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次元の最果で綴る人生~邪魔者⇒葬る~   作者: URU
大海の覇竜と赤の姫
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危険な報酬

 水膜越しに見る水面は、水底に降りる前と同様に静かに揺れている。相変わらず水上は真っ白な霧で覆われ、満足に青空を見ることすらできない。


「なんとか生きてるな……」

「ん……」


 間一髪で水膜球の展開と[ジ・イソラティオン]が間に合った。本当に間一髪だった。もし、俺とユーディが密着していなければ、今頃は海の藻屑だった。


「しんどかった……」

「これでもうだいじょぶ、だよね?」

「ああ。ゼブリアノムの婆さんの依頼達成。死んだ海竜達の無念も晴らした。親子を引き裂いたバカ野郎にも鉄槌を下した。そして平和な未来が確約された」


 はぁぁぁ……と、そろって深い安堵の息をついた。


「私もう迷宮行きたくない」

「俺もだ。頼まれても二度と潜らんよ」


 不死身に近いこの体でこの有様だ。完全な不死身か動く死体(アンデッド)にでもならない限り、どれだけ報酬を積まれようとも行くつもりはない。


 そもそも俺は戦闘狂ではない!!戦いに死に場所を見出す武人でもなければ、戦いそのものが生きがいの戦闘民族でもない!!オラワクワクしてきたぞ、なんてありえん!!!


 とかなんとか思っている間に、ゼブリアノムが近づいてくる。この霧の中でも位置が分かるあたり流石は海竜というべきか。


『よくやってくれたよ。これでもう、大丈夫だろう』

「これで大丈夫じゃなかったら立場がねぇよ」

『違いないねぇ』


 ゼブリアノムは俺達が入った水膜球を咥えると、そのまま首を甲羅の上に回し、小舟に乗せた。水膜球を解除すると、そのまま揃って船の上に崩れ落ちた。


『本当にありがとうよ。これで、死んでいったあいつらも、あの子も、少しは気は晴れるだろう』

「ああ。……ところで、一つお願いがあるんだわ」

『なんだい?』

「報酬の支払い明日にしてくれ……。もう帰って寝たい」

「ベッドが恋しい~」


 いわゆる休日のサラリーマン状態だ。肉体的にも精神的にも、バランドーラ死地を超えた時と同等か、それ以上のクソコンディションだ。


『あたしゃ最初からそのつもりさ。1万トンの海産物なんて、流石にぽんぽん用意できるもんじゃあないしねぇ』


 それもそうか。確かにそうだな。こんな単純なことすら失念しているとは……。

 ………いや、ちょ待て!1日でも用意できる数じゃねぇだろ!?


『生き残っているマーム族やら、あたしの眷属を動員すりゃあ1日で集まる。なぁんの問題もない』


 できるというのだから出来るんだろう。どれだけ眷属がいるのか、もう考えるのすら億劫だ。




 ゼブリアノムと明日改めて会う約束をし、気が付けば小舟はダルエダの浜に漂着していた。


 宿に戻った俺達は、親父さんと、偶然その場にいたルチアナとリムリスにまるで幽霊を見るかのような顔で出迎えられた。


 そりゃあユーディはともかく、俺のシャツ右袖はざっくりワイルドに無くなった上、血痕まで付いている。オマケに疲労でクタクタ。もうちょい度合いが進めばバイ○ハザードにゾンビ役としてオファーが着そう……言い過ぎだな、うん。


 どうやら俺達が霧に飲まれるところをルチアナらが見ていて、そこから親父さんに伝わったらしい。曰く、稀に海上に現れる濃霧に飲まれれば、二度と帰ってこれないらしい。故に彼らはそれを『死の霧』と呼び恐れ、兆候があれば直ちに浜へ引き返すのが常だと。そりゃあなぁ。灯台も羅針盤も何もないのに濃霧に飲まれれば、帰還方向すらわからなくなる。当たり前の話だ。


 結局、そのまま部屋へ戻って、夕食をパスして、ふたり揃って素っ裸で何もせず抱き合って寝た。お互い、ギシアンどころかイチャつく体力すら残っていない。とにかく、お互いの温度を感じて眠りたかった。




 翌日、指定した場所────最初に釣りへと洒落込んだあの崖の出っ張りへと出向いた。既に大量の魚は確約されているため、釣竿は持参していない。これ以上釣っても意味はないからな。


 ふと、時間を決めていなかったことを思い出し、やっちまったなぁと思っていたが、幸いなことに、到着から15分後程度で霧が立ち込め、ゼブリアノムが姿を現した。その脇に幼海竜ハルネリアがぴったりとくっついている。


『すまないねぇ、時間を決めるのを忘れていたよ』

「お互い様だ、俺も今の今まで忘れていた」

『年は取りたくないもんだ。あんたたちよりまともな状態だったってのに、そんなことも忘れてしまう』


 それには同意だ。生前常に体を鍛えてはいたが、衰えを感じない日はなかった。留まる事なく死の瞬間まで歩みを止めない老い。若さとは、遍く全ての命が持ち得る最高の宝ではないかと思いもした。


