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次元の最果で綴る人生~邪魔者⇒葬る~   作者: URU
大海の覇竜と赤の姫
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黒肉の繭

 困った……幼児退行したユーディが、俺を動かしてくれない。


「まーま、まーま」

「あーよしよし……いいこいいこ」

「んぅ……」


 腕の中で抱かれて親指をちゅぱちゅぱしゃぶっているユーディ。こう、普段二人きりのときに見せる甘え顔とも、夜に見せる淫靡な顔とも違う。完全な純真無垢というべきか。

 結論から言えば俺の嫁可愛い……なんだが。どうにも昔を、前世の子供の頃に抱いてあやした、生まれたばかりの末の弟を思い出してしまう。

 同時に、俺は戦慄していた。つまるところ、これは幼児プレイ的なアレなわけで……下手すりゃ立場が逆だった、と……。うん、醜態を晒す相手がユーディとは言え、羞恥のあまり死んでしまいそうだ。多分、立ち直れない……


「洒落にならん……いや、野郎がママ役も洒落にならんけどさ」


 ただそれはユーディも同じか。開き直られてそういうプレイにまで目覚められたら……その時はその時か。


 もしも、あの時油断することなく即座に青玉を潰してスクラップにしていれば……。不意打ちを成功させてこのザマだ。自分の中の戦いに対する甘さを認めるしかない。


 っていうか、凹むわー……。なんでママなんよ?パパ上じゃねぇの?俺そんなに母性溢れだしてる?母性溢れ出しちゃってる系男子?漏らしちゃってる?ないわーマジないわー。俺オカマやないし。……まさかあれか?潜在的にオカマの才能が有るってか?やだわもー、ねぇよまじねぇって、勘弁してくれよ。


 補足しておくが、通路の先は砂でフタをした。索敵を視覚に頼る奴らなら、これで不意打ちはされないだろう。……それ以外の奴が来られたら、ユーディがぐずるのを覚悟の上で、全力で引くしかない。


「あぅ、まーま、まーま」

「あーはいはい、どうした~?」

「おっぱい」


 …………んん゛!?


「な……な…………!?」


 今、何と言った?乙πr?………まさか!?

 それが何を意味するのか理解し、動作に気づいた時にはもう遅かった。

 その時既に、ユーディは俺のシャツのボタンを拙い手つきで外した後だった。


「や、やめろーーー!!!」

「んちゅ……」

「ぬふぉぅ!?」


 俺の胸部の突起に、これまで経験したことのない刺激が走った────。




 それから1時間が過ぎた───。




 俺の中の新たな扉が完全に開く寸前。


「んぅ……ナナにぃ……?」

「お、おお……正気に戻った……か……?」


 さっきまでの様子とは一転、いつもの調子の声が聞こえた。


「えっと、なんか……ごめんなさい」


 どうやら、何をしでかしたか覚えているらしい。=俺の醜態も覚えているというわけで……。


「仕方がないだろ、不可抗力なんだから」


 そう、不可抗なんだ、あれは。そう、凹むユーディと自分に言い聞かせるように……。まあ、若干俺のB地区がエリア拡大したのと、危うく母性に覚醒して性別を完全超越するところだったけどな……。マジ戻れなくなる3秒前だった……。[怪光線]、なんてイかれた兵器なんだ……。禁止兵器だろあれ……ナーフしろナーフ。


 とりあえず、はだけたシャツの前ボタンを可及的速やかに留めた。


「えと、その……ナナにぃも、私がしたみたいに、してもいい、から……」


 そう言って、ワンピースの肩紐に伸ばされた手を、俺はギュッと握って止めた。


「NOだ。……今の俺らの視界、ゼブリアノムの婆さんと共有してんだぞ?」

「あ……そうだった……」


 今やらないだけで夜に責め(・・)るけどな。3割増で執拗に。


「まあ、こっち(・・・)は……できればもう遠慮したいところだ」


 俺の中で開きかけた扉を押し戻して封印だ、封印!厳重封印立ち入り禁止開封厳禁!!


「あと、ね」

「うん?」

「ナナにぃはいいお父さんになれると思うよ?ママって呼んでたけど、あったかくて、すごく、安心できたから」


 …………世辞なしの評価と思って受け取っておこう。




 それから出発準備をし、行動を再開。やはりというか、先の二体以外にも赤玉青玉は巡回していた。方針改め、俺が囮になり引き付けている所をユーディが[アクアリボルバー]で落とし、〆に俺が潰す作戦になった。


 ……出来ればどちらか片方を少ない破損状態で研究用に確保したかった。アレはトンデモ危険兵器だが、その中には異世界の科学技術と魔法技術の両方が詰まっている技術の宝箱だ。解明できれば……いやさ、解明できなくとも開けてみてみたい。

 しかし何よりユーディと俺の命が大事であるため、手は抜かずに徹底して破壊している。潰した数は赤玉青玉合わせて10体を超えた。


「んぅ、なんかもったいないね。結構可愛いのに」

「え?可愛い?」


 この赤玉と青玉が?


