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駄策と力技と

ちょっとだけ視点変更が入ります。

 俺達は再び歩き出した。遥か上空では、しぶとくトリ公が旋回を挟みながら追尾してくる。全く、本当にしぶとい、お前はストーカーか!

 そこから数時間、太陽は既に天辺を超えている。最も暑い時間帯だ。


「ナナクサ、グレン、オレモウダメダ……」


 ジークが前で膝をつく。


「もう少し……かんばれない……か……?」

「ナナクサ殿、私も……ぐっ」


 ドサリと、俺の後ろでグレンが槍を持ったまま前のめりに倒れる。つられてか、ジークも場に倒れてしまった。


「ぐ、グレン、ジーク。くそっ……」


 俺ももうダメっぽい。


「ぐっ」


 その場に俺も倒れてしまう。



・・


・・・


2時間前、回想──


「死んだふりしかないな」

「ダナ」

「ですな」


 満場一致。奴を引き寄せる手はそれでいい、問題はその後の対処だ。


「言うまでもなく俺達の体力、精神力共に限界に近い。加えて、相手に隙を与えれば離脱される。チャンスは一度、超短期決戦、一撃で仕留める他ない」


 今でさえ空腹でろくに頭が回らないのだ。これ以上時間をかけても妙案は浮かばないし、疲弊する一方である。


「厄介なのは嘴と爪だ。どちらも肉を引き裂ける強度があると見て間違いないだろう。だが、それだけだ。一撃で仕留めるなら関係ない。俺とジークが降下したトリ公の右足にしがみつき、バランスを崩させる。これで一瞬の隙、そして混乱を与えられる。そこをグレン、お前が仕留めるんだ。確実に」


 確実性を考えるなら、もっと策を詰めるべきだろう。だが、俺達には体力的にも精神的にも余裕はないし、トリ公が危機を察知して俺たちを諦めれば、その瞬間俺達の命運も尽きる。不確定要素を孕んでいたとしても、生き残るには行動に移すしかない。


・・・


・・



 …………倒れること数十分。俺達は息を殺してその時を待つ。


 そして、ついにその時は来た。バサバサと羽ばたき、地に足をつけようとトリ公が。

 ジャリ、と、足が土に触れた音を聞いた瞬間──


「今じゃゴルァーーー!!」

「ウオオオオー!!」


 俺とジークがトリ公の足に掴みかかろうとする。驚愕し、一瞬止まった動き、だが、価千金の一瞬。

 しかしでかいな!直立時だけで見ても俺の背丈と同等か。羽も黒と白が混じってなんかかっこいい。だが関係ない、作戦は続行だ。大きさに関係なく作戦は執り行う、これはあらかじめ決めていた事だ。

 反応して羽ばたき、飛ぼうとするも、先じてジークが足にしがみつく。そして太ももに俺が渡した[ボーンスティレット]を思いっきり突き刺した。


「ゲェーーー!!」


 ジークの体重で姿勢が崩れ、さらに攻撃されたことで焦りが生じているようだ。最大の懸念が不意打ちに対応する時間だったが、その問題はクリアしたと見る。

 俺はジークに続き、同じ足に掴みかかる。ジークの体重はせいぜい30キロ程度だが、今の俺は100キロ近くはある。

 なんせ、リュックの中の薪とペットボトルの隙間に、これでもかってくらい土を詰め込んだからな!!鳥公にバレんように少しずつこっそりってのがめんどかった……。疲弊した中でクソ重いリュックを背負っただけのリターンはよこしてもらわんと困る!!


「グゲッグゲッーーー!?」


 重いか!そうだろう!!重かろう重かろう!!両足なら兎も角、片側だけに130キロの重しをのせて飛行したことはあるまい!翼はこれで封じた!これでテメーは終わりだ!!大人しく食肉になりやがれ!!!




グレン視点


 私は今、非常に緊張している。これほど緊張したのは、最初に狩りに出た時か……いや、あの忌々しい、忌むべき記憶の、あの日と同等か。

 この策、失敗すれば自分の命は愚か、主とジークの命もない。強者との戦いと同じだ。勝者にあるのは栄光、敗者にあるのは死。だが……己以外の命まで背負うということは、ここまでの重責か。

 これまでの狩りは全て単身によるもの。かつての同胞は、常にこの重責を背負ってきたのか……。


「やれ!グレン!!」


 主の声で、はっと現実に引き戻される。

 悩むな、余計なことを考えるな、目の前の狩るべき相手を見ろ。挙動の全てを見逃すな。今できる最高の一撃を!