 と、俺の目の前に可愛らしいポーチがゆっくりと下りてくる。すっと両手を前に出すと、ぽとりと手の中に収まった。


「あ、かわいい」

「ああ、なんかやたら少女趣味なデザインだな……まさかこれが?」

『ああ。その中にほかの4つのアーティファクトと、オリハルコンの塊と、魚一万トンが入っている。ちょっとだけあたしの目を貸すから、それで確かめな』


 言われるままに手をつっこ──暗黒球体の件で一瞬ためらったが、突っ込んでそれっぽいのを引っ張り出し、その場に並べてみた。


 漆黒の細い筒状の何か。


 楕円のレンズが填ったちょっと洒落たブロンズフレームのメガネ。


 赤・青・緑・黄の小さな宝石が填った金色の腕輪。


 神々しさを感じる銀色のライフル銃。


 そして、それらを取り出した花冠の刺繍がされた可愛らしいポーチ。


 これらが件のアーティファクトらしい。一つずつ[鑑定]し、検分することにした。

 まずはこの黒い筒から……。



--------------------

ハードラックダンス

分類:吹矢(AF)

威力:なし

強度:C


付与効果

不幸と踊れ

 この吹き矢の攻撃を受けた対象の幸運を、下限を超えて低下させる。


 蠢く漆黒の吹き矢は、疎まれる不幸の結晶。放たれる漆黒の針に痛みはなく出血もなければ傷すらも残らないが、刺された者は一定期間、その身に起こり得るありとあらゆる不幸を経験し、己の生を嘆き絶望するだろう。

--------------------



 ……これあかんやつや。目障りな相手を事故死に仕立て上げる事ができるぞ?元王子の糞豚を暗殺した時のような、回りくどい手が要らなくなる。目下そんな相手今のところはいないけど。


「危険だな……」

「しまったほうがいい、かも」


 遊び半分で使っていい代物じゃあないしな。


次、この眼鏡か。眼鏡を見ると俺がつけていた眼鏡を思い出すわ。



--------------------

土竜の眼

分類:眼鏡(AF)

強度:B+


付与効果

閃光遮断

 装着者の目を過剰な光から護り、視界を維持する。


暗視

 装着者は暗闇による視界不良の影響を受けない。


??

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 楕円のレンズが填った眼鏡。光や闇に遮られることなく世界を観測可能。

--------------------



 つまり暗視スコープ的なものか。夜間の索敵・狩猟には使えそうだ。しかしいまのところは有効な使い道がないな。……いや、キモはノーコストという点……誰にでも使える代物は、間違いなく便利だろう。


 次がこの腕輪。単純な装飾品としても相当な価値がありそうだ。


--------------------

ゴーレムリング

分類:腕輪(AF)

強度:B

 

付与効果

ゴーレムメイキング

 装着者に対して忠実なゴーレムを核なしで生成し、最大5体まで使役できる。

 あらゆる物を素材として用いることができ、また、その形状は装着者が任意で決定できる。ゴーレムの強度・性質は素材に依存する。


?????

 ?????


 複数体のゴーレムを作り出し、使役を可能にする腕輪。

--------------------



 これもまた……。ノーコストでなんでもゴーレムにするって、やばい。つまりゴーレムの残骸すら再利用できるというわけだ。なにそのゾンビゴーレム。

 しかも、人型である必要もない。馬車を引かせたホースゴーレムのような馬型をはじめ、竜型だの獣型だの、流体である水や無色透明の空気すらもゴーレム化できるという事だ。


「有事においてかなり有効そうだな、これは」

「ん、普段は単純労働向き?」

「器用さ次第ではどうなるかわからん」


 次、銀色のライフル。ポルトアクションライフルのようだ。しっかりと銃身(バレル)にライフリングが施されている。銃床には鷹の意匠があり、外見は美術品としても十分に通用する見事な作りだが、果たして……。



--------------------

ヴェズルフェルニル

分類:ライフル?(AF)

威力:EX

強度:∞


付与効果

エアロバースト

 弾倉内にて空気を超高密度圧縮し発射、着弾と同時に大爆風を発生させる。

 この効果は標準攻撃であり、規格に合った実弾を装填・発射しない場合、常に発動する。


オールデストラクション 

 許容量一杯まで魔力を注ぐことで発動可能。発射した弾丸を散弾化させ、広範囲を浄土化させる。現在まで発動できた者はいない。


不死必滅(直接攻撃)

 この武器は直接攻撃時、不死者に対し最上級の特効効果を発揮する。


?????

 ?????


