い」

「アッ、ハイ。ゴメンナサイ」


 有無を言わさぬ圧力を感じました。……いや、ちょっとまって。


「おとーさん、その理屈はおかしい。それじゃ二人共裸なのはいいの!?」

「いや、夫婦だし、なぁ」

「ん、何も問題ない」


 あー、そっかー、フーフだったんだー。……あれ、フーフってなんだっけ?トウフの親戚だっけ?


「………………夫婦!?」

「っていうか、大分時間経っていたのか?」

「ん、多分2時間くらい?」

「あー、休憩挟んで1回ずつやってりゃあそんなものか」


 え、1回……ずつ?ずつって一体なんのこと?ねえ、なんのこと!?


「まあ、上がるか。この様子なら、頭の整頓がついたんだろうしな」


 いいえ、今さっきぐっちゃぐっちゃにかき乱されたところです。


 湯船から立ち上がった時に見えたおとーさんのあれは……すごく、ご立派でした、まる。





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