 槍を構え、投擲体勢を取る。一秒が長い。集中の極地から見るこの世界……。構え、投げ……いや、羽が動いた、奴は飛ぶ!

 僅かに上方に狙いをずらし、風切り音と共に愛用の石槍を頭部へ投擲した。

 当たるその瞬間まで、私は自分の石槍を、そしてその軌道から目を離すことができなかった。




ナナクサ視点


 グレンが構えたと思うと、トリ公が羽ばたこうと動く。まさかこの状態で飛べるのか!?


「な、なんだ!?」


 両翼で風が渦巻く。

 そうか、こいつ風を操るのか!?この巨体で飛行できるのはそういうからくりか!!

 トリ公の生態の一部を理解した瞬間、ヴォン!!という轟音が響く。響いた次の瞬間には、ぶちゃりと、まるで生玉子を床に落とした音を数倍鈍くしたような音。ぐらりとトリ公の体が崩れ、地に伏せた。


「すげぇ……」


 グレンの石槍が鳥公の頭を貫通し、柄の中程で止まっていた。

 投擲で仕留めると聞いたときは、当たるかどうか不安だったが、まさか頭をピンポイントでやるとは思わなかった。威力もさる事ながら、精密なコントロールができなければ不可能な芸当だ。今なら「実はイ○ローの弟です」とか言われても、ノータイムで否定できないかもしれない。


「ナナクサ殿、ジーク!!」


 グレンが駆け寄ってくる。


「大丈夫、無傷だ」

「ナントモナイ」

「では、我らの完全勝利……」

「そう……うん、そうだな!俺達の勝利だ!」

「「ォオオオオオオーーー!!」」


 ジークとグレンが吠えた。起き上がった時からこの間わずか二分。課題は残ったが、俺達の勝利で終わった。




「これより、トリ公のオペを開始する」


 オペというか解体作業。


「しかしでかいな」

「デカイ」

「巨大ですな」


 というよりでかすぎるわ。お前一羽でニワトリ何匹分だよ?どんだけでかいフライドチキンになるんだよ。6Lサイズか?アメリカンだな!!


「兎も角、捌いて内蔵を捨てよう。ジーク、グレン、羽を全部むしってくれ。この羽は何か使えそうだ」

「マカセロ」

「承知」


 その間に忘れていた作業、というより後始末を行う。俺は地面に下ろしたリュックを開ける。


「[抽出]──砂、対象:リュック」


 リュックから砂だけが[抽出]され、中はきれいさっぱり。うむ、元通りだ。


「次いで……[抽出]──鉄。[成形]──鉄串」


 土から鉄分を抽出し、鉄串を20本ほど誂える。

 その後リュックに羽毛を詰め、血液を抽出し、内蔵を除去し、でかい骨付き肉の塊になった。


「当然ながら内蔵も半端なくでかいな……。……後で開けてみるか」


 ワンチャン未消化で何か残っているかもしれない。……まあ、可食部が有ったらラッキー程度に思っておこう。



*



 本日のメインディッシュは、トリ公肉。調味料などございません。小さく切り分けて串に刺し、熱が通りやすいようにした、言ってしまえば焼き鳥である。

 薪持ってきて本当良かった……。あの時の俺の判断は間違っていなかった……。薪の量は有限だ。つまり炎も有限である。出せなくはないが、維持がきつい。

 火を囲むよう肉を刺した鉄串の持ち手を地面に刺して囲み、各々両手に串を持ち、火で炙る。炙られた肉からは、タンパク質の焼ける匂いとともに、ぽたぽたと熱い脂を落としていく。十二分に火が通ったことを確認し、各々手に取る。俺の口内も涎で溢れているのだから、彼ら二人の口内もまた同じ状態であろ負うことは容易に想像できた。


「「「いただきます」」」


 あああ、早くかぶりつきたい。だが待て、焦るな、今この肉は非常に熱い状態だ。このまま口に運べば……。


「アッフ!アッフ!!」


 ……ジークのように口を火傷するだろう。だからまだ少し耐えなければならない。しかしながらそれは拷問。腹の虫が、早くよこせ、早くよこせと暴れ、脳に訴える。抑えるだけで精神がガリガリ削られる。