評価EX

 使用者の能力次第であらゆる評価値に変貌する場合に表記される。

 

 「風を打ち消すもの」の名を冠するライフル。セントシルヴァと呼ばれる希少金属をベースに作られている。弾倉内にて空気を超高密度圧縮し発射、着弾と同時に大爆風を発生させる。その爆ぜる弾丸をもって滅びの嵐を消し飛ばした逸話が亡界に存在していた。威力・リロード速度は使用者の魔力に依存する。

--------------------


 もはやライフルじゃねなくね?ライフルの形をした超射程ロケットランチャーじゃね?俺の空気弾の究極型?っていうか、なんなの[オールデストラクション]って……。存在自体が下手な伝説の剣を凌駕してるだろ……。


「んぅ?ライフル?」

「重火器……弓を10回くらい存在進化させたような代物だ。もし俺とユーディの二人がかりでこれを最大運用すれば、災害どころか大厄災になりかねないな」


 [オールデストラクション]発動まで行かなくとも、銃火器という点で既にもうあかん。オーバースペックだ。


「こんなに綺麗なのに?」

「優れた武器ってのは、芸術の域に達するもんだ」


 まあ、どんなに優れていても俺には扱えないな。[ノーコン]だし、むしろフレンドリーファイヤが危な過ぎて撃てたもんじゃない。


 ……最後に、このポーチだ。


--------------------

フラワリングポーチ

分類:収納

強度:B-


付与効果

停滞異次元収納

 物体を時間の概念が存在しない異次元に収納する。収納する異次元は物体の収納に伴い拡張する為、上限は存在しない。

 また、この内部に生物を収納する事は出来ない。


収納概念

 収納口を対象に合わせて任意の大きさに変える。この変化は収納時・取り出し時にのみ発生する。


 四季の花冠の刺繍が無限を暗示する。亡界の英雄王が肌身離さず身に付け、全ての宝物をそこに収めたというが、その全てを用いて一本の釘へと加工する折に行方知れずとなった。

--------------------


 うわぁ、四次元○ケットの上位互換やんこれ。


 しかし……あれだな。なんというか、このポーチを肌身離さず身につける英雄王……か。英雄王がおっさんだったら、なんか娘のランドセルをしぶしぶ持たされているお父さんみたいですごくシュールだ。あるいは英雄王は女性だったのかもしれない。ロリの確率も微レ存。


 そんな英雄王も、まさか宝物を出して空っぽになったお気に入りのポーチに大量の海産物が入れられるとは思ってもいなかっただろう。……中、磯臭くなってないだろうか?


「後はオリハルコンか」


 ……俺と同等の体積を持つ金属を、どうやって引っ張り出せばいいんだ?流石に片腕で70kgの塊を持ち上げられるほどの握力も筋肉もない。俺ゴリラじゃないし。


 しばし考え、ポーチを逆さまにひっくり返して口を引き延ばし、手を突っ込んでアタリをつけて引っ張り出すことにした。ポーチの口がゴムのようにびろーんと広がって金属の塊が出てくるさまは、その異常性を再認識させるに十分だった。が、すぐに意識がオリハルコンへと釘付けになる。


「わぁ……綺麗……」

「ああ、こりゃあ……すごいな……」


 なるほど、未加工でも高価なのが頷ける。金や銀、宝石とは違った美しさだ。霧の中ではなく、日の光の下に晒せばどれだけ輝くことだろうか。


--------------------

オリハルコン塊

分類:希少金属

強度:∞


 超硬度を持つ希少金属。金属アレルギーを誘発させず、また、細胞との癒着も発生させないため、ピアス等の装飾品のみならず、もろくなった骨の代わりに体内に埋め込む補助金属としても用いられた。生成に時間とコストがかかる為、手にすることができたのは一部の支配階級のみだった。また、大量保有することが彼らのステータスだった。

--------------------



 ……あれ?


『どうしたんだい?』

「いや……この輝き、どこかで見たような気がして……」


 うーん……なんか身近にあったような気が……。


「ナナにぃ、これもしかして、グレンが持ってきた2本のナイフと同じ?」

「グレンの……ナイフ……2本……………アッ!!!!!」


 そうだ、この輝きはグレンがケセラの迷宮から持ち帰ったナイフの刀身と同じだ。で、預かっておいてくれって言われて、とりあえず2本とも壁に掛けていたんだっけ。なんてこったい。身近に超希少物があったのかよ……。しかも加工品やん。ケセラってホント一体何なんだ……?


 ……今はまあ、いいか。


 確認出来たので塊の上からポーチを被せるようにして収納したが、その様はどうにも妖怪じみてキモかった。


『海産物の確認はしないのかい?』

「無茶言う婆さんだな……」


 できるわけねーだろ!こんな場所で1万トンも広げられるか!確認だけでも何日かかるかわかんねーよ!


「まあ、そこはあんたを信用する」


 グレーゾーンなんだよなぁ、結局。きっちり確認するには全部出さなきゃならないが、一点一点重量数えて計算して、なんてやっていたら、鮮度落ちに追いつかない。時間停止させようにも桁が違いすぎて俺が干からびる。確認すること自体がアウトなんだよなぁ。

 しかし、この1万トンという数字は婆さん自らが言い出した数字だ。用意できると踏まなければ言い出せる数字ではない。信用、するしかないか……。




お読み頂きありがとうございました。

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