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次元の最果で綴る人生~邪魔者⇒葬る~   作者: URU
大海の覇竜と赤の姫
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さあ、帰ろう

『あとは、あたしの契約だったね。……こういっちゃなんだけど、要るかい?』

「「いらない」」


 契約に関してはお断りを入れることで、ユーディと意見は一致していた。


『まあ、そうだと思った。あんた達の能力を見て、そしてあんたたちの目を通して戦いを見て、あたしの契約なんてあってもなくても変わらないと思ったよ』

「それ以前に、碌でもないことを引き寄せそうな気がしてな。婆さんみたいに人のステータスを覗けるやつはそれなりに居るんだろう?」

『どれだけいるのかまではわからないけど、間違いなく居るね。あんたたちの認識障害を突き破れる、あたしの眼より遥かに高い次元の眼を持つ奴がね』

「そういうのから厄介事を頼まれる一因になりそうでな。それでなくても立場的に、な」

「あと、負担、かかるよね?」


 そう、最大の懸念はゼブリアノムにかかる負担だ。


 この契約はルチアナら話をまとめると、俺達に理があり過ぎる所謂不平等契約だ。契約対象へと力が流れるだけで、対価らしい対価が無く、竜帝側にはまるでメリットがない。なのに何故竜帝は契約できるのか。




「退屈だから、だそうですよ」




 そういう返答が、リムリスから返ってきた。

 リムリスが契約した竜帝クィラン曰く、長く生きすぎると退屈が最大の敵になるという。

 自身から流れていく力の度合いで、契約した対象が何をしているのか夢想し、また竜によっては状況を覗き見できるという話だ。少しの負担で退屈が凌げるならば、平等な契約だと。価値観の違いって怖い。


 だが、たとえ少しの負担であってもゼブリアノムに関しては例外だ。もし契約すれば負担を増やす事となり、寿命へと直結する。ハルネリアの事を考えれば、契約すべきではないという結論へと至ったのだ。


『昔のあたしなら、「バカにすんじゃないよこのトンマ!!」なんて言ってただろうね。ほんと、年は取りたくないもんだよ』


 ……そういえば、この婆さんのステータスを見ていなかったな。よくよく考えれば、俺達ばかり見られて不公平ではなかろうか?なのでじっと視てみた。


『……ああ、あたしの能力値を見たいのかい?』


 瞬間、頭の中にゼブリアノムのステータスが流れ込んできた。


-------------------

ゼブリアノム

Lv527/527 

種族:海竜

攻撃:A- 防御:S- 速度:C(水中・水上のみS) 体力:A- 魔力:B- 技術:B- 幸運:B

異能:オリジン 識別の竜眼 息吹 天候制御(霧・時化・嵐)

技能:海竜統率 視界共有 契約 人化 大咆哮 休眠 

加護:なし

称号:竜帝 大海の覇竜 老竜


オリジン

 種を存続させる存在。通常より寿命が長く、老化も遅い。


識別の竜眼

 対象を解析し、潜在能力を暴く。

 この効果は認識阻害の影響を受ける。


息吹

 各種ブレスを放つ事が出来る。ブレスの種類は種族・生態等で変化する。


天候制御(霧・時化・嵐)

 天候を任意で制御し、支配下に置く。

 天候が支配下から解放された場合、支配期間の長さに応じて揺り戻しが起こり、異常気象が発生する。


海竜統率

 率いる海流の士気を高め、能力を向上させる。


視界共有

 対象と視界を共有する。


契約

 契約対象に自身の力から何らかを選択し、その一部を貸し与える。

 貸し与えた分だけ弱体化するが、契約対象の状態を常に観測できる。


人化

 ヒトに近い体に変質させる。外見年齢はヒト相当となる。


大咆哮

 雄叫びをあげ、自軍以外に対し恐怖心を植え付け行動を阻害させる。


休眠

 深く眠ることで自然治癒力を最大まで引き上げる。一部の病は病状が加速する。



蒼海帝

 数多存在する竜種の頂点に君臨する竜帝が一柱の証。現在八柱。他者に加護を与えられる。


大海の覇竜

 大海を統べる者。この称号を持つ者が海の種族を率いた場合、士気が大きく向上する。


老竜

 老いは活力を奪い、終焉へと歩を進ませる。

 この称号を持つ者は幸運以外の能力値が死の瞬間まで下がり続ける。

-------------------



「オリジン……か……」


 種を存続させる存在。通常より寿命が長く、老化も遅い……。まさか、シルヴィさんも[オリジン]持ちなのだろうか?だとすれば、ドラグノ族にしては異常な齢400超えも頷ける。