「ん、ころころしてて」


 そんな会話を挟みつつ進むと、ようやく道の終わりが見えてきた。




 一本道を抜けた先は、神殿のような意匠が施された開けた空間だった。だが、そこに神々しさなどは微塵もない。床、壁、天井と、壁に灯された明かり以外の全てが漆黒に塗りつぶされている。中二病の痛い少年が自分の部屋を黒で統一しているようなものに近いが、壁面や柱の見事と言わざるを得ない意匠がそんな痛さをかき消している。神殿は神殿でも、これは所謂地下神殿──密教の類だ。邪神を祀る神殿のようにしか思えない。


「この奥に呪いをばら撒いている奴が居るのか……」


 奇襲を警戒しながら奥へと進んでいく。黒塗の壁やその影に同色の敵が潜んでいると思ったがそんなことはなかった。だが、一歩一歩が重く感じる。意識を逸らして警告音を抑えているのに、それでも耳につく。もし意識全てを向ければ、脳がオーバーヒートして廃人になりかねない。


 そうして慎重に進んでいき……最奥の小高い祭壇に鎮座するそれを見つけてしまった。


「な、なにあれ……?」


 祭壇の上にあったそれは、異形の、形容しがたいモノだった。


「黄金の釘に、黒い心臓……違う、これは肉の繭か!?」


 巨大な黄金の釘を打ち込まれた、真っ黒なぶくぶくと膨れた肉の塊が、紫色の血を流しながら胎動していた。所々にフジツボのような肉の突起が有り、その先端からどす黒い霧のようなものが吹き出している。


 これを生物と言っていいのか?違う。明らかに、何かが決定的に違う。

 俺の中の何かが叫んでいる。これが、コレ其のものが、この世界にあってはならない漂流物だと。


 瞬間、俺の中に鑑定結果が流れ込んできた。


--------------------

Unknown

種族:魔人(半封印)

Lv.909/999(封印の黄金釘により減少中)

異能:歪みの呪い 不滅の悪性

技:なし

加護:なし

称号:【歪みの魔人】【世界の敵(ワールドエネミー)】【勇者殺し】【神殺し】



 亡界にて封じられた邪悪の王。暗き王は歪みの揺り篭から呪いを撒き、再誕の時まで健やかに眠る。



歪みの呪い

 周囲の生物を無差別に歪ませ狂わせる呪いをまき散らす。封印が経年劣化したことにより、綻びから漏れ出した。かかれば死ぬまでその魂は解放されない。


不滅の悪性

 あらゆる傷を自動再生すし、ひとつ残っていればそこから完全再生することができる。半分に切っても二つには増えない。


--------------------

封印の黄金釘

 半神半人の大英雄が自らの宝物すべてを犠牲にして誂えた釘。外見は黄金色だが、内部にはあらゆる宝石、貴金属が溶け込んでいる。対象のLvを-999(下限)まで下げ、能力を皆無にする。この効果は永続ではない。

--------------------


「これが、呪いの元?」

「間違いない、こいつだっ」


 レベルが999で多分上限いっぱいか。……待て待て待て。[封印の黄金釘]で封印されてレベルがマイナス側カンストしたんだろ?で、いま909……おいィ!!!起動中の時限爆弾かよこれ!!


 つまりだ、あれだよ、あれ。攻撃とか表示されないってことは、ぺらっぺらのペーパーマグロ同様、この肉の繭に戦闘力は皆無なわけだ、うん。


 推測するに、元の世界での戦いの果てに大英雄は勝利したが、コイツが持つ[不滅の悪性]のせいで殺しきれなかった。で、苦肉の策で[封印の黄金釘]を作り上げ、ぶっ刺し、ただのキモい肉に変えた。

 釘目当ての盗掘者とかの対策に、大英雄本人か、あるいはその子孫か信奉者か知らんが、赤玉と青玉(キルスフィア)を配置した。で、世界が寿命を迎えて崩壊した後に次元の果てへ漂着し、運悪くこの区画あたりだけが形を保ったまま海底に残った……。…………比較的有り得そうな予測をしてみたわけだが。


「ツキがないってベルじゃねーだろこれェ……」


 この運気を逆ベクトルで活かせよ!!宝くじとかロトとかあるだろ!!