 ふーふーと息を吹き、ほどよく冷めたことを確認し、肉にかじりついた。


「んんっ……」


 ああ、肉だ……。ちょいと臭みがあり、硬い肉質だが、些細なことである。肉が食える、それだけで今は幸福なのだ。欲を言えば塩、醤油ダレが欲しい。そしてできれば炭火で焼きたかった。しかし無いものねだりしてもどうにかなるものではない。今はただ、ひたすら焼いて、ひたすら食うだけだ。明日を生きるためにッ。



*



「ウマカッタ……」

「鰐や魚とはまた違った味……美味かった……」


 こいつら生焼けでもいいから食おうとしていたので必死になってやめさせた。生の鶏肉にはカンビロバクターがいる。少ない個体数で発症する碌でもないウィルスである。同様のやつがこの世界にもいるかもしれないと思うと、しっかり焼かねば後が恐ろしい。


 ちなみに俺はかつて、親子丼を食ってカンビロに当たった事がある。火の通りが甘い肉を、「まあ、このくらいいだろう」という甘い考えで食ったのが最大の敗因である。その後の腹痛は洒落にならないものであり、体が冷たくなっていくのを実感しつつ、トイレで死を覚悟した……。


 ゴブリンやリザーディアは生でも平気かもしれないが、もしそうでない場合、こんな場所で行動不能になられては冗談抜きに命に関わる……けど、火の通りが甘いやつも食ってるんだろうなぁ、気づかないうちに。俺も多分……。薪を木炭に加工しておけばよかったと今更ながらに思う。遠赤なんとか効果だったかなんだったか……あれで中まで熱がしっかり通るんだよな。今度余裕が出来た時に出来るか実験しておこう……。


「ほれ、まだ肉は残ってるんだ。全部焼いちまうぞ」

「オー」

「あの内臓はどうされるので?」


 ……忘れてた。肉の魔力って恐ろしい。


「ドースルンダ?」

「いやな、あの体を維持するには、かなりの量を食わなきゃならんだろ?……変なもんまで腹に溜まっているのかもってな」


 というわけで、胃袋を割ってみた。


「「「………………はぁ?」」」


 意外、出てきたものは長さ10cm程度の銀色の鍵だった。もし知的生命体、人間っぽいのまで捕食しているんだったら、身につけている装飾品が残留しているかもしれないと思っていた。ジークとグレンは多分何もないと考えていたのだろう。


「なんだかなー……」


 若干酸化してくすんだ、アンティーク感漂う鍵。指輪ならまだわかる。誤飲したんだろうって解釈できるが、何を思ってこんなでかい鍵を飲み込んだのか、理解不能だ。


「とりあえず……取っておくか」


 [くすんだ銀の鍵]を手に入れた。


 バラした内蔵は新たな肉をおびき寄せる餌として放置しておく事にした。


「んじゃ、次」


 次、骨の再利用。そこそこの武器を作りたい。今の武器が石槍と[ボーンスティレット]というのは少々心もとない。うん、[太くて硬くて長い木の杭]と[ゴブリンバット]は肉を焼くために犠牲になったのだ。よって穴埋めのために、代わりの武器を用意するわけだ。

 結構な量の骨だったので、とりあえず棒状にガチガチに固めることにした。刀剣のように刀身を鍛えることはできず、であれば必然、武器は鈍器になるのだった。


「おっし、できた」


 見事な白い鈍器が出来上がった。硬度は木材よりも高い。名づけて、[ゴブリンバット2]!……こんなところか。


--------------------

ゴブリンバット2

分類:鈍器

威力:E

強度:E

巨大鳥の骨から作られた鈍器。先代ゴブリンバットよりはマシだ。

???の因子を持つ。

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 さて、遠距離からの攻撃手段も考えないとな。グレンの投擲は確かにすごい。だが、もしも狙いが外れてしまった場合を考えると……。この中で遠距離攻撃の手段を用意できるのは、俺だけだ。ノーコンでも当てられる遠距離攻撃手段を確立させることができれば、安全に、ワンサイドゲームで狩ることができるはずだ。


「思いつく限り試してみるか。まずは砂を使って……」


 3交代で周囲を警戒しながら、試行錯誤を繰り返す。

 こうして満たされた夜は更けていく……。



ナナクサ「もうちょっと見せ場作れんの?」

作者「さーせん、次頑張る」

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