 しかし彼が仮に[オリジン]持ちだとして、その事実を自覚しているのだろうか?いや、自覚せざるを得ないだろう。[オリジン]という言葉を知っていなくとも、当事者が自身の異常性から目を逸らし続けることはできないのだから。


『[オリジン]の異能はあらゆる種族に必ず(・・)一体存在する。存在理由は種の保存と繁栄の為に、稀に生まれるのさ』

「そういうものなのか……。ん?ということは、竜のオリジン=竜帝という解釈でいいのか?」

『竜帝あるいは竜帝候補ってところかねぇ。長寿ってのは、それだけ経験を積めるって事だ。積めば積むだけ多くを知り、力を得る糧となる。結果論みたいなもんさ。

 それに、一言で竜といっても種族は様々さ。あたしのような海に住まう海竜、火山に住まう灼竜、空気が薄い場所に住まう翼竜、穴蔵を好む地竜、雲の中を好む雷竜、寒冷地を好む氷竜……といった具合にね』

「んぅ?好みの問題?」

『過ごしやすい場所に住むのは間違ってはいないだろう?』


 まあ、そりゃあそうだな。人間でも、暑さに強い弱いあるしな。どうしても環境に適応できない場合、過ごしやすい土地へ移り住む。自然な話だ。およそ成長とともに環境に適用するが。


『まあ、後の2種族は好みの問題じゃあないんだけどねぇ』

「ん……そこでなければ生きられない?」

『恐らく。あたしゃ会ったこともないしね』


 


『ねーねー』


 お?ここまで黙っていたハルネリアが、何か言いたいらしい。


『かたきありがとー』

「お、おお」

「ん……」


 敵、か。ただ、敵は撃てても死者は戻らないんだよなぁ。ケジメつけさせても、元に戻ることはない。


『あと、あまいのちょうだい!!』


 台無しだった。


『あんたって子は……』

『ほしいのー!!あまいのぺろぺろしたいのーーー!!』

「あーもう、ちっと待ってろ」


 一応砂糖だけは小袋に少量移して持ってきてある。……まあ、全く予想していなかったわけじゃあなかったからな。

 ポケットから小袋を出し、縛り口を解いて手の平に砂糖を山なりに出す。


「どうするの?」

「シンプルにべっこう飴だな。溶かして固めるだけ。[成形]──べっこう飴」


 砂糖の山は淡く光ると、指先ほどの琥珀色の飴3つに変わった。無論、完璧な正六面体だ。点を打てばダイスにもなる。


「ほら、ハルネリア。あーん、だ」

『あーん』


 ポイとべっこう飴を巨大な口に放り込む。


『おいひーー。あまひーーー』


 がっちりと大口を閉じ、目を細めて絶賛していた。やっぱり子供は甘いものが大好きなんだなぁと思う。


『ふーむ……あたしにも貰えないかい?』


 ……ん?