 ……OK、落ち着こう。冷静に対処しないと、ユーディが不安になる。現在進行形で握ってくる手の力が強くなってきてるし。


「どう動くべきか……むー……」


 こいつを始末すれば問題は解決するが、[不滅の悪性]が厄介だ。この大量のおぞましい真っ黒肉の塊を、一片も残さず、再生する間も与えずに消滅(・・)させなくちゃあならない。元の世界の大英雄が不可能だったことをやってのけなきゃいけないわけだ。ひどいチートだよ、全く。俺が言えたことじゃないけどさ。


「どうするの……?なんとかなるの?」

「なんとかなる(・・)んじゃなくて、なんとかする(・・)んだ」


 もし正攻法で攻略する場合、[シンクロ]を用いた火魔法に周囲の酸素と水素を[抽出]しての超火力で、灰も残さず完全に燃やし尽くすあたりが妥当な回答だ。


 だが、こんなところで超威力の大火炎をぶっぱすれば、この真っ黒神殿に用いられた建材にも当然余波でダメージが行き崩落。果て水圧で没する。


 加えて、こんな閉塞空間でそんな真似をすれば、一気に酸素がなくなって死ぬ。二酸化炭素をバラして炭素と酸素にするにしても、そんな瀕死に近い状態で迅速に出来るようなものじゃあない。


 かと言って、酸欠を恐れて加減するのも論外だ。生半端な威力では封印している黄金釘が先に消滅してしまう。肉が少しでも残っていれば、そこから封印が解けた状態で再生されてしまうのだから。


 この閉塞空間で真正面からやりあって生き延びられる相手かどうか……。恐らくは無理だ。頭に響く、アラストルの時を超えるやかましい大音量の警告音がそれを証明している。


 地上へ持ち出して燃やそうにも、黒肉の繭が祭壇とべったりと癒着しているため、肉片を残さずに引き剥がすのは不可能に思える。俺の背丈より少し大きいくらいだが、横幅はドラム缶の倍以上太く、仮に綺麗に剥離できたとしても、地上へ確実に輸送する手段がない。


「燃やす以外でなにかないか……うーむ」

「燃やす以外で……消すのを諦めて、全部凍らせる?」

「……凍らせる、か」


 血を全て抜き取って、凍らせて、仮死状態にしてしまうか?


「……いや、だめだ。[不滅の悪性]が俺の[自己再生]のように、血液まで再生させるかもいれない。アレが俺達を欺くためにあえて今は何もせず、ここを立ち去った後に動き出すということも……」

「それは……うん、だめ、だね」


 ここまでくると、プラナリアのように切った分だけ増えないあたり有情だと思えてきてしまう。大分常識的感覚が麻痺しているような気がした。




 その後しばらく考えるも、有効な手は思いつかなかった。……ただ一つを除いて。


「手詰まり……いや……これは……」

「ねぇ、アレ使う?」


 アレ……そう、道中で言っていた禁じ手の切り札だ。制御失敗すれば死ぬレベルの。


「やっぱそういう結論になるか?だがあれはなぁ……リスクは高い。……が、他に妙案は浮かばないしなぁ……」

「ん、二人でなら、大丈夫。できるよ」


 そうは言いますがねユーディさん、確かに[シンクロ]すりゃあ二人がかりで制御できるわけだから安定性は当然増すだろうけど、それをぶっつけ本番でやるには……。

 ……いや、やめだ。石橋を叩いて叩いて叩き壊して、その上をほふく前進して進みたいが、この状況でそこまでできなければ動かないというのはよろしくない。


 孫子の兵法に『兵は拙速を尊ぶ』と記されている。多少まずい作戦であろうと、迅速に行動し、勝利を掴むことが重要だと。ああだこうだ議論しても、それで負ければ議論の意味がない。

 実際今、ちょうど肉繭のレベルが1上がったし。


 現在進行形で封印が解け用としているモノに対し、悠長に策を練って手遅れになっては元も子もない。クソの役にも立たない政治屋のようなことをしていられないのだ。


「分かった……やるぞ、もし失敗しても、恨まないでくれよ?」

「だいじょぶ。元々の私の命は、ナナにぃにもらったものだし、私の全てはナナにぃのものだから。どうなっても、絶対恨まない」


 そう言って、ユーディは自分の首輪を撫でた。そんなユーディを、俺は思わず真正面から抱きしめた。


「……ほんと、俺にはもったいない良妻だわ」

「あぅ……もったいなくないよ?」

「そこまで言ってくれる伴侶がいるだけでもう感涙モノだよ」


 ギュッと左手を繋ぎ、出入り口まで戻って肉繭に向き直り、目を閉じて意識を集中させる。できるなら、こんな代物を使うのはこれで最後にしたいところだ。そう思いながら、突き出した右手に力と精神を集中させた。


お読み頂きありがとうございました。ユニーク一万達成しました。もう感謝しかないです、はい。

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