「まさか、食ったことがない!?」

『生まれてこのかた、そういうものの存在は知っていたんだけどねぇ。水に溶けっちまうだろ?食べる機会が全く無かったのさ』


 そのまさかだった。確かに生活圏が海オンリーだと、砂糖に縁は全くないな。塩味ばっかりだ。


 1個放り投げると、バクッとゼブリアノムは食らいつき、そのまま静止した。


「……おーーい」

「だいじょぶ?」

『ばーちゃ?』


 あんまり動かないもんだから揃い揃って不安になってきた。


『……まさか、こんなものがあるとはねぇ。ハルネリアが駄々をこねるわけだよ。長生き、してみるもんだね』


 半信半疑だったが、本当に味わったことがなかったのか……。




 俺達は何れまた会いに来ると約束して彼女らと別れた。いやはや、思い返せばとんでもない出会いだった。帰ってからこの一件を話しても、全面的に信用される気がしないわ。


「ユーディ、飴食べる?」


手の中にはべっこう飴の残り1個。


「ナナにぃは?」

「俺はいいよ。このまま持っていても溶けてしまう」

「じゃあ……あーん」

「ほいっ」


 ぽとりとユーディの舌の上に飴を落とす。コロコロと、口の中で転がして、甘さを楽しんでいるようだ。


「ん……」


 べっこう飴、か。純粋に砂糖の味を味わえるよなぁ、これ。着色料だの香料だの不要だし。実は俺が最初に作ったお菓子だったりする。



クイックイッ



「ん?」


 裾を引くユーディが目を閉じてこちらに顔を突き出している。

 まだ飴が残っているだろうにこんなところで、と思いつつ唇を重ねると、コロンと飴玉が押し込まれ、こちらに転がり込んできた。


「ん、半分こ」

「……ほんと、飴ってのは甘いよなぁ。溶けそうに甘いわ」


 真っ直ぐ宿へ戻ってポーチを隠し、その後は日が沈むまで海で泳いで空を飛んでと遊びつくした。日が沈んで夕食をとって、自作の風呂でそろって汗を流し、ベッドの上でなめした縄片手に……。




 そして、ウルラントへ帰る日がきた。


「クローゼット、よし」

「ん、何も入ってない」

「ベッド、よし。シーツの汚れも問題なし」

「んぅ……今晩も、しよ?」


 ……ほんと日に日にエロくなっていくな。そりゃあほぼ毎日やって開発していればそうなるのは必然か。素質もあったし。


「荷物、全部ポーチに入った」

「無視しないで~」

「朝っぱらからエロ発言するからだ」

「……嫌い?」

「いいや、大好きだ」


 返事代わりに頭を撫でると、耳と尻尾がピコピコパタパタ動く。これだから撫でるのがやめられない。


「今度は皆も連れて来たいな」

「んっ!」




 通路へ出て、数日過ごした部屋のドアを閉める。ほんの数日だったが、日当たりもよく風通しもよく、過ごしやすい良い部屋だった。次に来るときは、同じ部屋を取りたいと思えてきてしまう。


「あら、ナナクサ様に、ユーディリア様?」

「ん、ルチアナ……と、リムリスか」


 声がした方を振り開けると、ルチアナとリムリスが立っていた。


「お出かけですの?」

「いや、これから帰るところだ。延々新婚旅行しているわけにもいかんしな」

「はぁ……お熱いですわね。熱々すぎて嫉妬すらできませんわ」


 いや、わりかし男どもの妬みの視線は飛んでくるぞ?ほれ、今も視線が下の方から……って、視線の主はリムリスだった。


「あの、ナナクサ様はどちらにお住まいなんですか?」

「ん?ウルラントって言ってな。ここから東に街を3つ抜けたところにある、魔王城のある街だ。こっちじゃあ歴史がある方の街だが、いかんせんボロい。ただ、腹は膨れるな」

「どういうことです?」

「そうだな……、全く信じ難い荒唐無稽な話になっちまうから、知りたければ来るといい」

「「???」」


 揃って首を傾げる。農耕加速収穫チートな土地だなんて言っても、信じるわけがないからな。百聞は一見になんとやら、だ。


「んじゃ、機会があればまた会おう」

「ん、また」

「ええ、それではごきげんよう」

「ごきげんようです!」


 彼女らに背を向け、手をつないで通路を歩き進んだ。近いうちに再び会う事になりそうな、そんな予感がした。


 こうして、俺達はダルエダを出発した。もう二度と、あののどかな町並みを見られなくなるなどと微塵も思わずに──。


お読み頂きありがとうございました。次回、ついに外伝の彼が登場します。長かった……。


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